新規制基準に関しての申し入れについての個人的メモ(西尾漠)

 6月24日、原子力資料情報室は、原水爆禁止日本国民会議と共に原子力規制委員会に対する「新規制基準に関しての申し入れ」を行ないました。申し入れ書は、別添(新規制基準に関しての申入書)の通りです。

 規制委員会側は、事務局の原子力規制庁が申し入れに対して回答しました。委員会への申し入れに事務局が回答するのを認めるかどうかは、難しい問題です。委員会の配布資料でも、多くの資料が委員会でなく規制庁の名前で出されていることを、個人的には大いに疑問視しています。

 とはいえ、規制庁の回答によって委員会の考えを知ることができたのも事実です。回答ではなく委員会の考えを説明してもらったと受け止めればよいのでしょうか。ここでは、そのいくつかを紹介しておきたいと思います。

 「再稼働」に係る審査の信頼性について、「規制の虜」になっていた原子力安全・保安院からの移籍者たちが審査するのでよいのかという問いには、審査能力のある者は旧保安院とJNES(原子力安全基盤機構)にしかいないという≪率直な≫回答がありました。審査の結果は、原子力規制委員会の委員も加わった公開の評価会議で行ない、委員が審査結果をチェックすることになるだろうとのことでした。

 原子炉立地審査指針については、原発から距離を取ることで安全性を担保する考えから方針を変えているので「使わない」との説明でした。

 もともとは旧原子力委員会が定め、原子力安全委員会に引き継がれていた立地審査指針は、格納容器からの放射性よう素と希ガスの“漏れ”(格納容器そのものの損壊はないものとする)を考慮して、「重大事故」により全身で0.25シーベルトの被曝を与えるかもしれない距離の範囲は非居住区域とすること、「重大事故」を超える「仮想事故」により、たとえば2万人シーベルトの集団線量を与えるかもしれない距離の範囲は低人口地帯とすることを定めていました。

 ところが福島第一原発事故では、格納容器も損壊し、さまざまな放射性核種が放出されました。立地審査指針が求める被曝リスクをもとに距離の範囲を取れば、現状をはるかに超える距離の範囲を非居住にしなくてはなりません。

 そこで、シビアアクシデントが起きても大量の放射能が放出されるものとはならないようにする考えに方針を変えたというのです(???)。残念ながら、その場では十分な議論ができませんでした。さらに議論を続けていきたいと思い、方針変更を説明した何らかの文書の作成を求めました。

 一部の施設について2017年7月7日まで、設置の猶予期間を設けることについては、あくまで信頼性向上のためのバックアップ対策だからというのですが、5年以降にはバックアップ設備が必要になる自体が起こりうるのだとしたら、5年以内に起こらないとしてはならないでしょう。40年超運転についても、条件を厳しくしたことが強調されるのみでした。そうした条件を整備すること自体、40年超運転を例外でない印象を強めると考えられます。

 これらの問題では、今後もしつこく方針変更を求めていきます。

 単一故障指針の問題では、シビアアクシデント対策は事実上、共通要因故障を考慮したものとなっているとの回答でした。一部は設計基準にも組み入れられているので、設計基準事故にも取り入れられていると言えなくもない、とも。ていねいに検討する必要がありそうです。

 敷地内外の断層の再評価、耐震安全性の再審査は、個々の原発の「再稼働」申請時に厳しくチェックすると答えられました。

 核セキュリティに関して、個人の「信頼性確認制度」がないのは日本だけ、といったニュアンスの発言がありました。制度導入がすでに定められ、具体化されようとしていることから、厳しい対応が必要です。

 火災対策については、初期消火に限定しないようにしたとの説明でした。読み返してみたのですが、よくわかりません。なにせ膨大だし、素人にはわかりにくい言葉遣いだしということで……。

 原子力災害対策の策定と「再稼働」の関係では、法的には「再稼働」の条件にできないとの回答です。自治体の同意取り付けの際に、自治体側が問題にするだろうということでした。

 高速炉の非常用炉心冷却装置については、明確な回答がありませんでした。現在策定中の「核燃料施設等の新規制基準」については、策定中なので参考にする、パブリックコメントも行なうので不足する点はそこで指摘してくれればよいとされました。

 1時間という短い交渉時間で規制委員会側の考えを聞きだすことも、私たちの考えを説くことも、なかなかできませんでした。さらに交渉・議論・働きかけを重ねていくつもりです。いずれにせよ、とても「再稼働」なんてできる状況にないことは、いっそうはっきりしました。