【原子力資料情報室声明】日印原子力協定 疑わしいインドの核政策、協定は見直すべきだ

日印原子力協定 疑わしいインドの核政策、協定は見直すべきだ

2019年9月10日
NPO法人原子力資料情報室

インドのラジナート・シン国防相は8月16日、ツイッターに「インドは核の先制不使用を固く守っている。将来どうなるかは状況次第だ」と投稿した。北部カシミール地方を巡って対立するパキスタンを牽制する発言と見られている。

 インドは2003年に発表した核ドクトリン(核兵器運用指針)で核の先制不使用と、核による攻撃にたいしては、甚大で回復不可能な攻撃をおこなう(生物・化学兵器に対する報復措置としての核兵器使用を留保)ことを宣言している。しかし、シン国防相の発言を含め、近年、インド政府高官から核の先制不使用を緩めようとする発言が繰り返されている。モディ首相自身も2019年の総選挙中に、「パキスタンの脅威に恐れることはない」「彼らは『自分たちは核のボタンを持っている』と言ってきた。我々の持っているのはただの飾りか」などと発言している。

 先制不使用は宣言した国を信用できるかどうか、将来も持続される保証があるかが極めて重要だ。そういう意味で、政府高官が先制不使用の見直しを発言すれば、政策に対する信頼は希薄化する。「将来どうなるかは状況次第」なのであれば、もはやインドの先制不使用は修正されたにも等しい。南アジアの核をめぐる緊張が大きく高まっているなかで、このような政策変更が行われることは、きわめて憂慮すべき事態だ。

 2017年、日本は核不拡散条約(NPT)に未加盟の核兵器保有国であるインドと原子力協力の前提となる日印原子力協定を締結した。私たちを含め、多くの市民が、この協定は核不拡散・核廃絶の障害となるとして強く反対の声を上げてきた。

 協定のなかで大きな問題となったのは、核兵器を持つインドにたいして、どのように平和利用や核不拡散を担保させるかだった。そこで両国政府は、「見解及び了解に関する公文」を調印した。ここで、日本政府はインド政府が2008年に発表した声明(一方的かつ自発的な核実験の停止、核不拡散、先制不使用、原子力施設の軍民分離などを約束)から逸脱した場合、協力を停止する権利を有すると表明。一方インド政府は2008年声明を再確認した。さらに国会論戦の中で、当時の岸田外務大臣は先制不使用政策が変更された場合どうするのかとの質問に、「基礎となる文書の内容において変更があれば、権利は行使いたします」(2017年5月12日衆院外務委員会)と答弁している。

 この協定の締結により、日本政府は「インドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させるということにつながる」と主張してきた。いまこそ、日本はこのカードを使うべきときだ。協定を停止し、インドに対して、日本や世界の平和を願う市民の憂慮を伝えるべきだ。

以上

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