六ヶ所再処理工場化学試験結果とウラン試験の概要

六ヶ所再処理工場化学試験結果とウラン試験の概要

『原子力資料情報室通信』359号より

 日本原燃は六ヶ所再処理工場の化学試験を昨年末で終了し、2004年2月4日、ウラン試験計画書、ウラン試験要領書を原子力安全・保安院に提出している。保安規定については、品質保証について追加した改訂版を3月17日に出し直した。これは現在、審査中だ(4月20日現在)。

すでに情報は非公開

 ウラン試験に先立つ『化学試験の結果報告書』は1月22日に原子力安全・保安院に報告され、概要が公表されている。私たちは保安院に対して、報告書の概要でなく全体の公開を求めているが、ウラン試験が開始されているはずの現在でも、マスキング作業を理由に、公開されていない。

 報告書はいつか公開される訳だが、主要工程のほとんどは、マスキングされた真っ白いページだけだろう。核物質防護や企業秘密を理由に情報開示が制限されると懸念してきたが、プルトニウム生産工場では、施設の試験運転結果さえ、すでに厚いベールに包まれている。化学試験でどんな不具合や不適合があったのか、私たち市民には何も具体的に知らされないまま、保安院は試験結果を妥当とし、ウラン試験への移行を認めようとしている。六ヶ所再処理工場の実態は、市民の目から完全に隔離されている。

化学試験結果(概要)

 公表されている化学試験結果(概要)によれば、化学試験中確認された不適合は307件、うち化学試験に係る不適合は79件、化学試験に直接関係しない不適合は228件である。化学試験に係る79件のうち保安上重要な不適合事項はないが、再試験が必要なものは33件で、31件は再試験が行なわれた。しかし第2酸回収系の蒸発缶の抜き出し配管の改造はウラン試験開始までに、臨界安全に係る施錠弁のソフトウエアの改造はアクティブ試験前までに再試験を行なうということで保安院に了承されている。この施錠弁のソフトウェアは、各建屋と分析建屋との関係で施錠管理を行なうもので、相当な改造時間を要するようだ。これを改造・再試験せずにウラン試験を行なうということは、工程上この施錠弁をバイパスするわけで、安全上重要な問題となる可能性がある。改造工事が終了しないまま、スケジュール優先で何しろウラン試験に入ろうとする日本原燃の態度や、ウラン試験に臨界安全は関係ないという保安院の対応は、再処理工場の危険性を完全に軽視したものだ。

 一方、化学試験に直接関係しないとされる228件にも、保安上重要な不適合事項に分類されたものがある。前処理建屋溶解槽ベッセル部温度計の誤設置で、配管図面から計装アレンジメント図への転記ミスが原因だった。これは図面確認でも、さらに据え付け・外観検査でも発見されなかったもので、施設の健全性にはなお多くの問題があると考えられる。

ウラン試験の概要

 ウラン試験がどのように行なわれるのか、公開情報を整理する。日本原燃によると、ウラン試験は原則的には各建屋で、現在の予定では2004年4月(?)から2005年3月まで実施される。アクティブ試験に入るまえに、全建屋を統合した形で、負圧の確認試験(総合確認試験)が行なわれる。

 試験中使用される劣化ウランは、アメリカから輸入されたウラン粉末で約26トン、模擬ウラン燃料集合体で27トン、全体で53トンである。六ヶ所工場は年間約800トン、1日約4トンの処理能力なので、53トンのウランが約1年間、各建屋で断続的に繰り返し使用される。他にウラン標準試料を用いて、分析機器の校正が行なわれる。

 試験が各建屋ごとに行なわれるため、試験中のウランの流れは、実際の再処理の工程とは違う流れがあり、ウラン試験のための特別な配管・設備等が設置される(図参照)。

ウラン試験

1)剪断・溶解建屋では、劣化ウランで作られた模擬ウラン燃料集合体(PWR48体、BWR59体)を、剪断設備、溶解設備で使用する。使用済み燃料は実際は燃料貯蔵プールから移送されるが、ウラン試験では剪断機の保守セルから吊り入れて剪断される。

2)分離建屋や精製建屋では、ウラン硝酸溶液が扱われる。しかし試験当初は剪断・溶解工程から溶液が送られてこない。そのため、ウラン脱硝建屋にあるUO3溶解槽にウラン粉末を入れ、少しずつウランを溶解して硝酸ウラニル溶液を作り、図中の点線で示された仮設配管を使って、ウラン脱硝建屋→(仮設配管)→分離建屋→(仮設配管)→精製建屋へと、実際の工程の逆送を行なう。ここで使用されるUO3溶解槽は、製品仕様に合わない粉(ステップアウト)ができたときにもう一度溶かすための小さな溶解槽だ。

3)計画では粉末ウラン26トンのうち、まず12トン分の硝酸溶液を分離施設に、次に精製施設に12トン分、更に2トン分の溶液をウラン・プルトニウム混合脱硝建屋に送る。それぞれの建屋のなかで、送られた硝酸ウラン溶液を使って試験を行なう。そのため各建屋には、建屋内の工程の最後をもう一度最初の部分へ移送する仮配管・設備等が設置される。

4)スケジュールとしては、硝酸溶液をつくる関係から硝酸建屋から試験が開始され、各建屋ごとに、機器、単体、系統、さらにいくつかの系統同志をつなげて、性能・機能確認が行なわれる(建屋全体として処理能力の、±20%)。

5)最後に統合確認試験として、換気設備の負圧調整、排気口の風量確認を行なう。ウラン試験中は、セル、塔槽類、機器類に、補修や確認のため開口部があったり、仮蓋が取り付けられているが、総合確認試験の前に、セル閉止、塔槽類は溶接して閉じ施設全体の負圧を確認する。さらに廃液の海洋放出量の確認も行なわれる。

なぜ再処理なのかが問われている

 六ヶ所再処理工場は、燃料プール漏洩事故を契機に、施設の健全性自体に多くの欠陥のあることが明らかになっている。ウラン試験では、原燃の責任で仮設の設備・配管等が設置される。アクティブ試験前には、この仮設設備は撤去され使用前検査を受けることになっているが、この設置・撤去作業が確実に行なわれるのか、誰もが不審に思うだろう。保安院や安全委員会も、「様々なトラブルの発生は避けえない」とさかんに指摘し、試験が順調にいかない時の言い訳をしている。試験期間も補修・改修の日程がほとんど含まれていない、過密なものである。「トラブルの避けえない」施設を、どうやって放棄するのか、議論を始めるべきだ。(澤井正子)

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。