第99回公開研究会報告 プナール・デミルジャンさんの 「トルコのエネルギー、原子力計画と反原発運動」

『原子力資料情報室通信』第533号(2018/11/1) より

第99回公開研究会報告 プナール・デミルジャンさんの 「トルコのエネルギー、原子力計画と反原発運動」

Pinar Demircan(プナール・デミルジャン):トルコのフリージャーナリスト、反原発活動家、環境政治学研究者

原子力資料情報室では9月25日、東京の連合会館でプナール・デミルジャン氏を招き、公開研究会を行った。プナールさんは、今トルコがおかれている政治的状況と原子力計画について詳しく熱く語った。
2013年に安倍首相とトルコのエルドアン大統領はトルコの北部にあるシノップで計4基のPWRを建設する契約を交わした。それ以外に南部のアックユと北西部のイイネアダで建設計画がある。アックユはロシアのロスアトムの子会社と契約を結び、建設開始しており、2023年に完成する予定である。イイネアダは中国と契約を結ぶ予定だそうだ。
これらの計画は2010年ごろから具体化したので、トルコの原発獲得に向けた願望はごく最近からのものだと私は思い込んでいた。しかしプナールさんの話によるとトルコは1953年に米国のアイゼンハワー大統領がおこなった「Atoms for Peace」宣言のころから原子力に興味を持ち、1956年トルコ原子力委員会(TAEK)を設立した。1965年から1993年の間、5回も原発プロジェクトの入札まで行ったが、毎回例えば土地許可が得られなかったなどの理由で失敗に終わっている。その大きな理由の一つは市民の反対運動だとプナールさんは言う。電気技師の労働組合も原発に反対してきたそうだ。
しかし2016年にトルコでクーデター未遂事件が起こった。その後状況は大きく変わり、原発反対運動も含めて、市民運動の力が弱くなった。これには二つの原因がある。まずは政府の弾圧が強くなったことだ。「非常事態」を理由に記者、活動家、国会議員まで逮捕された。2018年現在も390人が刑務所に閉じ込められている。2017年には大理石鉱山に反対する2人の環境運動家の殺人事件まであった。この恐怖の中で活動を続けるのは大変困難な状況である。もう一つの理由は、クーデターを抑えるためにに行われた改憲により議会制が廃止されエルドアン氏が「大統領」となったことだ。トルコでは従来議院内閣制をとっており、大統領は儀礼的な存在だったが、改憲により大統領が行政府の長となり、首相は廃止された。これによって権力はエルドアン氏により集中した。政府は法律や規制を一方的に変更できるようになり、例えば国家規模の開発事業「メガプロジェクト」は環境アセスメントを受けず、大統領決定で進められるようになった。原発はもちろん「メガプロジェクト」である。このような民主主義衰勢の状況で3つの原発建設・計画は進んでいるわけである。

建設中と建設予定の 原発の位置。周辺には政情不安定な国が多く、隣国シリアでは空爆など戦争に近い状況が続いている。

シノップ原発と日本
黒海に位置する、人口20万人のシノップ県シノップ市の中心部から14キロしか離れていない場所で、日本の三菱重工とフランスのフラマトムがATMEA I原子炉を4基つくる計画がある。すでに予定地では森の木60万本を伐採し、準備を開始している。これらの原発は1日に2,800万立方メートルの水を冷却水として使う見込みであり、シノップの4,200人の漁師は懸念の声を上げている。トルコの漁獲量の2割はシノップで水揚げされるが、原発の温排水によって海水温が上がることなどから、さまざまな影響が予測されている。しかし政府は環境アセスメントをなくし、無視することができるようになった。原発から出てくる放射性廃棄物の計画もまだ具体的に表示されておらず、原発を稼働してから考えるという驚くべき方針だそうだ。
トルコ政府や三菱重工、フラマトムは、シノップの市民の声と素晴らしい環境を無視することはできるかもしれないが、経済的な問題は無視できないだろう。プナールさんの説明では、福島第一原発事故後にシノップ原発のコストは大幅に上がり、もし完成したら、シノップ原発が発電する電力の値段は10.35セント/kWhになる見込みだが、現在の電力価格は4セント/kWh。「こんな高い電気代、だれが払うのですか?」というプナールさんの問いの答えは、「市民」しかないだろう。ソーラーなどの再生可能エネルギーのほうが安くて安全なのに、なぜトルコ市民は日本とフランスの企業利益のためにこの高い電気を買わないといけないのかは説明がつかない。プロジェクトメンバーであった伊藤忠商事は、メディアによるとシノップ原発のプロジェクトから撤退することを決めた。利益にはならないと恐れたのだろうか? しかし安倍首相もエルドアン大統領も原発建設を固く決意している。日本にとっては国内で売れなくなった原子力産業の救済策として輸出政策を進めている。でも、トルコにとってはいったいどのような利点があるのだろうか。

アックユ原発の宣伝ポスターに、 市民は落書きで反対の意思を表示。

会場からの質疑
会場からの質疑・コメントはたくさんあり、参加者の深い関心と溢れる経験がうかがえた。放射性廃棄物処分について、いくつか質問あったが、これは日本も具体的な計画のないままであることはトルコと変わらず、また福島第一事故で発生した廃棄物の山々は動かず、自分の庭でとりあえず埋めたという避難者からのコメントもあった。
トルコでの原発に対する一般世論についての質問もあった。日本はさまざまな世論調査があり、過半数の日本人は原発を止めたいと示すけれどトルコには一般的に原発について世論調査は行われていない、とプナールさんが述べた。しかしグリーンピースが2006年にアックユ地域で行った世論調査では70%反対だった。シノップの人口の20万人のうち5万人はデモなどに出ていることから、現地住民は多くが原発反対だという。しかし、福島県双葉町に掲げられていた「原子力明るい未来のエネルギー」という標語を信じている人もまだいるので、啓発活動を手がけるとプナールさんは述べた。
原発と核兵器についてもいくつかコメントがあった。コストが高いのにわざわざ原発をつくろうとするのは、やはり最終的に核兵器をつくれるようになりたいのでは? という質問に対して、プナールさんはシノップ原発はMOX燃料を使えるようにつくるという報道もあり、将来的にトルコもこのような技術を持ちたいという気持ちもあるだろうと述べた。
プナールさんのお話を通してトルコと日本の原発のつながりがよくわかった。しかしこれは政府レベルのものであり、お互いに市民は全く望んでいないつながりである。今回のように情報や意見を交換して国際連帯を強化していくしかないと確信した。トルコの政治的状況も勉強になったが、その中で活動してるプナールさんの安否が少し心配になる。ぜひ一緒に頑張り続けたい。

(ケイト・ストロネル)