「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」パブリックコメント応募意見

「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」パブリックコメント応募意見

2019年5月15日

NPO法人原子力資料情報室

 

地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」において、各国は2020年までに長期低排出発展戦略(以下、長期戦略)を国連に提出する必要があります。政府は本年6月のG20大阪サミット前の長期戦略公表をめざしており、首相官邸に設置された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」が、4月2日、提言をとりまとめました

これを受けて、政府は4月23日、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」を発表、4月25日から5月16日まで案に対する意見公募をおこなっています。これに対して、原子力資料情報室は以下の意見を応募しました。ぜひ、皆様も意見を応募ください。

 

p8 23-26

長期戦略には「我が国は、2015 年に提出した約束草案(自国が決定する貢献)において、2030年度の目標として、技術的制約、コスト面の課題等を十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実行可能な削減目標(ターゲット)を示した」、「他方、長期的な気候変動政策に当たっては、むしろ、将来の「あるべき姿」としてビジョンを明確に掲げるとともに、政府としてそれに向けた政策の方向性を示す」とある。

約束草案において温室効果ガス削減目標積み上げに用いたエネルギーミックスは、2030年度時点の総発電電力量 10,650 億 kWhに対して、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石炭26%、LNG27%、石油3%というものであった。一方で、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が取りまとめた「2019年度供給計画」では2028年度までの長期見通しが示されている。OCCTO資料は電気事業法に基づき電気事業者から提出された供給計画を取りまとめたものであり、根拠のある固い数字が示されていると考えられる。

2028年度の時点での需要電力量は8,821億kWh、2030年度総発電電力量に占める2028年度における各電源の発電電力量の割合は、再生可能エネルギー21%、原子力3%、石炭30%、LNG23%、石油3%というものである。2028年時点ではあるものの、2030年度目標比で発電電力量は約2,062億kWh不足している。大きなものではLNGは約4%不足、原子力は約17~19%不足が見込まれる。その一方で石炭は約4%超過する。

原発再稼働を目当てに当該目標が策定されたものの、稼働できたのは2019年時点で9基の再稼働にとどまる。2030年度エネルギーミックス目標を達成するためには、廃炉となっていないすべての原発(建設中含む)が稼働できなければ達成できない、きわめて厳しい目標だ。一方で、国がこのエネルギーミックス目標を維持した結果、電源開発への投資が制約されている。原発20~22%という目標が存在しているため、その他の電源に投資した場合、電源に対する過剰投資が発生し、投資が回収できなくなる可能性が出るためだ。

2030年度エネルギーミックス目標は特に原発の再稼働の困難さから達成困難となっていることは明らかだ。にもかかわらず、この目標を維持した結果、エネルギー転換部門からの温室効果ガス排出量の削減目標は達成できず、さらに原発の再稼働が難しいことから、電源不足となるリスクも抱えかねない。電源開発には長期の時間と巨額の投資が必要であることを考えれば、エネルギーミックスの見直しは急務である。

長期の「ビジョン」や「方向性」を示したところで、中期の目標の達成が困難となっていることから目をそらしていては、永久に目標は達成できない。国民の大多数が原発に反対しているという現実を踏まえて、脱原発と再生可能エネルギーの最大限導入にむけて大胆に施策に取り組むべきだ。

 

p.11 15~17

長期戦略は、「脱炭素社会は、将来に希望の持てる明るい社会でもあるべきである。このような社会の姿をできるだけ多くのステークホルダーと共有することで、自主的かつ積極的に取り組む環境を創出することが重要」だと指摘する。またパリ協定は「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」ことを求めており、この達成のためには、最大のステークホルダーである国民の関与は必要不可欠である。しかし、長期戦略の策定過程において、国民との対話はほぼ行われておらず、パブリックコメントについても長期休暇の直前に、通常よりも短い期間で実施された。

深いライフスタイルの変化のためには、当然ながら国民の納得と参加が必要不可欠であり、そのためにはボトムアップでの案作りこそが、最短ルートである。G20という政治日程ありきではなく、パブリックコメント終了後でも、国民との対話の場や、討論型世論調査を実施したうえで、案を抜本的に見直すべきだ。

 

p.14 33~34行、p.15 8~10行、p.61

長期戦略は、「原子力は、安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減」と述べる一方、「2050 年という長期は、より複雑で不確実である。こうした状況下でエネルギー転換・脱炭素化への挑戦を進めていくためには、全方位での野心的な複線シナリオの下、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、原子力、CCS・CCU等、あらゆる選択肢の可能性とイノベーションを追求していく」として、原子力を将来選択肢として維持している。

一方で、日本政府がIEA(国際エネルギー機関)に報告しているRD&D予算を見ると、過去、政府がエネルギー関連の研究開発予算において、原子力に投じてきた比率が圧倒的に多い。東京電力福島第一原発事故後、若干減少したものの、4~5割を占めていることがわかる。その一方、主力電源化を目指す再生可能エネルギーにたいしては、福島第一原発事故以前は1割未満で推移してきた。事故後、増加したものの1~2割程度であり、原子力に対する優遇は顕著だ。

日本は長年、巨額の予算を原子力の研究開発に投じてきた。しかし、古くは原子力船むつの失敗からもんじゅの廃炉にいたるまで、形になってきていない。p.61に原子力関連のの研究開発の例として「高速炉、小型モジュール炉、高温ガス炉、溶融塩炉、核融合(科学的・技術的実現性の検証)、加速器を用いた核種変換等」が掲げられているが、これらはいずれも長年研究開発がすすめられ、にもかかわらず、実用化に遠く及ばないものばかりである。こうしたものに対して、いつまでも限られた国の予算を投じ続ける必要があるのか。

長年の原子力にたいする様々な補助政策の結果が福島第一原発事故であった。そうした政策上の反省に立ち、再生可能エネルギーと変動型電源大量導入時代に備えた研究開発に、大胆に予算を切り替えるべきだ。

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