NSG各国大使宛 国際書簡:NSGガイドラインと不拡散原理の遵守を

プレス・リリース

専門家・核軍縮団体がパキスタンやインドへの原発輸出に反対する国際書簡をNSGの各国大使に発した。

 中国がパキスタンに2基の原発を売却するという話が進められているという確実な情報があります。

 アメリカの主導で核拡散防止のために核拡散防止条約(NPT)の枠外ある国?核兵器国5ヶ国以外の国で国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置を受けない国?に対する原子力協力を禁ずるために創設された原子力供給国グループ(NSG)において、アメリカ自身の主導により、NPTの枠外で核兵器開発を進めるインドに対しその例外措置を容認するガイドラインの変更がなされたのが2008年8月から9月にかけて行われたNSGの会合でした。NSGのガイドラインの変更には全員一致が必要ですが、この会合の際、広島、長崎市長等や世界の専門家やNGOの反対もあり、ニュージーランド、アイルランド、オーストリア等がこれに反対しました。しかし、アメリカのブッシュ政権は、米印原子力協力協定をすすめるためにこれらの国に圧力をかけ、その例外措置が最終的に許容されるに至りました。残念ながら、日本政府は、一度の反対すらもしませんでした。その後、インドへの原子力協力は、ロシア、フランス等へと拡がりました。当時、日本政府は、被爆国であることから来る国内の反対もあり、インドへの原子力協力をためらっていたのですが、最近、日本(GE-Hitachi等)による原子力協力に向けた協議が進められるに至っており、そこには、アメリカの圧力もあるとされています。

 今、NSGの例外措置がインドのみならず、中国のパキスタンへの原子力協力にまで拡がろうとしています。中国は、現在46ヶ国で構成される原子力供給国グループ(NSG)に2004年に加盟する前に、既にパキスタンに原発を売却していたという経緯があります。しかし、NSGに加盟した以上、NSGガイドラインで例外措置として認められていないパキスタンへの原子力協力が許される筈もありません。今年5月に開催されたNPT再検討会議の最終文書では、IAEAの包括的保障措置を受けない国に対する原子力協力禁止が確認されました。

 そこで、今月6月21日から25日までニュージーランドのクライストチャーチで開催される原子力供給国グループの会合において、その加盟国である各国政府に対し、この問題を取り上げるよう求める国際書簡運動が進められました。

 そして、アメリカ時間で6月17日に、世界の専門家やNGOがこれに反対する国際書簡をNSGの各国大使宛に発しました。

 その国際書簡の署名者には、そのジャヤンタ・ダナパラ元軍縮担当国連事務次長、1995年のNPT延長会議議長、ヘンリー・スコルスキー元米国防総省核不拡散担当次官、フレッド・マクゴルドリック元米政府民生核取引担当者等の専門家、また、アイルランド、アメリカ、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、スイス、スウェーデン、日本、ニュージーランド、ベルギー、の14ヶ国のNGOの役員となっています。

 そして、日本からは、川崎哲ピースボート共同代表、田中煕巳日本被団協事務局長、朝長万左男核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員会委員長、内藤雅義核兵器廃絶市民連絡会連絡責任者、伴英幸原子力資料情報室代表、藤本泰成原水禁事務局長、森瀧春子核兵器廃絶をめざす広島の会共同代表、など12名の署名者となっています。

日本語版が下に貼付されています。英語版と賛同者リストは下記にサイトにあります:

www.armscontrol.org/pressroom/NSGComplianceLetter

なお、連絡先は、アメリカは軍備管理協会の事務局長ダリル・キンボール(1-202-463-8270 x107)、日本では原子力資料情報室の国際担当フィリップ・ワイト(03-3357-3800)


NSGガイドラインと不拡散原理の遵守を

大使閣下
 
 この間、中国政府が、パキスタンに更に2基の原発を売却する計画であるという確実な情報があります。私達は、貴政府がニュージーランドのクライストチャーチで来週開催される原子力供給国グループ会合でこの問題を取り上げ、このような取引がNSGガイドラインに反するものであることを明確にするように強く要請するものです。

 原子力供給国グループ(NSG)のガイドラインによれば、核兵器国として認められた5つの国-中国、フランス、ロシア、英国、そして、アメリカ合衆国-以外の国は、IAEAの包括的保障措置を受けない限り、NSG諸国からのほとんどの核取引を認められていません。

 中国が2004年にNSGに加盟した際、中国は既にパキスタンのチャシマに原発を建設していました。当時、中国は、パキスタンとの既存の合意に含まれる2番目の原発計画に基づき、2番目の原発を建設することができると主張していました。

 当時、チャシマに新たな原発を建設するという意図についての宣言はありませんでしたし、最終的にそのような了解もありませんでした。

 2004年の適用免除を超える中国によるパキスタンにおける新たな原発の建設は、NSGのガイドラインとも中国のNSGへの義務とも両立しません。

 私達は、貴国政府が、中国政府に対して、核不拡散の義務と規範に違反する方法によるパキスタンとの核取引に関与してはならないように繰り返し求めるよう要請するものです。

 保障措置を受けた原子力発電所に関するインドとパキスタンに対するウラニウムと核燃料の提供は、両国の核兵器用の保障措置を受けていない施設における高濃縮ウランあるいはプルトニウムの製造能力を高める効果を持ちます。2010年NPT再検討会議最終文書の行動計画35には、次のように述べられています。

 「・・ 全ての加盟国に対して、核関連取引が直接的にせよ、間接的にせよ、核兵器の、またその他の核爆発装置の開発を支援してはならず、また、そのような取引が、核不拡散条約に規定された目標と目的、とりわけ、第1条、第2条と第3条、そして1995年の延長会議で採択された原則と目標に完全に一致することを求める。」 1995年の決議には、包括的保障措置を原子力供給の条件とすることが含まれています。

 全ての国連加盟国は、国連安保理決議1172を遵守することが求められています。すなわち、インドとパキスタンに、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名し、核兵器用の核分裂性物質の生産を停止し、そして、他の核リスクの縮小措置をとることを求める決議です。
 
 パキスタンも、インドともに、包括的保障措置を受けていません。また、核兵器用核分裂性物質の生産を停止しておらず、CTBTの署名もしていません。両国ともに、現在もウラニウムの濃縮能力を高めています。

 私達は、貴国政府に対し、いかなる国もパキスタン(あるいは、基本的核不拡散規範に反する他のいかなる国)との核取引に反対し、国連安保理1172決議に従うまで、インドとの取引を差し控えるように求めるものです。

2010年6月17日