高浜原発1号機の寿命延長は危険だ ―圧力容器鋼材の破壊靭性予測は当てにならない

 『原子力資料情報室通信』第496号(2015/10/1)より

井野博満(原発老朽化問題研究会、東京大学名誉教授)

 

 関西電力は、今年4月30日、高浜1号機・2号機、美浜3号機の寿命延長、すなわち、原則として運転開始後40年で閉鎖すると法律(2012年に改正された原子炉等規制法)で定められた寿命を、さらに20年延長することを規制委員会に申請した。これらの古い原発は、機器や配管、配線、建屋などにおいてさまざまな経年劣化が懸念されるが、そのなかでも重要な原子炉圧力容器の照射脆化について述べる。とくに、高浜原発1号機は、監視試験で99℃という高い脆性遷移温度(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が観測されており、安全性に大きな不安がある。原子炉圧力容器の破損は大事故に直結するからである。

 原子炉内には、圧力容器の中性子照射による材料劣化を調べるため、監視試験片を入れてある。その監視は、対となる二つの技術規程、「原子炉構造材の監視試験方法」JEAC4201-2007と「原子炉圧力容器に対する供用期間中の破壊靭性の確認方法」JEAC4206-2007をもとにおこなっている。いずれも日本電気協会が定めた民間規格で、それを国(原子力規制委員会)がエンドース(是認)して各原発に適用されている。

 今年になって、その二つの規程の改訂が進められている。そのような動きは、老朽化原発の寿命延長を滞りなく進めたいという意図にもとづくものであろう。そのうち、JEAC4201-2007については、[2013年追補版]が7月15日の規制委員会で承認され、パブコメが実施された。この追補版は、われわれの批判(予測式が間違っていることなど)に応えずにフィッティング・パラメータだけを変えたいい加減なものであった。この問題については、本誌492号(2015年6月号)で論じた。一方、JEAC4206-2007は、大幅な改訂案が日本電気協会の公衆審査(意見募集)にかけられた。この規程は、圧力容器が緊急炉心冷却時の加圧熱衝撃(PTS)に耐えられるか、鋼材の破壊靭性を検査し、健全性を評価することを目的としている。

 さて、加圧熱衝撃および破壊靭性について簡単に説明する。配管が破断したりポンプが故障したりして原子炉に水が循環しなくなったときには、緊急炉心冷却装置(ECCS)が働いて予備の冷却水が送り込まれる。そのとき、圧力容器内面(運転時約300℃)は冷却水によって一気に冷やされ収縮し、外側との温度差によって強い引張応力がかかる。このとき内面にひび割れがあれば拡がろうとする力を受ける。そのときひび割れ先端にかかる力を応力拡大係数と呼ぶ。一方、破壊靭性とは、ひび割れに対して材料側がどれだけ耐えることができるかという靱性(粘り強さ)を表すものである。

図1 PTS状態遷移曲線(応力拡大係数)と
    破壊靭性曲線(破壊靭性値)との関係

 両者の関係を図1に示す。ひび割れにかかる力(応力拡大係数)は、温度軸でみると山型の曲線になる(これをPTS状態遷移曲線という)。山型になるのは、材料が冷やされる途中で内面と外面との温度差が拡大し、ひび割れに働く熱応力が大きくなり、さらに温度が下がると熱応力が小さくなるからである。一方、破壊靭性曲線は、右上がりの曲線になる。これは、温度が高いほど靱性が増してひび割れに耐える力が大きくなるからである。この両曲線が交叉しなければ、解析上、破壊は起こらないとされる。圧力容器鋼材が中性子照射を受けると脆化が進み、破壊靭性曲線は右下へ移行する。両曲線が交叉(デッドクロス!)すると、もはや圧力容器の健全性は保証されない。

 さて、高浜原発1号機ではどうなっているのか。関西電力が2003年に提出した「高経年化技術評価書(30年目)」と2015年に提出した「高経年化技術評価書(40年目)」を比較してみて、奇妙な結果になっているのに気づいた。両者とも、運転開始60年後の破壊靭性曲線がどうなるかを予測しているのだが、図2に示すようにその予測曲線が大幅に違っているのだ!30年目に作成した破壊靭性予測曲線は、下方のPTS状態遷移曲線とはだいぶ離れているのに、40年目作成の予測曲線はぐっと近づいているのだ。40年目予測がより現実に近いと考えるならば、30年目予測は大甘だったことになる(保守的に(安全側に)評価しているというのにどうして逆なのだろう?)。さらに言えば、こんなに予測が違うのは、40年目も含めて、破壊靭性曲線の信頼性が著しく低いことを示すものだ。40年目予測曲線はPTS曲線と交叉はしていないが、もし仮に、30年目曲線と同程度の不確実さがあるならば、交叉してしまう危険性を無視できない。

図2 高浜1号機について、運転開始30年目および40年目に報告された高経年化技術評価書において示された「運転開始60年後の破壊靭性曲線」の予測を比較して示す。30年予測は過小評価だ。PTS状態遷移曲線は、大LOCAの場合について計算されたものを示す。

 30年目と40年目の違いはなぜ生じたのであろうか。破壊靭性曲線を描く際の元データは、脆性遷移温度予測値と破壊靭性測定値とである。前者の脆性遷移温度はJEAC4201にもとづいて推定されているが、図3に示すように、30年目時点と40年目時点とでは予測値に違いがある。新しいデータ点が追加されて予測値は高くなった(保守的に(安全側に)評価しているというのにどうしてこの場合も逆なのだろう?)。脆性遷移温度の上昇は、破壊靭性曲線の右方向へのシフトをもたらす。厳密に書けば、脆性遷移温度予測値の上昇は、破壊靭性曲線を求める際の破壊靭性測定値の温度シフト量を大きくし、その下限値を包絡して求められる破壊靭性曲線の右方向へのシフトをもたらす。

 後者の破壊靭性値であるが、高浜1号機についてはデータが公開されていない。玄海1号機や美浜1号機・2号機、伊方2号機などは、保安院の高経年化意見聴取会において筆者の求めに応じて元データが開示された。高浜1号機などについても当然公開すべきものである。データが未公開なので、以下は推測であるが、40年目評価書での破壊靭性曲線が30年目にくらべて非常に大きく右下へシフトしているので、これは脆性遷移温度のシフトだけでなく、最近得られた高照射量の破壊靭性測定値もまた予想以上に低い値が得られたのではないかと考えられる。

図3 高浜1号機について、運転開始30年目および40年目に報告された高経年化技術評価書において示された「脆性遷移温度」の予測  曲線を重ね合わせて示す。30年予測は過小評価だ。

 現在の規程JEAC4206-2007では、破壊靭性曲線は、測定された破壊靭性値を下限包絡するように作ることになっているが、このやり方は現規程の最大の問題点ではないかと考える。第一に、測定点が少ないと、得られたデータの下限包絡をしてもその値より小さい値が測定される可能性は大きく、安全サイドの破壊靭性曲線にはなっていない。第二に、データ点が少ないことを補うために、過去の照射量の低い状態での破壊靭性測定データを温度シフトさせて用いているが、その温度シフト量が適切かどうか疑問である。脆性遷移温度の上昇量だけ、破壊靭性データも温度シフトさせるのであるが、そういう仮定はどうやら成り立たないことが分かってきた。最近までのデータを解析したNRCのレポートを見ると、破壊靭性値の温度シフト量は、脆性遷移温度のシフト量に比べ、1.1ないし1.5倍になっている(NUREG-1807, p.86)。筆者らがおこなった玄海1号、美浜1,2号についての解析結果も明白に同様の傾向を示した(金属Vol.83(2013), p.251-260, p.343-350)。このことは、脆性遷移温度を基準とした破壊靭性値の温度シフト量が足りないことを意味し、破壊靭性曲線はさらに右へシフトさせねばならない。高浜1号機の場合も同じであるならば、現在得られている破壊靭性曲線は安全側ではなく、PTS曲線と交叉してしまう危険性も考慮せねばならない。高浜1号機の照射脆化は危険域に達しており、そのような原発の寿命延長はおこなうべきでない。

 終りに、現在、日本電気協会がおこなおうとしているJEAC4206の改訂について付言する。この改訂では、現行方式を大幅に変え、データの下限値でなく中央値を使って評価する方式を導入しようとしている。上述した現行方式の問題点は消え去るかも知れない。しかし、一方、5%信頼下限曲線(この曲線より低いデータ点は5%以内だという予測曲線)をもとに作成することになるので、すべてのデータが破壊靭性曲線に包絡される保証はなくなり、それ以下の力で破壊が起こる可能性を否定できない。

 意見募集に当たって、改訂の趣旨などが全く説明されず、現行規程の問題点も何ら明らかにしていない。しかも、改訂によって、破壊靭性曲線の算定がどのようになるのか、具体例を示していないので是非の判断ができない。高浜1号機などを事例として、現行の信頼のおけない破壊靭性曲線評価がどのように変わるのか、具体的に示すことは、恰好の例題、やるべき課題である。筆者は日本電気協会の意見募集に際して、これらの問題点などを提起したが、今後、どのように改訂が進められるか、注視している。

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