東京電力福島第一原発事故の放射能のごみについてぐずぐずと考える。

『原子力資料情報室通信』第526号(2018/4/1)より

東京電力福島第一原発事故の放射能のごみについてぐずぐずと考える。

西尾漠(原子力資料情報室・共同代表)

 ほんらい放射能のごみは、「管理区域」と呼ばれる放射線レベルの高い区域で発生するものでした。東京電力福島第一原発では、原子炉建屋やタービン建屋の中の一部が管理区域でした。ところが、2011年3月11日に始まる事故によって大量の放射能が放出されると、建屋内全体はもとより、敷地内、さらに原発が立地する地域、福島県内、そして東日本の各都県にまで高い放射線レベルに汚染された場所が広がってしまいます。そこで発生する廃棄物が、なべて放射能のごみとなってしまったのです。
福島第一原発1、2、3号機の格納容器の中には、メルトダウンした核燃料と、溶けた機器などがあり、両者の一部は一体化しています。発電所の建屋内外には、水素爆発などによって生まれた、もしくは地震・津波によって生じた大量のがれきがあります。既に撤去したものの量が、2018年1月末の時点でおよそ22万7000m3となり、うち16万5000m3は野ざらしです。
汚染水が、どんどん溜まっています。各建屋内の高濃度汚染水は5万8000トン、処理済みの汚染水は100万トンを超えています。その貯蔵タンクの設置のために伐採された樹木が13万4000m3あります。使用済みの防護服は5万9000m3。これら可燃物を、焼却することで量を減らそうとしています。
事故前からの廃棄物が、200リットルのドラム缶換算で18万6000本ほど保管されています。使用済み燃料取り出しのための大型機器や汚染水タンクなど事故収束のために投じられているさまざまな機器や設備も、敷地内のすべての建物・設備も、やがて放射能のごみとなります。

原発から飛び出した放射能ゴミ
敷地の外では、汚染地域の災害廃棄物が放射能のごみとなってしまいました。汚染地域での人々の暮らしから生まれる生活廃棄物も、放射能のごみとなります。避難指示解除区域への帰還が進めば、さらに増えることになります。従来の法律で想定していなかった放射能のごみに対処するために2011年8月30日、「放射性物質汚染対処特別措置法」が公布され、「放射性物質及びこれによって汚染されたものを除く」とされていた一般廃棄物や産業廃棄物に特例として「事故由来放射性物質で汚染されたもの」が仲間入りをしてきました。
一般廃棄物は市町村に、産業廃棄物は発生企業に処理の責任があります。事故由来の放射性廃棄物は、放射性物質を放出した電力会社が責任を負うべきなのに、市町村や産業廃棄物発生企業に押しつけられたのです。当然ながら、処分場反対の運動が、各地で起きています。
一方、特措法によって、「指定廃棄物」という名の新しい放射性廃棄物が誕生しました。指定廃棄物というのは、事故由来の放射性セシウムがkg当たり8000ベクレル(Bq)を超え、特別な管理が必要であるとして環境大臣の指定を受けた下水汚泥や生活ごみの焼却灰、麦わらなどを言います。指定廃棄物は、福島県内に限らず東日本の広い地域で発生していて、国が収集、運搬、保管および処分を行なうとされました(「風評」を恐れて指定を申請しないものもあり、それらは一般廃棄物や産業廃棄物に仲間入りすることになります)。
この指定廃棄物の他にも、福島県の避難指示区域で発生した廃棄物が、「対象地域内放射性廃棄物」という名前をもらって、すべて国が処理することとされています。福島県内の指定廃棄物と対象地域内放射性廃棄物は、ひとまとめにして「特定廃棄物」と新たな名前がつきました。そのうち放射性セシウムがkg当たり10万Bq以下のものは、「特定廃棄物埋設処分場」で埋め立て処分し、10万Bqを超えるものは「中間貯蔵施設」で貯蔵するとされています。
「特定廃棄物埋設処分場」は、福島県富岡町の既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)を2016年4月21日に国有化し、特定廃棄物の他、双葉郡8町村(浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、川内村、広野町、葛尾村)の住民帰還後の生活ごみも運び込まれます。搬入は、2017年11月に開始されました。
中間貯蔵施設は、福島県双葉町と大熊町につくられ、特定廃棄物に加えて、除染で発生する汚染土壌が放射能レベルにかかわりなく、福島県内各地から運び込まれるとされています。そのうち8000Bq/kg以下の除染土壌について環境省は、道路などに再生利用すると言い出しました。
中間貯蔵施設での貯蔵期間は30年以内で、国はその期間内に「福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」と2014年11月27日公布の「日本環境安全事業株式会社法一部改正法」に定められました。日本環境安全事業(株)が中間貯蔵・環境安全事業(株)に名を変えて実施主体となり、暫定的な受け入れが2015年3月に始まっていますから、期限は2045年3月です。
他県の高汚染廃棄物を引き受けてくれる自治体があるとは、とても考えにくいでしょう。原発敷地内の廃棄物も県外に持ち出せるとは思えず、合わせて原発敷地内に処分するのが「合理的」とする論が有力です。とはいえ、「合理的な考え方」という考え方に納得できない思いもあります。

「解決できない問題」を抱えて
各県につくるとされている指定廃棄物の最終処分地の問題も、やっかいです。環境省は、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県の5県に最終処分場を1ヵ所ずつつくる方針ですが、候補地とされた各市町は、どこも受け入れを拒否しました。東京電力が責任を持って引き取るのが道理といっても、現実
性はなさそうです。
放射性セシウムkg当たり8000Bqという数字と、原発の廃炉廃棄物等の処分や再利用のためとして先に定められていた「クリアランス」(放射性廃棄物としての規制から除外すること)の場合の100Bqという基準との違いの大きさも、不信を呼んでいます。そこで、クリアランスレベルに合わせるべきとよく言われるのですが、クリアランスレベルに反対をしてきて、いよいよ廃炉時代が本格化して反対をより強める時を迎えていると考えると、どうも素直に同調できないというのは、おかしなことでしょうか。
もちろん8000Bqを100Bq以下に引き下げるべきというのに異論はありません。そもそもクリアランスレベルが年間10マイクロシーベルト以下の被曝になるよう定められたのは、他の被曝と重なることがあるから1ミリの100分の1にしたと説明されていました。事故由来放射性廃棄物のほうこそ、確実に他の被曝と重なります。にもかかわらず100分の1にもしていません。クリアランスレベルに合わせるというのでなく、より厳しいレベルとするのが正しいあり方でしょう。
そもそも処分という考えでよいのか疑問です。処分の安全規制も泥縄で、 原子炉等規制法と比べても、きわめて不備なものです。その以前に、焼却による減量がそこかしこで安易に行なわれていることに慄然たる思いを禁じ得ません。放射能の減衰で8000Bq/kg以下になった指定廃棄物を指定解除してもらって焼却処分へと、各県で動き出しています。汚染がさらに拡散されようとしているのです。
放射能災害は、解決できない、あるいは解決することが困難な、さまざまな問題を噴出させます。そして、もともと責任のないはずの住民・市民に、その解決が押しつけられる理不尽さがあります。
――と、ぐずぐずと雑感を連ねてきましたが、現実には多くのところで廃棄物は住宅や学校、公園などに放置されています。フレコンバッグの山が、至る所に威容とすら見える姿で存在しています。そのことを考えれば、理不尽ではあれ、解決不能と投げ出すこともできません。少しでも道理にかなった道を何とか見つけたいと思います。