原子力資料情報室声明:欧州ウラン濃縮企業への日本政府出資はあってはならない

欧州ウラン濃縮企業への日本政府出資はあってはならない

 

2018年1月31日

NPO法人原子力資料情報室

 

1月20日、日経新聞が、日本政府が欧州のウラン濃縮会社URENCOの買収を検討していることを複数の関係者が明らかにしたと報じた。報道によれば日本政府は国際協力銀行(JBIC)を介して、米国のCentrus Energyと共同で、少なくともURENCOの過半数の株式を取得し、内、JBICは2~3割程度を保有したいという。費用は数千億円とみられる。日本政府は報道を否定しているが、もし報道にあったような事実があるのであれば、このような出資は断じて許されない。

URENCOはオランダ政府、英国政府、ドイツの電力会社E.ONとRWEがそれぞれ3分の1ずつ保有しているが、ドイツの脱原発決定に伴い、E.ONとRWEが持ち分の売却を希望、英国政府も売却を検討しており、一時、東芝やフランスの破綻した原子力大手AREVAも買収を検討していた。

共同出資のパートナーとされるCentrus Energyは、その前身をUSEC(United States Enrichment Corporation)といい、福島第一原発事故後の濃縮ウラン需要の低迷により、連邦破産法11条を申請している。しかし、USEC/Centrus Energyは2013年に老朽化した非効率な濃縮ウラン工場を廃止して以来、ロシアやヨーロッパから濃縮ウランを輸入する中間業者となっていた。

報道によれば、日本政府がURENCOを買収する理由は、ロシアや中国がURENCOを買収した場合、エネルギー安全保障上問題が発生するからだという。しかし、ロシアの国営企業Rosatomは米国の濃縮ウラン市場で20%のシェアを占めており、加えてウラン濃縮能力は需要に対して大幅に過剰であり、米国の調査会社Energy Resource Internationalによれば、2035年になっても過剰は解消されない。破綻企業や破綻に瀕した企業の名前ばかり出てくる衰退産業を国が支援するためのこじつけた理由にすぎない。

原子力産業を巡っては、他にも、日立の子会社ホライゾン・ニュークリア・パワーが計画する英国への原発輸出案件にJBICが融資、日本貿易保険(NEXI)が100%の付保をおこなう計画が進められている。URENCO案件もホライゾン案件も損失が発生すれば、国民の税金で補填されることになる。原子力を日本に導入して60年、一体いつまで原子力産業を手厚く保護しなければならないのか。

そもそも、日本の1次エネルギーに占める原子力の割合は、2001年の12.6%をピークに低下し、2010年には11.1%であった。一方、1次エネルギー全体では2010年から2016年にかけて、198.5京ジュール分の減少している。一方この間、再生可能エネルギー(水力含む)は約40京ジュール増加した。原発供給量は2010年で246京ジュールだったことを考えると、省エネと再エネにより、6年でほぼ原発分相当量のエネルギーを補ったことになる。

海外のウラン濃縮企業を買収してもエネルギー安全保障にはつながらない。再生可能エネルギーの導入加速と、更なる省エネの推進こそがエネルギー安全保障の鍵だ。

以上

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