長尾光明さんの原発労災裁判判決期日の変更のお知らせ

長尾光明さんの原発労災裁判判決期日の変更のお知らせ

■ 4月28日(火)午後2時から
 東京高等裁判所812号法廷

2月26日、裁判所より連絡があり、長尾事件の判決期日が延期となりました。
当初、3月26日の予定でしたが、延期の結果、4月28日午後2時と指定されました。

『原子力資料情報室通信』416号(2009年2月1日発行)参照
「東京電力を告発する長尾訴訟 4年間の審理の終わり」
 氏家義博(長尾訴訟弁護団・弁護士)


『原子力資料情報室通信』第416号(2009/2/1)より

東京電力を告発する長尾訴訟
4年間の審理の終わり

氏家義博(長尾訴訟弁護団・弁護士)

 2008年12月25日、東京高等裁判所a第812号法定において、長尾訴訟控訴審の第2回期日が開かれた。
 結論から言えば、この日の手続きは極めて淡々と進められ、裁判長は同日をもってすべての審理を終えることを宣言した。提訴より4年の長きに渡った長尾裁判は、あっけない結審の場面を迎えることとなったのである。

 今回の期日では、控訴人(長尾氏側)と被控訴人(東京電力側)より、共に準備書面が用意されており、法廷に提出された。東京電力側の提出書面は、相も変わらずに長尾氏に対する「多発性骨髄腫」という診断を争うとともに、疫学的証拠による因果関係の判断を否定するものである。これに対し、当方側の書面は、一方で医学的診断論に関して、東京電力の主張が意図的な議論のすり替えと、強弁にしか過ぎないことを明らかにした。またこれに加えて、疫学論については、岡山大学大学院の津田敏秀教授作成にかかる2通の「意見書」を基礎として、詳細な議論を展開するものであった。
 なお、東京電力側の主張で印象的であったのは、自然放射線の被ばくに関する部分である。即ち、東京電力によれば、人は誰でも宇宙・大気・食物・空気等からの自然放射線の被ばくを受けるものであり、日本人の平均値を前提にすると、長尾氏は73年間に175.2ミリシーベルトの集積線量(本件原発で受けた被ばく線量の2.5倍)を受けたものだという。
 この主張に対しては、当方の弁護団長鈴木より、直ちに口頭で異論が述べられた。それというのも、かような議論は、長尾氏側から見れば、「だから何?」としか言いようのないものだからである。地球上のすべての人が自然放射線の被ばくにさらされているとしても、長尾氏は「それに加えて」原子力発電所における大量の被ばくを受けたのであり、かような「平均値以上の被ばく」を本件訴訟で問題としているのである。ここで平均値の値がいくつであろうと、本件訴訟とは関係がない。
 結局のところ相手方の主張は、放射線被ばくの日常性を強調することによって、いたずらに放射線の危険性を相対化するという、印象操作でしかない。以前、自然放射線に触れて、「原子力発電所の近くに住むより、妻の隣にいた方が多量の放射線をあびる」と発言した高名な評論家がいたが、東京電力の持ち出した主張は、これと完全に同一レベルのものである。無責任なマスコミ発言では通用しても、法廷における厳密な議論には到底耐えられるものではない。

 ところで、ここまでのやりとりで、法廷において経過した時間は、10分にも満たないものである。これに続けて、裁判長は双方に追加主張がないことを確認すると、あっけなく結審を宣言した。当方からは、事前に、上記津田教授の証人申請を提出していたが、これも採用されることがなかった。
 このような裁判所の対応から、本件の結果を予想することはとても難しい。津田証人の話を聞くまでもなく、裁判所は疫学論についてすでに十分にしたという趣旨なのか。あるいは、証人を呼んでも呼ばなくても結論に代わりはないという、単なる消極的判断なのか。知るのは裁判官のみである。
 本件の第一審判決は、東京電力が具体的に主張していないような医学論まで持ち出して、長尾氏の確定診断を否定するものであった。また、法理的には不必要な疫学論議にあえて踏み込み、専門家が慎重に議論して下した労災認定の結論を「一刀両断」するものであった。そこに見られたのは、「原発労働に起因する多発性骨髄腫への罹患」という事実を、何としても認めまいとする強固な政治的意思である。
 しかし、原審の内容が酷いものであればあるだけ、理性的な目からはその誤謬がいっそう明らかである。もともと、控訴審の役割は、第一審の下した判決を、今一度、別の観点から見直すことにある。4年を経てついに事実審の終了に至った今、控訴審の理性的な判断を静かに待ちたい。