【視点】「第三者委員会」を意義あるものに

 『原子力資料情報室通信』第506号(2016/8/1)より

 東京電力福島第一原発の過酷事故のさい、炉心溶融(メルトダウン)は早い時期に起きたのではないかと、原子力に多少の知識がある人たちは恐怖した。だが、東電は炉心溶融を認めず、二か月後の5月になって、1号機は15日に、2・3号機については23日に炉心溶融があったことを、初めて認めたのであった。しかし、今年2月上旬までの5年間近くにわたって、メルトダウンの用語の定義はないと主張し続けた。このことは、たぶん、広く知られている事実だろう。
 メルトダウンが早くに起こっていたに違いないと考えていた泉田新潟県知事は、事故の7日後の3月18日に、「メルトダウンは起きていません」と東電社員から説明をうけるが、納得しない。その後の新潟県技術委員会によるねばりづよい追求の結果、今年2月24日になって、「炉心損傷の割合が5%超えていれば炉心溶融である」と明記した社内マニュアルが存在していたことを、東電が発表した。しかも、2011年3月11日の19時3分の原子力災害対策本部の初会合で、メルトダウンの可能性があることを東電は報告していた。事故発生直後から、炉心損傷は5%を超えていて、それを認識していた複数の社員は居たことも後に明らかにした。
 なぜ東電はこのようにウソをつき続けてきたのか。東電は今年3月9日に弁護士3名からなる「第三者検証委員会」というものを設置し、この件についての調査報告を依頼した。3か月後の6月16日に「検証結果報告書」(全70ページ)*が東電社長あてに回答され、公表された。
 その内容を読んで、第三者とはいったい何だろうか、と考え込んだのである。中立性・公正性・透明性はこの種の疑惑解明に必要不可欠の条件だとおもうが、まったくそうなっていないのに驚いた。東電寄りの、東電擁護の中身であり、真実は明らかにされていない。読者のみなさん、どうぞお読みになってください。
 さる6月30日に開かれた本年度第一回の新潟県技術委員会の席上、何人もの委員から、手厳しい批判が出た。この席には報告書を書いた3名の弁護士のだれも出席していなかったので、批判は東電にむけられたのである。
 政界、財界などに看過できない不祥事が起こると、第三者委員会なるものが設置され、解明され、責任の所在が明らかにされて、しかるべき罰をうけるという方式がとられる。だが、少なくともこの数年間に限っては、どの事件もうやむやに終わっている。
 そもそも、第三者というものは存在するか、と考える。厳正中立な第三者はどのような人であらねばならないか。大学人は比較的その立場に近いかもしれない。しかし、足尾鉱毒事件や水俣病事件をみても、原子力ムラをみても、かつての大学闘争をみても、大学人だからといって中立だと言うことはできない。
 今回の「第三者」はいずれも弁護士だが、弁護士だから中立に調査でき結論をみちびくことができる、という理屈は無い。弁護士は依頼人の側に立ち、依頼人が有利になるように働く存在だからである。しかも、元法務省公安審査委員会委員長という肩書で、今回の「第三者委員会」委員長の田中康久弁護士は、もう一人の委員の佐々木善三弁護士とともに、2013年3月の国会事故調の調査妨害事件に関わっていた。新潟県技術委員会委員の田中三彦さんは国会事故調委員だったとき、かれらから妨害されたご本人である。
 利害が対立している問題では、時間に制限をつけず熟議をつくして合意にいたるしか解決はない。そこに参加するひとたちは一種類のひとたちだけではいけない。多様な人々の参加こそが肝要である。これは難問題を解決するためのもっとも基本的な考えだとおもう。

(山口幸夫)

*福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会「検証結果報告書」
 www.tepco.co.jp/press/release/2016/pdf/160616j0301.pdf