「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(案)」意見募集に意見を

「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(案)」意見募集
www.nsc.go.jp/box/bosyu060523/youkou_taishin.html
に意見を

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原子力安全委員会が「耐震設計審査指針(案)」に対する意見募集を行っています。
募集期間は5月24日~6月22日。
www.nsc.go.jp/box/bosyu060523/youkou_taishin.html

原発の耐震性が焦点となるなか、ぜひ多くのコメントをお願いします。

参考として、指針案の問題点に関する論点整理などを下に掲載します。

→耐震指針検討分科会など議事資料
www.nsc.go.jp/siryo/siryo.htm

原発耐震設計審査指針案意見募集に対する意見・意見案
cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=393

山口幸夫(共同代表)「原発の新しい耐震指針案-どう考える?-」
cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=380

→原子力資料情報室・地震関係記事
cnic.jp/modules/news/index.php?storytopic=17

参考:
長沢啓行氏(若狭ネット)
新しい「耐震設計審査指針(案)」は「自然の摂理」に耐えられるか?
www4.ocn.ne.jp/~wakasant/
www4.ocn.ne.jp/~wakasant/news/98/98-3.pdf
www4.ocn.ne.jp/~wakasant/news/98/98-4.pdf
www4.ocn.ne.jp/~wakasant/news/98/98-5.pdf

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■改訂案の特徴

末田一秀( homepage3.nifty.com/ksueda/ )

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①考慮する直下地震の大きさ
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現行指針:直下地震マグニチュード6.5(M6.5)を想定

改訂案 :M6.5は廃止。「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を過去の観測記録などから基準地震動として設定する。

問題点 :鳥取県西部地震(2000年)はM7.3の地殻内地震ですが、活断層は事前に把握されていませんでした。「震源を特定せず策定する地震動」は補完的とされていますが、事前に震源を特定できない場合も重要です。その値が改訂案では廃止され、電力業界が自主的に判断することになったのは問題

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②考慮する活断層
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現行指針:5万年前以降活動した断層

改訂案 :「約13万年前以降の活動が否定できないもの」と拡大

問題点 :いくつかの活断層が連動する可能性は考慮せず

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③基準となる地震動
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現行指針:「設計用最強地震」がもたらす地震動S1と「設計用限界地震」がもたらす地震動S2を設定

改訂案 :S1、S2を廃止し、基準地震動Ssを設定。Ssをもとに「弾性設計用地震動」Sdを設定

問題点 :SdはSsのα倍で、αの値は0.5を下回らない程度に電力会社が自主的に設定できる。ここでも審査の裁量に委ねられる範囲が拡大している。

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④原子炉を設置する地盤
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現行指針:重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならない。

改訂案 :建物・構築物は、十分な支持性能を持つ地盤に設置されなければならない。 

問題点 :全ての建物・構築物に範囲は拡大されたが、岩盤でなくてもよいとされた。

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⑤地震随伴事象への考慮
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改訂案 :施設周辺斜面の崩落や津波の影響の考慮を求める。 

問題点 :耐震指針検討分科会報告書では、審査で出された次の意見が明記されているが、ほとんど反映されず。
① 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な地震時地殻変動(特に地震に伴う隆起・沈降)に起因する地盤の変形によっても、施設の安全機能が損なわれないこと。
② 検討用地震に随伴すると想定することが適切な余震の地震動によっても、施設の安全機能が損なわれないこと。
③ 地震時に発生する可能性のある次の諸事象が、発電所の重大な事故の誘因とならないことを確認する。また、その安全性を評価する場合には、その事象の発生の可能性を考慮すること。
・発電所に繋がる送電線および、関連する送電網の状態
・冷却水(補助的工業用水を含む)の供給の安定性
・周辺の都市火災、およびそれに起因する煙、ガスの影響
・近接する化学プラントなどからの、可燃性ガス、毒性ガスの発電所、および、その従業員への影響
・上流にあるダムの崩壊の影響(地震に起因する堰止湖を含む)
④ 周辺人工物の地震による損傷に基づく、間接的影響、すなわち、火災、毒性ガス、爆発性ガスなどの影響を、評価しなければならない。
⑤ 地震による損傷は、共通事象、同時多発的である。従って、単一事象としては、対策がとられていても、必要に応じ、同時多発の可能性のあることを認識して、その対策を考えなければならない。

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⑥「残余のリスク」の導入
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改訂案 :策定された地震動を上回る地震動により、施設や周辺公衆に放射線被曝による災害を及ぼすリスクの存在を認める。

問題点 :残余のリスクを確率論に基づき定量的に求める手法は採用せず。

■提出意見例

 (上記の改訂案の特徴の○数字に対応)

①耐震指針検討分科会で出された、直下でマグニチュード7クラスの内陸地震が起こりうることを初期設定とする考え方を採用すべきである。
②③地震規模の想定や基準地震動の想定に伴う不確かさについて、全ての申請でその検討状況の記述を義務付け、審査すべきである。
④全ての建物・構築物は岩盤に支持させるべき。
④建物・構築物を設置する地盤の地震動増幅特性の審査基準を設けるべき。
⑤地震随伴事象として、地震時地殻変動(特に地震に伴う隆起・沈降)に起因する地盤の変形、余震の地震動、発電所に繋がる送電線等の部会報告書に明記された事象についても考慮すべき。
⑥「耐震指針検討分科会の見解」で求められている残余のリスクの定量的な評価の試行的実施を、全ての申請で行わせ評価すべきである。

以上

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耐震設計審査指針 改定案批判
2006.6.16 湯浅 欽史

◆ 剛構造の削除
現行指針で[1.はしがき][2.適用範囲]に続く[3.基本方針]に規定されていた、剛構造の規定が削除された。1995年兵庫県南部地震-2000年鳥取県西部地震-2004年新潟県中越地震-2005年福岡県西方沖地震、そして昨年8.16宮城県沖地震と、これまで予測されてこなかった地域において、大地震が発生し、大きな災害をもたらしてきた。原子力発電所は、ひとたび破壊や損傷に見舞われるならば、計り知れない災害を広い範囲に世代をこえた長期間にわたってもたらす。国ならびに電力会社は耐震設計審査指針の強化を迫られ、 “高度化”を掲げて2001年7月から改訂作業が着手された。改定案に添付された「見解」にも「兵庫県南部地震は、原子力施設に特段の影響を及ぼしたものではなかったが、・・耐震安全性に対する信頼性を一層向上させるためのたゆまぬ努力の必要性を改めて強く認識させるものであった」と記されている。改訂作業に臨む基本的姿勢は、25年間の科学的知見と技術的進展を指針強化のために取り入れることにあったはずで、それらを毫も指針緩和に利用してはならない。

剛構造規定を万一緩和しようとするのであるならば、少なくとも具体的な根拠が示されなければならない。しかし剛構造規定を緩和する理由としては、「見解」中に「免震構造等に関する設計進歩は著しく、その具体的な適用が一般化しており、その有効性が認められるものとなっている」と、抽象的な表現にとどまっている。審議過程においては、第8回分科会に「原子力施設における免震構造の適用事例について―東海事業所 再処理ユーティリティー施設―」[8-5-3]が報告されただけであった。先行事例の報告は、「もし剛構造の規定が削除されれば、このような設計も可能になる」という、削除をしてよい根拠ではなくて、削除された場合に採用される設計手法の可能性を示唆するものであり、削除するための必要条件ではあっても、十分条件ではない。

それどころか最終回に欠席した柴田碧委員の提出文書[3-2-2]には、「近来の耐震設計用解析技術の発展は、解析値の精度向上に寄与することが大である。しかし、精度の向上は、一般に裕度を減じている」と指摘されている。上に記した改訂作業のあるべき姿勢からするなら、剛構造の削除に際して、真摯に受け止められねばならない指摘であった。

◆ 岩盤支持の削除
岩盤支持の削除も剛構造の削除と同じ問題を孕んでいる。「解説」にはその理由として「「岩盤」に支持させなくとも十分な対震安全性を確保することが可能である」とのみ記されている。「××でもよい」と「××の方がよい」とは論理としては別言明であり、削除する(方がよい)根拠ではありえない。前項で引用したように、強化を迫られて開始された改訂作業の立脚点を逸脱するものである。審議過程で石橋克彦委員[33-3]から、「岩盤その他」を削った代わりに、「地震働の増幅が小さく」を加える修正が示され、[36-2]でも言及された。このように表層地盤がもつ地震動の増幅特性には十分配慮する必要があるのでその旨基本方針に明記するよう、再三にわたって発言があり、他の委員からの賛意は表明されても反対の意見表明はなされなかった。それにもかかわらず増幅特性への配慮の必要は事務局案の文章化過程で落され、しかも、採用に至らなかった個別意見を集録することにしていた「見解」にもとどめられず、石橋委員からの意見表明があった事実そのものが無視されている。

耐震指針の基本方針に岩盤支持が求められてきたのは、静的な支持力が確保されるためだけではない。同程度の規模の地震がサイトに到達してもたらす地震動は、一般的に硬い(せん断波速度が大きい)地盤では増幅する恐れが少ないためである。もし岩盤支持規定を外すのであれば、少なくともサイトの地震動増幅特性については十二分の配慮が必要である。石橋委員の指摘は地震学(特に地震波の伝播の性質)にとって、初歩的かつ基本的な要請であった。その指摘を無視した岩盤支持規定の削除は、施設地盤の明確な弱体化をもたらすことになる。今回の改訂が安全性を切り下げている、大きな問題点である。

◆ “適切に”の多用
世上で言われている規制緩和の風潮が、今回の改訂案では”適切に”との表現の多用をもたらしているように思われる。審査規定を具体的に記載する方式(method specified method、仕様規定ともいう)から、抽象的に安全目標を謳うだけで安全確保のためになすべきことを申請者ないし民間の学協会技術基準等に委ねる方式(end specified method、性能規定ともいう)への移行を印象づけるものとなっている。その流れの現われとして”適切に”表現が多用されている。

本文および解説中の該当個所を列記してみよう。(・・は引用省略部分)
1.はしがき :本指針は、・・適切に反映するよう見直される必要がある
3.基本方針 :施設は、・・適切な地震動による地震力に対して、その安全機能が・・ :施設は、・・適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるよう・・ 
5.基準地震動の策定 :基準地震動は・・施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切なものとして策定しなければならない
(2)③ⅰ) :検討用地震ごとに、・・地震動特性を適切に考慮して地震動評価を行うこと 
(2)③ⅱ) :検討用地震ごとに、適切な手法を用いて震源パラメータを設定し、・・
(2)④ :・・Ssの策定過程に伴う不確かさについては、適切な手法を用いて評価すること
(3) :・・地震動特性を適切に考慮して基準地震動Ssを策定することとする
(解説)Ⅱ(3)④:・・不確かさの要因及びその大きさの程度を十分踏まえつつ、適切な手法を用いる・・
(4)① :敷地近傍の範囲は、・・適切に設定することとする
③ :断層の性状については、・・適切に評価すべきである
④ :・・地震規模を想定する際には、・・地震規模を適切に評価することとする
⑤ :・・十分に得られなかった場合には、・・不確かさの考慮を適切に行うこととする
6.(2)① :Ssによる地震力は、・・水平方向及び鉛直方向について適切に組み合わせたもの・・
(2)② :Sdによる地震力は、・・水平方向及び鉛直方向について適切に組み合わせたもの・・
(解説)Ⅲ(3) :・・Sdによる地震力を地震応答解析に基づいて算定する場合には、・・適切な解析法を選定するとともに、十分な調査に基づく適切な解析条件を設定することとする
Ⅲ(4)①ⅰ):適切に基盤面を設定し、(水平地震力の設定に)反映させること
Ⅲ(4)①ⅱ):(Rt)・・安全上適切と認められる規格及び基準その他適切な方法により算出する・・
Ⅲ(4)①ⅱ):(Ai)・・安全上適切と認められる規格及び基準その他適切な方法により算出する・・

以上のような”適切に”表現の多用は、大きな裁量余地を申請者及び審査担当者に委ねるもので、規制緩和・指針緩和の流れを強めるものである。実際の申請書では、申請者の独自の方式というよりも、学協会等の技術基準を参照した旨の記載があることになろうが、協会はそもそも営利業界団体を成立基盤としており、また学界の多くも独立法人の経営・産学協同の推進を通じて、これまで以上に「作ること」にインセンティブをもつようになってきている。「危険だから作らないでおく」という指向は稀で、せいぜい「作るために危険を減らす」努力を期待できるだけである。そして、申請書の安全審査を担当する官の側は、原子力発電を推進する部局の所轄に属している。指針改訂に責任を有する規制部局である安全委員会が、その役割をないがしろにして推進部局の裁量に多くを委ねることは、原発の安全が大きく脅かされることを意味する。

なお、柴田委員は提出文書[42-5-1]において、”不法な接近等”に関する地震随伴事象の不記載に関し、「いずれ、審査にて取り上げられるのだから、記載不要であると言うのは、安全審査部会への、責任転嫁であり、”適切に”の乱用より、なお、指針段階の、責任逃れともいえる」と厳しく批判している。また[43-2-3]においては、「全般に、最新の知見に基づき”適切に”と言う表現が多すぎる。指針としては、審査に全てを転荷したことになる」と指摘している。

◆ 歴史地震/活断層、重視の残渣
冒頭に記したように、現行指針の[歴史的資料+活断層]では予測できなかった地域に大地震が続いたことを受け、四半世紀の地震学の知見を取り入れて、地震発生メカニズムに重点を移すことが求められていた。現行指針は「調べても見付からないものは不存在と断定してよい」との考え方によっている。科学的推論としては、未発見は不存在を意味しないにもかかわらず。地表に断片的に出現した活断層にとどまるのではなく、地下深部の不可視の震源断層の様相をこの間の地震学の知見から推定すること、歴史資料の年代を大きく越えた時間スパンでの地震発生様態を、見掛けの活断層群が「地下で連動する」ことなどにも考慮して、安全側の(可能性が否定できない)大地震発生を指針の基に据えることが求められていた。しかし結果として、現行規定の残渣を引きずって、8.16宮城県沖地震における「大崎の方法」の破綻も曖昧にされたまま、その期待は半ばしか果されなかった。

「震源を特定して」地震動を策定する方針では、検討用地震の選定について、活断層と歴史地震の後に、「さらに地震発生様式等による地震の分類を行った上で」という表現で、地震学的知見を取り入れることになっている。批判の多かった活断層を第一に挙げ、かつ地下の震源断層の推定に不可欠な複数の活断層の連動については直接記載されず、「地形学・地質学・地球物理学的手法等を総合した十分な活断層調査」という抽象的表現である。これでは、改訂の眼目がここでも申請者に委ねられることになり、各所で「推本」を否定する、電力会社の危険な居直りを糾すこを困難にする。

◆ 弾性設計用地震動Sdの規模(αの値)
現行指針では最強地震動S1に対して構造物・機器類を弾性範囲内に収めることを基本とし、念のために限界地震動S2に対しても安全機能を保持することを確かめる。改定案では基準地震動Ssに対して安全機能を損なわないことを基本とした。それに伴って、弾性設計によって構造物の力学的挙動を確認しておく必要が工学の立場から幾度となく主張された。地震学の立場からは、一回り小さい地震はいくらでも存在するので、検討用地震とは独立に策定する理論的根拠に乏しいとの反対が出された。応力-歪関係が線形で構造物の挙動が明確に把握できる弾性状態に比し、弾塑性解析には非線形な物性を定めることに加え、等価線形(割線係数を用いる)か増分法(接線係数を用いる)か、さらに荷重の増加過程と減少過程の繰り返しなど、定式化自体に様々な問題を孕んでいる。分科会の審議過程でも、弾塑性解析への信頼度には委員間に落差が感じられた。

改定案では地震学の主張を容れて、地震の選定と地震動の策定は1種類とし、構造解析には、基準地震動Ssをα倍した弾性設計用地震動Sdを用いることとした。既設原発で設定されているS1とS2の比(S1/S2)の一覧が事務局から資料として提示され、その値は概ね2/3程度の値となっていた。

それにもかかわらず、「めやすとして、0.5を下回らない値で求めることが望ましい」という、規制としては極めて緩い表現が(解説)に記載された。SsがS2を大幅に上回らない限り、上記の剛構造と岩盤支持の項で指摘したと同じく、現行指針を具体的根拠なく緩和したことになる。αの設定値及び設定根拠が、個別申請ごとに明らかにすることを求めているが、逆にいえば申請者の裁量に委ねられており、Sdが規制手段になり得ていない。

◆ 「震源を特定せず」策定する地震動
「予想しないサイトに大地震」が起るのは、地表に表れた活断層を頼りとして地下深部の震源断層を推定しようとするからである。そこで活断層依存からの脱却が改訂の眼目の一つであった。当然のことながら、目にみえる変形を地表に残留させる大地震も残留させない大地震もある。地表に地震断層が出現する地震の規模が推定できれば、その余事象として、地表に地震が出現しない場合に起りうる最大の地震規模が推定できることになる。マグニチュードMに対して地震断層が地表に達する既往地震の出現率をプロットした「武村(1998)のFig.8」に重ねて、「香川ほか(2003c)」の計算値が第17回分科会に提出された[17-4]。それによると、M6.5以下の地震では出現率がゼロに近く、M7.3を超える地震ではほぼ100%の出現率になっている。それゆえ、活断層の痕跡がないサイトでも、M7.3以下の地震ならば発生する可能性があることになる。ちなみに、事前の活断層の有無が問題とされた鳥取県西部地震はM7.3である。

しかるに同じ第17回分科会で紹介された、(社)日本電気協会の報告[17-3]では、活断層と関連づけられるとして多くの地震を除外している。結局M6.6程度の地震観測記録しか用いられておらず、現行指針の直下型M6.5とあまり変らないことになる。第29回分科会で石橋委員から、1994ノースリッジ地震や鳥取県西部地震などを除外し観測記録を限定することに批判があった。改定案では「震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し」とあるだけで、電気協会の手法を排除していない。第17回分科会での石橋委員の意見「いかなるサイトであれ、「直下でM7クラスの内陸地震が起こりうる」ということを「デフォルト(初期設定)」として考えるべきであり、「最近のMj6.8~7.3程度の内陸地震の震源近傍の観測記録に基づき、敷地の地盤物性に応じた地震働として設定する」は無視され、「見解」にも触れられていない。

「存在すると予断をもって調べたら見付かった」鳥取西部地震の二の舞を防ぐには、石橋委員の意見を取り入れるか、少なくとも(解説)において「武村(1998)のFig.8」に触れておくべきである。

◆ 共通事象・同時多発性
原発の設計では”多重防護”が強調されていて、万一ある装置等に故障・事故等が発生しても、それをカバーして事故が進展しないようになっている、といわれてきた。しかし、地震時には安全装置を含む複数の装置・機器類が同時に損傷を被る恐れがあり、なおかつ、外部電源の喪失やサイト周辺の交通麻痺等の状況もあって、にわかに機能不全の修復に対応できない状況が懸念される。地震時に原発の安全が確保されるためには、複数の装置・機器類が共通事象として同時多発的に損傷を受ける事態を想定して設計しておくだけでなく、敷地外部と遮断される事態を想定して方策を準備しておかなければならない。

審議過程においても、このことは再三指摘されてきている。柴田委員は文書[41-3-2]で「・・平常時には、十分に、対策がされているが、地震時において、非常用諸システムの共通損傷モードとしての、考慮が必要と思われる」と指摘している。さらに文書[42-5-1]で同委員は「地震による損傷は、共通事象、同時多発的である。従って、単一事象としては、対策がとられていても、必要に応じ、同時多発的の可能性のあることを認識して、その対策を考えなければならない」との文言を、本文もしくは解説に加えることを提案した。そして事務局による報告書[43-3]にも「地震時随伴事象について・・以下のような具体的な案が追加的に出された」として、⑤共通事象、同時多発性、が記されている。しかるに指針(案)では、本文にも(解説)にも削除され、かつ、採用されなかった意見を記載することとしていた「見解」にも脱落している。

◆ 「残余のリスク」
ある意味では、今後なされるであろう指針改訂を視野に入れるなら、今次改定案の最大の問題点が「残余のリスク」である。

分科会審議の前半では、確率論的手法によるリスクの定量的評価の導入に向けて、多くの回数を重ねた。しかし、その手法の成熟度、信頼性に関して委員間に落差があり、かつ目標数値のイメージに10-4~10-8と大きな幅があった。改定案では”残余のリスク”の存在だけを(解説)で確認し、基準地震動の策定過程に伴う不確かさがどの程度の超過確率に相当するか参照することを義務づけ、試行的実施から本格導入への道を拓くにとどまった。

柴田委員は文書[41-3-3]で、「最近、残余のリスクの具体的値について、各人の印象がバラバラであることに気付いた。極めて、観念的に受け止めている場合から、E-04程度を念頭に置いている場合、小生のように、E-08程度と受け止めている例などがある」「”残余のリスクを、定量的に評価する”ことは、現在では、準備が整っていない。従って、定性的な、努力目標に留まらざるを得ない」と指摘している。

そもそもリスクという概念は、便益と被害を同一人が得る場合にしか成立しない、統治者にとって適合的なものである。自由意志で甘受する放射能被ばくの場合には、例えばX線診断の照射量の設定には、治療方針を明確にできる利益と癌化の危険性とを比較考量するために、自己の選択責任において確率論的リスク評価が用いられよう。国あるいは電力会社の便益のために、住民を犠牲にする施策の合理性をリスク論で評価することが許されてはならない。私たちの体験からするならば、原子力発電所の想定事故の超過確率をいくらに設定しておけば、チェルノブイリの災害を全世界の人々に受容させることができると言うのであろうか。