三菱重工、トルコ・シノップ原発建設計画から撤退。廃炉時代にむけて、原発メーカーは現実路線へ方向転換を

三菱重工、トルコ・シノップ原発建設計画から撤退。廃炉時代にむけて、原発メーカーは現実路線へ方向転換を

2018年12月11日

NPO法人 原子力資料情報室

 

12月4日付日経新聞は「トルコ原発、建設断念へ 三菱重工など官民連合」と報じた。当室は三菱重工の決断を歓迎する。しかし撤退への驚きは少ない。

三菱重工は黒海沿岸の風光明媚なシノップに4基の112万kW級ATMEA-1(仏Framatom(旧Areva)との合弁企業ATMEAが開発した加圧水型炉)を導入することを計画し、事業可能性調査を進めていた。しかし、2013年当時2兆円と見込んだ建設費は、今年4月時点で5兆円近くに高騰、三菱重工とコンソーシアムを組んだ伊藤忠商事は事業計画から離脱していた。電力の買取価格は2013年に日・トルコ政府間で締結した政府間協定により燃料費を除くものの、20年間10.80~10.83セント/kWhに据え置かれた。運転費や維持管理費をかんがえれば、コスト回収が困難なことは明らかだった。

三菱重工を取り巻く状況はそもそも厳しかった。2017年には大型客船事業で2,500億円の損失を計上して撤退、ジェット旅客機事業についても開発費は当初想定の4倍超の6,000億円にのぼる。2014年に日立製作所の火力発電部門を統合した三菱日立パワーシステムズ(MHPS)も事業環境の悪化で収益が伸び悩む。さらに日立製作所が統合前に受注した南アフリカでの発電所向けボイラーの建設コストが膨れ上がり、同社に対して7,743億円を支払うよう、日本商事仲裁協会に仲裁を申し立てている。

原子力を取り巻く環境も厳しい。国際原子力機関(IAEA)が先ごろ出したレポートによれば、2017年時点で総電力供給の10.3%(2,503TWh)を占めている原子力発電は低位予測の場合、2030年には7.9%(2,732TWh)、2050年には5.6%(2,869TWh)に低下する。IAEAは10年前の2008年には原子力は低位でも、2030年に12.4%(3,522TWh)を発電すると予測していた。設備容量も2008年予測では2030年時点で少なくとも473GWeと予測していたが2018年予測は352GWeへと、原発100基分に相当する大幅な下方修正となっている。

日本の原発メーカーと経済産業省は国内の原発新増設が進まない中、2000年代に海外市場を展望した。しかし、トルコのほか、ベトナム、リトアニア、フィンランド、UAE、米国などでも繰り返し失注した。東芝は子会社ウェスティングハウスが受注した米国での4原発で巨額の赤字を抱え、倒産寸前まで追い込まれる結果となった。英国で進められている原発輸出計画についても、東芝は原発子会社NuGenerationの解散を選択した。日立製作所も中西宏明会長がインタビューで状況の厳しさを認めている。

民生用原発が世界で初めて稼働してから今年で62年が経過した。この間、明らかになったことは、原子力は国の支援がなければ、商業ベースに乗らない、そしてひとたび事故が起きれば大惨事を引き起こすという電源だということだった。一方で、既存の原発454基の平均稼働年数は29.5年、稼働から40年以上経過している原発も95基存在し、大量廃炉時代の到来は待ったなしだ。国内でも23基が廃炉を迎えた。

原発メーカー各社は東京電力福島第一原発事故を直視し、もはや世界に原子力ルネサンスは到来しないという現実を踏まえて、原発新設から撤退するべきだ。