原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会:事故リスクのコスト

『原子力資料情報室通信』第450号(2011/12/1)より

原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会:事故リスクのコスト

※記載の図に誤植がありました。お詫びして訂正いたします。

 原子力委員会が設置した原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(以下、技術小委)が事故リスクのコストを算出した。これは、国家戦略室のコスト検証委員会の依頼によるものだ。依頼は、事故リスクと核燃料サイクルコストの二つであるが、ここでは事故リスクについて報告したい。

 結論からいうと事故リスクのコストは算出できなかった! 委員会の報告を見れば、確かに計算結果の表が掲げられているが、それは最小のものだ。今後増えていくとの注釈付き結論だ。これでは依頼にこたえたとは言えない。とはいえ、あたかも事故リスクのコストが計算されたかのような装いで、数値が一人歩きするとすれば(そうなりそうだが)、これは大きな誤解を招き、判断を誤ることになる。

 その可能性に対抗するために、筆者は独自の試算を行ない意見書として提出した。この意見書が出た事実が報告書まとめ案に書き込まれた。この試算はそれなりに大きく報道された。マスコミ各社が原子力委員会側の評価結果があまりにも現実離れしているとの印象を持ったからだろう。

 この試算は第17回原子力委員会に提出された日本経済研究センターの事故処理費用の推計の最大値20兆円(20?圏内の土地買い上げ費用+所得補償+廃炉費用)に広域除染費用を推定したものだ。広域除染費用は1ミリシーベルト以下にするという政府の方針を受けて、文科省が発表している汚染マップから除染すべきエリアを2,000km2とし、飯舘村の除染計画3224億円と同村の面積230km2から求めた。結果は48兆円となった。そうとう粗い見積もりだが、政府の方針通りに除染すれば広範囲になる、除染費用以外にも観光影響への補償や自主避難費用などなど算定するべき費用項目がまだまだあることから、不当に高いこともないだろうと推量した。現実に起きた事故を考える参考とする趣旨から地域特性は考えていない。

 事故リスクは損害額と事故確率の積で求められる。これまで原子力を推進している人たちは、事故リスクというと事故確率だけを問題にし、確率が極めて小さいとの評価のもと、損害額を含める議論を避けてきた。かつて、北海道庁が設置したプルサーマル計画に関する有識者検討会議に招かれたとき、事故リスクは損害額×事故確率だから、双方を評価して道民にはかるべきとの意見を述べた(2008年)が、確率が少ないということで損害額は検討されなかった。

 事故リスクのコストは、損害額×事故確率÷発電電力量で求められ、円/kWhという結果となる。120万キロワットの原発を建設した場合のコストになるので、発電電力量は単純に計算できる。コスト検証委員会からは、設備利用率を60%、70%、80%の3パターンで表記するように求められている。問題となるのは、損害額と事故確率だ。

 損害額は、公表された数値を参考することにし、含まれていない費用があることを明記することになった。具体的には「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の報告書(2011年10月)に基づく5.7兆円が採用された。コスト等検証委員会からの依頼事項は、「将来顕在化する可能性のあるコストを算出する必要があります」となっているのに、正面からの回答を避けたことになる。依頼事項を意識して、費用が1兆円増すごとの追加コストを書くことで済ませた。このことに筆者は違和感を覚えたが、同時に将来費用の推定を、原子力を推進してきた人たちが行なうことへの疑問も強かった。あの手この手を使って、極力低く見積もろうとするからだ。

 この5.7兆円はいったん出力案分や福島県のケースを全国平均化する作業が行なわれたが、出力案分については、技術小委や新大綱策定会議で必ずしも出力案分は妥当でないとの意見が出た結果、一部だけを出力案分し、5兆円で評価することになった。

 事故確率は議論が激突したところだ。山名元委員はIAEAの安全目標をもとに10万分の1の確率を主張した。筆者は既存原発が運転継続されるとすれば、これは採用できないと反論し、現実に起きた福島原発事故を事例とするべきと主張した。500炉年に1回という結果である。山名元委員は、なおも運転再開する原発は安全対策が強化されているはずだから、強化されなければ動かないのだから、10万分の1で評価し、500炉年に1度は付記する事項とするべきと主張した。田中知委員からは世界の実績で評価する意見も出されたが、筆者はなおもこれらに抵抗した。松村敏弘委員は保険の観点から、500炉年に1度は決して高い数値ではないとの意見が出て、元の両論併記案が最終的に採用されて、11月10日の原子力委員会でこれが了承された。結果を表にまとめた。しかしあくまでもこれは最少のリスクであることを明記しておきたい。
 後は、コスト等検証委員会での判断に委ねたい。ただ、東電が前年度の決算時までに支出した費用がどのような扱いになっているのか、チェックするべきことが残っているので、課題とし、今後の小委員会での話題にしていきたい。

(伴英幸)

 

 

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