プルサーマル燃料輸送の安全性になお疑問 国交省との2回の交渉を経て

プルサーマル燃料輸送の安全性になお疑問
国交省との2回の交渉を経て

伴英幸

 プルサーマル燃料の輸送船(パシフィック・ヘロン号とパシフィック・ピンテール号)はすでに母港ファーネス(イギリス)を離れたと伝えられる。3月第1週のうちにもフランスから日本へ向けて出港されようとしています。
 報道によれば、九州電力、四国電力、中部電力の分が一緒に運ばれてくる。フランスアレバ社並びに日本の各事業者の報道発表資料によれば、輸送ルートやおおよその到着日がフランスシェルブール港を出港した1日後に発表されるとしています。また、輸送される燃料の数は、各社が国土交通省へ行なった輸入燃料体検査申請によれば、九州電力16体、四国電力21体、中部電力28体(1月14日付けのホームページでお知らせした48体は、同月30日に変更申請が出されました。不純物が集合体表面に付着していることが変更の理由)の合計65体。輸送容器は少なくとも9基と推定されます。
 この輸送の安全性に関して、PWRの5つの事業者(関西、九州、四国、北海道、日本原電)と原燃輸送?が行なった実物大の模擬燃料集合体の落下テストの資料、「TN-12P(M)型輸送物特別の試験条件下における臨界評価について」と題する報告書が開示されたことから、第2回目の話し合いを2月13日に持ちました。話し合い時点で追加の情報開示を求め、その内容も後日入手しました。
 話し合いに先立ち、疑義が晴れるまでは輸送しないことを求める要望を96団体の連名で提出しました。*
 実物大の模擬燃料集合体1体の落下テストは、三菱重工?高砂研究所において行なわれました。開示されたペーパーはわずか3ページの概略で、報告書をまとめた主体や日時が記されておらず、条件設定や試験結果の詳細なども示されず、集合体の最下部が0.5mm拡張したという結果のみが示されているものでした。落下テストでは、集合体だけを落下させたのではなくて、1体が入る輸送容器を製作してこれに入れて行なった落下テストでした。落下時に燃料集合体が受けた最大の衝撃は下部のノズル部で、値は2590m/s2。国交省がこの報告を受けたのは08年11月としています。
 私たちの懸念を受けて国交省は、念のため1月16日と22日に輸送物技術顧問会(有富正徳会長)を開催して検討したといいます(22日には別の議題もあり)。同省の説明では、実験は温度条件を考慮せずに行なったので、解析では温度による変形量を補正してひずみ量を1.4倍して計算したとのことです。そして、燃料棒間隔を1mmとして、九州電力と四国電力の実際に輸送されるMOX燃料の組成をベースに臨界評価をして、臨界に達しないことを確認したとのことです。解析結果は、九州電力の場合の中性子実行増倍率は0.864、四国電力のそれは0.862だったとしています。
 例えば四国電力の申請書による解析結果(最大0.929)とあまりにもかけ離れています。そこで、申請書での条件の評価を質しました。技術顧問会でも話題となったとのことで、プルトニウム組成の7つのパターンでの計算結果が後に示されました。最大はケース7で0.943と際どい値になっていました。また、最小はケース2で0.935でした。
 話し合いでは、今後の課題として、一方向の落下試験のみでなく、さかさまに落ちる場合(集合体の上部と下部では構造が異なるから)についても検討するように求めました。今後この検討が行なわれるか注目していく必要があります。さらに、技術顧問会は議事要旨のみの公開で、配布資料や議論の中身など全く分かりませんので、委員会の公開や配布資料・議事録の公開をもとめました。
 集合体間隔を製造時のままで臨界評価している現行の方法は通用しないことが示されたといえます。国交省は申請をしなおさせる必要はないとの姿勢ですが、形式的には、燃料棒間隔が落下衝撃によって拡張することが示されたのですから、申請をしなおさせるべきでしょう。
 その上で、なお残る疑問として、?温度による強度低下は、283℃に達するとして計算上評価していますが、耐火試験では297℃まで上昇することになっています。これを反映させなくて良いのか? ?MOX燃料の強度低下は最大60%に及びます。これについて質したところ、最大低下は制御棒案内管で、燃料棒のジルコニウム管は30%程度の低下だから、これを評価すればよいと返答しています。けれども、289本のピンのうち24本が制御棒案内管で、この脆弱性が燃料棒に影響を与えないのか? ?集合体がバスケット孔内で全体に均等に拡がっても臨界に達しないと報告書に書いていますが、この場合の最大値は2.7mmに達するとしています。この変形量なら申請書の7つのケースで臨界に達してしまう結果になるのではないか? こういった点は詰められませんでした。今後の課題として残ったと考えています。


要 望 書 *

国土交通省規則に適合していない疑いのあるMOX燃料輸送を許可しないでください

国土交通大臣 金子 一義様

2009年2月13日
MOX燃料輸送中の臨界事故を憂慮する全国の市民

 九州電力、四国電力及び中部電力のMOX燃料が、まもなくフランスから輸送されると報道されています。しかし、それらのMOX燃料は臨界事故を起こす危険性があるという疑義が、下記に述べるように新たに浮上しています。
そのため私たちはMOX燃料の輸送を深く憂慮しています。この憂慮は、私たちばかりでなく、輸送ルートにつらなる国々の人たちにも共通するものです。
そのため、この問題について貴省として独自の解析などを行い、私たちの疑問に答えてください。疑義が完全に払拭されるまで、けっしてMOX燃料の輸送を許可しないよう要望いたします。

1.安全審査を通した時の臨界解析
MOX燃料の輸送に関しては、9メートル落下試験をしたという条件の下で、MOX燃料が水に浸かった場合でも臨界に達しないことが要求されています。実際、電気事業者は放射性輸送物設計承認申請書の輸送物安全解析書の中でそのような臨界解析を実施しています。
その際問題になるのは、国土交通省の「船舶による放射性物質等の運送基準の細目等を定める告示」(以下で告示という)第9条第二項の規定です。そこでは、「放射性物質等は中性子増倍率(原子核分裂の連鎖反応において、核分裂により放出された一個の中性子ごとに、次の核分裂によって放出される中性子の数をいう)が最大となる配置及び減速状態にあること」という条件が課せられています。
上記規定では、「中性子増倍率が最大となる配置」を想定することが要求されているのに、事業者が行った安全解析書では、9メートル落下した後でもMOX燃料集合体には何らの変形もないと頭から仮定していました。その結果、臨界には達しないとの結論が導かれ、2007年より前に貴省の安全審査を通っていたのです。

2.新たな問題を提起した2007年10月の論文
 上記のような解析の前提に対して、2007年10月、新たな問題が提起されました。それは核燃料輸送事業者の国際団体WNTI(World Nuclear Transport lnstitute)のPATRAM2007において発表されたLyn M.Farringtonの論文です。
 この論文によると、加圧水型(PWR)燃料集合体の場合、9メートル落下によって最下部区分の燃料棒が鳥かご型に膨らみ、燃料棒間に介在する水による中性子の減速が進むために中性子増倍率が増大することが指摘されています。燃料集合体の最下部の支持格子が壊れて燃料棒1本当たりに3mmの変形が生じた場合には中性子実効増倍率Keff+3σが1以上となって臨界を超えることが示されています。また、1mm変形の場合でも中性子実効増倍率は0.96を超えています。日本原子力学会の標準(2006年)では、臨界の危険性の基準を0.95にとっているため、わずか1mm変形の場合でも重大な問題が起こる可能性があると考えるべきです。

3.事業者による緊急の試験と解析
この問題提起を受け止めて、電気事業者は直ちに2007年12月から2008年3月までの間に新たな試験を実施したということです(12月24日の近藤正道参議員レクにおける国土交通省検査測度課長の説明。電気事業者がFarringtonの論文を直ちに重く受け止め、緊急な試験を行ったことはとても注目に値するものです)。その試験に関すると思われる公表された資料によれば、それは次のような内容になっています(ただし、この公表資料には作成者と日付が書かれていません)。
◆試験:PWR17×17型燃料集合体の模擬物1体を収納した容器を9メートルの高さから落下。ペレットは鉛-アンチモンで重量を模擬。その結果、変形のパターンは上記論文と同様であったが、燃料棒1本当りの変形量は約0.5mm程度だった。
◆解析:九州電力や四国電力のMOX燃料集合体8体を収納した輸送容器について、燃料棒1本当りの変形が最下部区分全体で1mmとして臨界解析を実施。その結果、中性子実効増倍率Keff+3σが0.862?0.864となり、臨界には達しないことが確認できた。

この試験結果によって、それ以前に終了していた審査の前提は崩れていないと判断したと、検査測度課長は12月24日に説明しています。しかし、この結論には下記に指摘するような問題があります。

4.事業者の試験と解析に関する疑問点
 以下の疑問点に答えてください。
(1)Farringtonの論文は、落下によって3mmの変形が起こりうることを理論的に提起しているので、そのような場合を告示別記第9条のいう「中性子増倍率が最大となる配置」として捉え、審査をやり直すべきです。この理論的指摘を事業者が重視したからこそ、緊急に試験と解析を実施したものと考えられます。規制当局である貴省は告示別記第9条に基づき、事業者の解析結果を鵜呑みにせず、Farringtonの提起した解析結果を踏まえて新たに独自の解析を行い、それ以前の審査結果を再検討するような措置を講ずるべきではありませんか。
(2)事業者が実施したことは試験と解析ですが、試験は変形パターンと変形の上限を確認するにとどまっており、安全性の確認は主に解析によってなされています。そして、その解析では、なぜか中性子増倍率が低い値にしかならないような結果になっています。このことから、次の疑問が起こります。
(a)中性子実効増倍率Keff+3σが燃料の変形がない場合に0.850(九州電力)、0.846(四国電力)と、比較的低い値になっています。基本的に同じ仕様のMOX燃料を収納しているはずの関西電力の解析では、この値(最大値)は次のようになっています。
   ・1997年10月16日申請のTN?12P(M)型では0.947
・1998年12月24日設計承認申請のEXCELLOX?4(M)型では0.948
   ・2001年8月23日申請のEXCELLOX?4(M)R型では0.899
  すなわち、なぜか2000年代になって値が急に下がっています。そして、2006年8月21日に設計承認を受けた四国電力の値は上記のように0.846と格段に下がっています。この値をベースにして変形を仮定してもそれほど大きな値にはならないわけです。
  なぜ、貴省は同じ仕様のMOX燃料でありながら、このようにだんだんと甘い解析になるのを許しているのですか。
(b)Farringtonの論文では、部分的な1mm変形でもKeff+3σが0.96を超えています。ところが今回電力会社が行った試験の解析では全体的な1mm変形でも0.862と低い値になっています。なぜこのような違いが起こっているのかについて、どうして検討しないのですか。
(3)この試験では、燃料ペレットとして鉛+アンチモンを用いているため、実際運ばれるMOX燃料のように温度が高くなることを考慮していないのは明らかです。輸送中のMOX燃料集合体の温度は約300℃になり、その場合MOX燃料の強度が4割?9割にまで落ちることが北海道電力の資料に明記されています。強度が落ちると落下によって最下部の支持格子が破壊される可能性が起こります。それゆえ、試験では燃料集合体を約300℃の温度に保って落下させる必要があります。なぜなら、告示第1条第一項では「試験しようとする放射性物質等をできるだけ模擬した供試物を九メートルの高さから落下させること」と規定しているからです。今回の試験はこの要求を満たしていないがゆえに法的に有効とは言えないのではありませんか。
(4)今回の事業者の試験では、斜めに落ちるコーナー落下の場合を実施していません。この場合には燃料集合体の衝撃の受け方が異なるため、やはり試験と解析を実施するべきではありませんか。
(5)今回の試験と解析の報告書は誰が何時に作成したもので、その内容に関する責任はどこがもっているのですか。

5.結論と要望事項
 前項に記述した疑問点が解消されない限り、少なくとも加圧水型である九州電力と四国電力のMOX燃料については、輸送中に臨界事故を起こす危険性があると考えざるを得ません。輸送中に輸送ルートの国の近くで、あるいは日本の港に到着したときに臨界事故を起こす危険性があるのに、それを無視して輸送を強行するのはけっして許されることではありません。
 以上の考えに立って、以下の点を要望いたします。

要 望 事 項
1.第4項で記述した疑問点に文書で回答してください。
2.臨界の疑義が完全に払拭されるまで、けっしてMOX燃料の輸送を許可しないようにしてください。

MOX燃料輸送中の臨界事故を憂慮する全国の市民(96団体)

<連絡先>
原子力資料情報室
  〒162-0065 新宿区住吉町8-5 曙橋コーポ2B
TEL 03-3357-3800 / FAX 03-3357-3801
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
  〒530-0047 大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル3F
TEL 06-6367-6580 / FAX 06-6367-6581

<団体名>
プルサーマルと佐賀県の100年を考える会(佐賀県)/唐津環境ネットワーク(佐賀県)/止めようプルサーマル・佐賀(佐賀県)/脱原発ネットワーク・九州(福岡県)/九電消費者株主の会(福岡県)/北九州から脱原発社会を考える会(福岡県)/たんぽぽとりで(福岡県)/ウィンドファーム(福岡県)/チェルノブイリ友の会(福岡県)/NGO人権・正義と平和連帯フォーラム(福岡県)/核・ウラン兵器廃絶キャンペーン福岡(福岡県)/原発なしで暮らしたい・長崎の会(長崎県)/川内原発建設反対連絡協議会(鹿児島県)/川内つゆくさ会(鹿児島県)/自然の灯をともし原発を葬る会(鹿児島県)/脱原発大分ネットワーク(大分県)/球磨川からすべてのダムを無くし鮎の大群を呼び戻す会(熊本県)/九州住民ネットワーク(九州)/原発さよなら四国ネットワーク(愛媛県)/伊方原発反対八西連絡協議会(愛媛県)/八幡浜・原発から子供達を守る女の会(愛媛県)/原発さよならえひめネットワーク(愛媛県)/阿部悦子と市民の広場(愛媛県)/原発なしで暮らしたい松山の会(愛媛県)/愛媛の活断層と防災を学ぶ会(愛媛県)/放射能を憂慮する市民の会(愛媛県)/東温市・農薬空中散布に反対する会(愛媛県)/子どもの未来と環境を守る会(愛媛県)/愛媛環境ネットワーク(愛媛県)/風をおこす女の会松山(愛媛県)/愛媛?沖縄ゆいまーる(愛媛県)/松山YWCA(愛媛県)/生き活き政治ネット(愛媛県)/教科書裁判を支える愛媛の会(愛媛県)/新社会党愛媛県本部(愛媛県)/未来を考える脱原発四電株主会(徳島県)/環瀬戸内海会議(岡山県)/島根原発増設反対運動(島根県)/原発はごめんだヒロシマ市民の会(広島県)/プルトニウム・アクション・ヒロシマ(広島県)/美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(大阪府)/ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン(大阪府)/ストップ・ザ・もんじゅ(大阪府)/若狭連帯行動ネットワーク(大阪府)/さよならウラン連絡会(兵庫県)/グリーン・アクション(京都府)/原子力発電に反対する福井県民会議(福井県)/福井県平和環境人権センター(福井県)/原発設置反対小浜市民の会(福井県)/徳山ダム建設中止を求める会(岐阜県)/平和・人権・環境を守る岐阜県市民の声(岐阜県)/放射能のゴミはいらない!市民ネット・岐阜(岐阜県)/くらし しぜん いのち 岐阜県民ネットワーク(岐阜県)/国労多治見分会(岐阜県)/核のごみキャンペーン・中部(愛知県)/食と環境の未来ネット・中部よつ葉会(愛知県)/浜岡原発を考える静岡ネットワーク(静岡県)/御前崎市浜岡原発を考える会(静岡県)/地震で原発だいじょうぶ?会(静岡県)/食べ物・環境・エネルギーを考える会(静岡県)/福島老朽原発を考える会(東京都)/ストップ・ザ・もんじゅ東京(東京都)/ふぇみん婦人民主クラブ(東京都)/グリーンピース・ジャパン(東京都)/原発を考える品川の女たち(東京都)/原水爆禁止調布市民会議(東京都)/STOP!劣化ウラン弾キャンペーン(東京都)/たんぽぽ舎(東京都)/都労連交流会(東京都)/ストップ再処理工場・意見広告の会(東京都)/地震と原発を考える会(東京都)/原発・核燃とめようかい(神奈川県)/プルトニウムフリーコミュニケーション神奈川(神奈川県)/ピース・ニュース(神奈川県)/福島市民事故調査委員会(首都圏)/東電と共に脱原発をめざす会(首都圏)/みどりと反プルサーマル新潟県連絡会(新潟県)/柏崎原発反対地元三団体(新潟県)/原発反対刈羽村を守る会(新潟県)/脱原発をめざす新潟市民フォーラム(新潟県)/ストップ!プルトニウム・キャンペーン(福島県)/脱原発福島ネットワーク(福島県)/三陸・宮城の海を放射能から守る仙台の会(わかめの会)(宮城県)/みやぎ脱原発・風の会(宮城県)/NPO地球とともに(宮城県)/原子力発電を考える石巻市民の会(宮城県)/水俣病に学び放射能から海・空・大地を守る会(宮城県)/三陸の海を放射能から守る岩手の会(岩手県)/花とハーブの里(青森県)/核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会(青森県)/核燃を考える住民の会(青森県)/核燃から郷土を守る上十三地方住民連絡会(青森県)/核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団(青森県)/函館・「下北」から核を考える会(北海道)/ストップ大間原発道南の会(北海道)/大間原発訴訟の会(北海道)