使用済み燃料が足りない!? -虚妄の再処理事業は撤退すべき-

『原子力資料情報室通信』第542号(2019/8/1)より

経緯 

 国と原子力事業者は、発生した使用済み燃料を全量再処理し、プルトニウムとウランを分離、これを再利用する計画を進めてきた。2021年度中には六ヶ所再処理工場を稼働する予定としている。
 六ヶ所再処理工場では年間最大800トンを40年間処理する計画で、同工場の再処理量合計は32,000トンとしている。また、2006年、六ヶ所再処理工場の処理量を超える使用済み燃料のうち32,000トン分は、第二再処理工場で再処理するとして、費用措置をとることとした。当時は、2043年までの使用済み燃料は64,000トン発生する見込みで、これを六ヶ所再処理工場と第二再処理工場で再処理する計画だった(図1)。
 もともとは、再処理によって回収できるプルトニウムとウランの価値で再処理費用は賄えると想定していた。しかし、回収できる価値を費用が大幅に上回ることが判明したため、1981年から六ヶ所再処理工場で必要になる費用について引当を始めた。1986年からは、総括原価方式のもと電気料金の原価に算入され、電気料金で徴収されている。徴収された費用は、2005年度から原子力環境整備促進・資金管理センター(原環センター)に積み立て、必要に応じて取り戻して、六ヶ所再処理工場の事業者である日本原燃(株)に支払われてきた。
 また、第二再処理工場分は電気料金の原価として認められず、電力会社が自主的に使用済み燃料の発生量に応じて引当金として内部留保してきた。なお、電力一部自由化により新電力に乗り換えた需要家にも、過去に原発の電気も利用していたとして費用負担させることとした。具体的には、再処理費用のうち2.7兆円を「既発電」と称して、託送料金(送配電網の使用料)に上乗せし、2005年度から15年間の予定で回収している。

図 1 2006年時点の使用済み燃料発生量予測

新制度-再処理事業の安定化?

 2016年、国は、「電気事業の小売全面自由化に伴い、地域独占・総括原価方式が撤廃されることで原子力事業をめぐる事業環境に大きな変化が生じる」ことから、再処理等拠出金法を制定した。この法律は2本の柱からなっている。一つは、「事業に必要な資金の安定的確保(拠出金制度の創設)」。もう一つは「再処理等事業が着実かつ効率的に実施されるための体制の整備(認可法人制度の創設)」だ。
 具体的には、これまで積立金として処理されてきた六ヶ所再処理工場分の費用と、引当金として内部留保されてきた第二再処理工場分の費用を、「再処理等に係る拠出金」として使用済み燃料の発生量に応じて、一括して徴収することにした。また、「再処理工場での工程と不可分な関連事業(MOX加工事業、廃棄物処分等)」についても、「再処理関連加工に係る拠出金」として同様に使用済み燃料の発生量に応じて徴収することとなった。こうした費用は電気料金として旧一般電気事業者の電力消費者が負担している。
 また拠出金管理と、再処理事業の実施主体として「認可法人使用済燃料再処理機構」(井上茂理事長(元東北電力副社長)、以下機構)を設立した。以前は国が電力会社毎に積立額を通知してきたが、機構の設立後は、機構が拠出金単価を決め、国が認可する体制になった(図2)。かつて示されていた積立金の計算式も示されなくなり、機構の設立で再処理事業はより不透明になった。
 なお、この制度を提言した2016年の原子力事業環境整備検討専門ワーキンググループ中間報告のパブリックコメントで、「原子力事業者が…拠出金を拠出することにより、原子力事業者による再処理等の経済的責任(費用負担責任)が果たされ、義務は解除され、受領した拠出金に係る再処理等の経済的責任は新法人が担うことになるとの理解でよいか」との質問にたいして、国は「新法人に拠出金を納付した時点で、当該拠出金に係る原子力事業者の費用負担の責任が果たされ、新法人が再処理等を実施することとなる」と回答している。

図 2 再処理拠出金制度のイメージ

使用済み燃料の発生量上限

 第二再処理工場分の費用をどうするか検討した2006年当時は、ピーク時で68基の原発が稼働し、年間1,350トンの使用済み燃料が発生すると想定されていた。
 一方で、2019年7月現在、廃炉になっていない原発は33基、建設中は3基のみだ。また国は繰り返し「現時点において原発の新設、リプレースというのは我々は全く考えておりません」(世耕弘成経済産業大臣、2019年3月13日衆議院経済産業委員会)と答弁している。さらに、東京電力福島第一原発事故後に改正された原子炉等規制法では、原発は例外的に20年の稼働延長が認められても原則40年で廃炉となる。まとめると、新設なし、原発は40年か60年で廃炉のため、いずれ原発はゼロになる。
 原発がゼロになる時点がわかれば、使用済み燃料の発生量上限を計算することができる。そこで、今回、35基が40年稼働したケース1)、35基が60年稼働したケース2)、20基が60年稼働したケース3)の3ケースで使用済み燃料発生量を試算した4)。また機構は、再処理拠出金単価を使用済み燃料発生量1gあたり573円と公表しているため、発生量に乗算して拠出金の積立額も試算した5)
 なお、「再処理関連加工に係る拠出金」は今回試算していない。また、割引率は現状の金利環境を鑑みて0%で計算した6)

試算結果

 試算の結果を表1にまとめた。35基40年稼働ケースだと、使用済み燃料発生量は既発生分を含めて
31,900トンとなる。2018年以降の発生量から推計される拠出金額に積立金・引当金の残額繰り入れを合わせた拠出金総額は12.3兆円であり、機構の六ヶ所再処理工場の総事業費見積もり13.9兆円に1.6兆円不足する。35基60年稼働ケースの場合、使用済み燃料発生量は45,400トン、拠出金総額は20.2兆円となり、7.6兆円不足する。20基60年稼働ケースだと発生量は36,000トン。不足額は13兆円だ。このケースでは、通常の使用済み燃料発生量31,500トンは六ヶ所再処理工場の処理量の範囲内のため、発生する使用済みMOX燃料3,500トンの再処理の為だけに第二再処理工場を建設することになる。
 仮に不足額分を拠出金で回収する場合、拠出金単価はそれぞれ719円/g、886円/g、1,439円/gにする必要がある。100万kWの原発を1年動かすと約20トンの使用済み燃料が発生するため、拠出金の年額はそれぞれ144億円、177億円、288億円になる。

Chart

まとめ

 核燃料サイクル政策はこれまで弥縫策に弥縫策を重ねてきた。再処理拠出金制度もその一つだ。
 再処理のコストはkWh当たりにすればほんのわずかだ、という議論がある。仮に使用済み燃料発生量年間1,350トンという当初計画で573円/gを支払った場合、年間負担総額は7,735億円になる。100万kWの原発が68基、設備利用率70%で稼働した場合、kWh当たりは1.86円。MOX等の加工費は各原子力事業者で異なるが、86円/gで計算すると、それぞれ1,161億円、0.28円/kWh、合計では年8,896億円、2.14円/kWhに上る。とてもわずかな負担とはいえない。
 国は再処理等拠出金法で再処理の事業環境が安定化したという。しかし新設が前提でない以上、日本の原子力は最終段階にある。原発がない中で再処理だけは事業が安定化するなど、笑い話にもならない。早急に再処理事業の中止を議論すべきだ。

再処理の前提-高速炉

 MOX燃料の軽水炉利用は高速増殖炉開発の中継ぎとして出てきた。しかし、高速増殖炉もんじゅの開発計画はとん挫した。国は、フランスの高速炉ASTRIDの開発計画に協力して、生き残りを図ろうとしてきた。しかし、フランスの改定作業中の長期エネルギー計画“Programmations pluriannuelles de l’énergie (PPE)”によれば、フランス側でも高速炉開発の必要性が問われている。フランス政府資料によると、「天然ウランは豊富かつ低価格で入手可能であり、高速炉の実証炉と実用化は少なくとも21世紀後半までは不要」だという。ASTRID は2019年まで予算措置がされているがその後は不透明だ。
 国は高速炉開発「戦略ロードマップ」で、「21 世紀半ば頃の適切なタイミング」において「現実的なスケールの高速炉が運転開始」という目標を立てた。しかし、新設がない以上、今世紀半ば以降に存在する原発は多くて数基だ。原発に電力供給を頼れないことは明らかであり、高速炉開発とん挫という現実の受け止めを遅らせているに過ぎない。

コストだけではない再処理の虚妄

 国が主張する再処理の意義は2点ある。一つは資源の有効利用、もう一つは減容化・有害度低減だ。
国の計画では、再処理を行い、ウランやプルトニウムと他の放射性物質を分離し、ガラス固化体にして地層処分する。結果、ガラス固化体の体積は使用済み燃料のおよそ4分の1に、また潜在的有害度は12分の1になるという。
 この議論は、発生した使用済み燃料の全てを再処理しつづけることが前提だ。しかし新増設がないことを前提にすれば、いずれは終わりがやってくる。そうでなくとも、使用済みMOX燃料はプルトニウムが高次化7)している。第二再処理工場でなら再処理できたとしても、通常の軽水炉では使いにくい。通常の低濃縮ウラン使用済み燃料の再処理で取り出されるプルトニウムに混ぜて使うことも検討されているが、ただでさえ経済性の悪いMOX燃料のコストがさらにかさむ。いずれは使用済みMOX燃料を処分することになる。
 国は高レベル放射性廃棄物(=ガラス固化体)を地層処分する方針だが、処分場面積は処分体の体積でなく発熱量できまる。ガラス固化体の発熱量は使用済み燃料の発熱量より低いので、永久に再処理できれば処分場面積は小さくなる。しかし高速炉の開発ができなかった以上、それはできない。使用済みMOX燃料の発熱量は通常の使用済み燃料の約4倍で、処分場面積は期待するほど削減できない。
 また、この試算では発生した使用済み燃料の全量再処理を前提としているが、再処理で取り出されるのは、核兵器の材料ともなるプルトニウムだ。
 国は「利用計画のないプルトニウムは持たない」ことを世界に向けて表明してきた。しかし、日本のプルトニウム保有量は増加の一途をたどったため(2017年末時点で47.3トン)、2018年には原子力委員会が「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」を発表。その中で「我が国は…プルトニウム保有量を減少させる。プルトニウム保有量は…現在の水準を超えることはない」8)と表明した。
 具体的には、再処理で取り出されたプルトニウムはMOX燃料として軽水炉で利用する計画だ。しかし、新増設なし、原発の寿命を考慮すると、16~18基でMOX燃料利用というプルサーマル計画が順調に進んでも、廃炉が進むにつれて、プルトニウム消費量は減っていく。
 全量再処理する一方で、プルトニウム消費量が減れば、プルトニウム在庫が増えることは自明の理だ。一方「考え方」が示すように、プルトニウム消費量に応じて再処理量を調整すれば再処理されない使用済み燃料が増える。また処分場面積を増やす発熱量の大きな使用済みMOX燃料の量も増える。つまり、再処理の目的である減容化と資源の有効利用はどちらも達成できない。

(松久保肇)

1)泊1-3、大間、東北電東通、女川2-3、柏崎刈羽1-7、東海2、浜岡3-5、志賀1-2、敦賀2、美浜3、高浜1-4、大飯3-4、島根2-3、伊方3、玄海3-4、川内1-2(建設中とされている東電東通は除いた)
2)東海2、美浜3、高浜1・2は20年延長。
3)泊1~3,柏崎刈羽1~5、東海2、浜岡3~5、敦賀2、志賀1~2は非稼働
4)プルサーマルは18基で実施。開始時点は承認済みについては稼働時点から、未承認・計画ありについては再稼働から5年で実施すると仮定。
5)使用済燃料再処理機構に移管されるまでに原環センターで積み立てられていた総額は5.2兆円、2015年時点の電力10社使用済燃料再処理等準備引当金は2,110億円、再処理等既発電費は2020年度まで年1,800億円計上した。
6)機構における拠出金の運用状況は明示されていないが、原環センター時代、積立金は6割が長期国債、3割が超長期国債、1割がその他で運用されていた。直近5年の10年国債利回りは平均0.19%、直近1年ではマイナス金利となっている。なお、機構の収支から資金運用益はおよそ1.1%程度あると推測できるが、これは今後減少していく。
7)核分裂性プルトニウムの割合が減少し、その他の同位体プルトニウムの割合が増えること。また使用済みMOX燃料は超ウラン元素の割合も増える。再処理を繰り返すほど高次化や超ウラン元素の割合増加は進む。
8)筆者は原子力委員会に繰り返し、「現在の水準を超えることはない」の意味を確認しているが、明確な回答はない。

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。