福島はいま(16)9年目に入ろうとして-復興とは何を言うのだろうか

『原子力資料情報室通信』第537号(2019/3/1)より

福島はいま(16) 9年目に入ろうとして-復興とは何を言うのだろうか

〈福島復興〉の声がかまびすしい。来年の東京五輪のせいがおおきい。福島はアンダーコントロールと公言して招致した手前もあって、政府は放射能禍が無かったことにしたい。それは、明らかに、被害者を切り捨てることだ。環境に放出された放射能のうち、半減期が約2年のセシウム134は、満8年して4半減期が経過した今日、(1/2)を4回掛けあわせて(1/16)に減った。しかし、セシウム137は半減期が30年なので、あと22年待たないと、(1/2)にならない。
そもそも、フクシマ事故は解明されたのか。事故後、世に4種の事故調報告書が出されたが、いずれも、未完である。しかし、国会事故調に加わった人たちの中に「もっかい事故調」グループができて、その後も事故の因果関係を明らかにする努力が続けられている。議論は新潟県技術委員会の場で公にされつつあって、検証総括委員会(池内了委員長)に有力な知見を提示するだろう。
去る1月末、日本原子力学会「未解明事項フォローWG」の山本章夫幹事は新潟県技術委員会に出席して、73項目に抽出された課題について調査結果の概要を報告した。それによれば-
A:合理的な説明がなされていると判断されるもの、45%
B:既存発電所の安全対策高度化や廃炉作業の進捗の観点から重要でないと考えられるもの、8%
C:重要度は高いが、現時点では、これ以上の調査が困難であるもの、4%
D:重要であり、今後も継続した検討が望まれるもの、43%
だという。本誌今号の石川徳春論文は、Dに属すると思われるが、原子力学会はAだと言うのかもしれない。新潟県技術委員会のメンバーとの今後の真摯な議論を望みたい。原子力学会の言い分を、そのまま受け入れることはできないが、CとDを合わせて、47%もある。あまく見ても、半分しか説明できていないというわけである。
放射能被害に関して幾つか重要な事実が浮かびあがってきた。
①伊達市における住民被ばくに関する分析論文で、住民の同意を得ないデータを用いて、しかも、線量評価が3分の1と低く見積もられていたことが、発覚した。すでにイギリスの専門誌に公表された論文である。また、この論文は放射線審議会における審議で資料として使われていた。
②事故直後、双葉町の11歳の少女が甲状腺等価線量で100ミリシーベルト(全身では4ミリシーベルト)被ばくしていたことが判明した。把握できていないが、ほかにも多数あったはずである。
③三春町では、県の指示に従わずにヨウ素剤を配布し、子どもたちに服用させたことが知られている。実際どうだったか。この1月の京都大学などの研究グループの発表によると、0~2歳児で約半数、3~9歳児で約3分の2だった。
④郡山市の放射能汚染の詳細が私家本『毒砂』(2017年12月刊)で明らかにされた。県職員として事故対応に奔走した故・安西宏之さんが2015年5月から8月にかけて、市内480か所の空間線量率を克明に測定したもの(資料紹介を参照)。
事故被害者たちの受けた底知れなく深い傷は金銭で償えるものではないが、それにしても、東電には責任をとる姿勢がない。浪江町、飯舘村などのADR集団申し立て事件で、東電が賠償金額に同意せず、仲介和解案を拒んだ。損害賠償の解決の見通しが立たない。東電が宣言していた3つの誓いに真っ向から反している。
東電の責任を問う福島原発被害者たちの集団訴訟は全国で約30提訴がされている。また、東京電力の元会長らに対する刑事訴訟は3月中旬の最終弁論で結審する。

あらためて問う。〈復興〉とは何を指すのだろうか。

*3つの誓い:①最後の一人まで賠償貫徹、②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底、③和解仲介案の尊重

(山口幸夫)