東北電力・地震停止した女川原発についての報告書

東北電力・地震停止した女川原発についての報告書

 8月16日の宮城県沖地震(マグニチュード7.2)で女川原発の3基の原子炉が自動停止したことに関連して、11月25日に東北電力は「女川原子力発電所における宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価について」と題する報告書を原子力安全・保安院に提出した。
www.tohoku-epco.co.jp/whats/news/2005/51125a1.htm

 これは、8月16日の宮城県沖地震で、はぎとり波の解析の結果、最大加速度が設計用地震動S1(弾性設計用)を上回ったうえに、岩盤の応答スペクトルが短周期側の広い範囲で設計用地震動S2(塑性変形評価用)の応答スペクトルを超えたことについて、9月2日に保安院が出した指示に対する東北電力からの回答の第一段にあたる。

 報告書では、応答スペクトルがS2を超えたことに対する要因分析のほか、いくつかの模擬地震動を作成し、女川2号炉(沸騰水型炉、82.5万キロワット)の建屋や機器の耐震性評価を行なっている。今回起きた地震をS1作成時の考慮対象地震として、それを完全に包絡するS1地震動を作成し直して、機器での発生応力が弾性範囲にあるかどうか真っ先にチェックすべきだと思うのだが、東北電力はそれを避けている。

 「安全確認用地震動」という模擬地震動を作成し、この時発生する応力がS2に対応する許容応力値を超えなかったから安全だと東北電力は主張しているが、S1に対応する許容応力でみると原子炉圧力容器、再循環系配管、主蒸気系配管、残留熱除去系配管で大きく超えて、大きく変形することを意味している。上記のような意味でこれはむしろS1地震動に近いものであり、原発の使用を禁止とすべきであろう。

 また、上記の模擬地震動のうちスラブ内地震の地震動を作成する過程であきらかになったことだが、2003年5月26日宮城県沖地震(マグニチュード7.1)のはぎとり波の応答スペクトルが短周期側でS1およびS2の遠距離のものを超えており、S2の近距離のものにほとんど迫っていた。この地震では当時運転中の女川3号炉(沸騰水型炉、82.5万キロワット)が地震の揺れによって自動停止した。設計基準を超える地震が起きていたにもかかわらず、2年以上放置されていたことになる。

 保安院は提出された資料を総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会の耐震・構造設計小委員会で検討した上で評価を下すとしていたが、12月22日に同小委員会(第3回)は東北電力の報告書を妥当とし、女川2号機から再開を認める判断を下した。

 安全審査で想定している地震を超える揺れが女川原発を襲ったことについて、東北電力も保安院も、その重大さを十分理解できていない(あるいは、あまりの深刻さに身動きがとれないのであろうか)。地震の想定の仕方自体にあやまりがあることが実証された8・16宮城県沖地震に対して、女川の地域固有の問題でしかないようにすませることには根拠がない。日本中の原発がこの不十分なやり方で審査されてきたのである。

 また、地震時に機器や配管などにかかる力について、許容基準以下であるから「安全は確保される」と判断しているが、はたしてそれで十分であろうか。弾性設計(S1地震動)においては、今回の地震で設計を上回る加速度が発生した。塑性変形評価(S2地震動)においては、剛構造とされている原発の機器・構造物への影響が大きいと考えられる固有周期(あるいは周波数)領域で、大きく想定がくずれた。本来ならこれをさらに上回る地震を想定しておかなけれ
ばならなかったのであるが、それが達成できていなかったのである。

 耐震・構造設計小委員会の議論では、これら安全審査にかかわることが全く議論されなかった。設計上想定されていないものに対して、安全性のお墨付きを与えるというのは、ダブルスタンダードもいいところであり、まったく合理性に欠けている。

 そして、上述のように、「安全性確認地震動」というものを作成してS2の基準で、機器などにかかる力を評価しているが、これは実際にはS1に近いものとして扱うべきである。ゆがんだり曲がったりしてはいけない機器・配管にたいして、裂けたり破れたりしていないから大丈夫だ、といっているようなものである。

『原子力資料情報室通信』379号(2006.1.1)短信を加筆改稿(CNIC EXPRESS 0098)

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