アボリション2000グローバル評議会が日印原子力協定に「懸念」の書簡

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アボリション2000グローバル評議会が日印原子力協定に「懸念」の書簡

 本日9月13日、世界的なNGOネットワークである「アボリション2000」のグローバル評議会が、日印原子力協定の交渉を見直すことを求める書簡を、日本の菅首相・岡田外相・直嶋経産相の3者に送付しました。書簡は、「日本によるインドとの原子力協力は、日本の核軍縮・不拡散へのリーダーシップをとるという主張を傷つけ、南アジアにおける核軍備競争を悪化させる」とし、「日本政府がインドとの核貿易を認めないという自らの長年にわたる政策を逆転させてしまうべきでない」と述べ、日本政府がインドとの原子力協定交渉を「見直すよう要請」しています。

 その根拠として書簡は、「インドはいまだ包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名しておらず、核分裂性物質の生産を続け、核兵器を増強して」いること、また同国が「核不拡散条約(NPT)にかつて一度も署名していない3カ国のうちの1カ国であり、核軍縮を達成するという法的拘束力ある誓約を行っておらず、国際原子力機関(IAEA)による包括的フルスコープ保障措置を受け入れることを拒んでい」ることを指摘しています。

 書簡はさらに、インドを特例扱いにすることによる「二重基準の悪影響」は、中国のパキスタンへの原子力協力へも波及すると警告しています。インドやパキスタンに供給されるウランや核燃料が、仮にそれ自体としては「保障措置下の原子炉」向けのものであったとしても、それによって「保障措置下にない施設において兵器目的で濃縮ウランやプルトニウムを生産する能力を高める」危険性があるとして、原子力協力と核兵器の関連性を指摘しています。その結果、「南アジアにおける核軍備競争を悪化させる」と書簡は主張しています。

 また、インドやパキスタンに対する核関連輸出は、先の5月のNPT再検討会議の最終文書で合意された「行動35」にも違反するとも書簡は指摘しています。

 書簡は、日豪政府のイニシアティブである国際有識者会合「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」が7月の声明で、インドへの例外化決定に際しての条件が甘いと「懸念を表明」している事実にも言及しています。

 これらのことから、書簡は「日本がインドとの原子力協力のための二国間協定の交渉を行うことに正当性はない」と結論づけています。

※アボリション2000は、核兵器廃絶のための地球規模の条約をつくることをめざして活動する全世界2000以上の団体のネットワークです。今回の声明は、その「グローバル評議会」が発したものです。詳しくは↓
www.abolition2000.org

川崎哲
Akira Kawasaki
〒169-0075 東京都新宿区高田馬場3-13-1 B1
ピースボート
Tel: 03-3363-7561



菅直人 総理大臣
岡田克也 外務大臣
直嶋正行 経済産業大臣

日本とインドの原子力協力に関するアボリション2000ネットワークからのアピール

(仮訳。原文は英語)

 本年6月28日、日本政府はインドとの原子力協力のための二国間協定締結をめざした交渉を開始しました。アボリション2000グローバル評議会注1は、日本によるインドとの原子力協力は、日本の核軍縮・不拡散へのリーダーシップをとるという主張を傷つけ、南アジアにおける核軍備競争を悪化させるものと考えます。私たちは、この交渉を進めるという貴政府の決定を見直すよう要請します。

 2008年9月6日、原子力供給国グループ(NSG)は、インドを、それまで核物質・機材・技術の同国への移転を禁じてきた核輸出ガイドラインの規定から除外することに合意しました。その例外化決定の直前に、アボリション2000米印原子力協定作業グループが準備し24カ国150以上の幅広い専門家および非政府組織が署名した国際書簡注2が、NSG加盟国に提出されました。その国際書簡は、インドによる誓約は、国際的な不拡散の規則および規範への大幅な例外化を正当化できるものではないと指摘しました。

 この国際書簡によって表明された懸念は、今日においてもあてはまるものです。インドはいまだ包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名しておらず、核分裂性物質の生産を続け、核兵器を増強しています。同国は、核不拡散条約(NPT)にかつて一度も署名していない3カ国のうちの1カ国であり、核軍縮を達成するという法的拘束力ある誓約を行っておらず、国際原子力機関(IAEA)による包括的フルスコープ保障措置を受け入れることを拒んでいます。

 NSGの例外化決定がつくりだす二重基準の悪影響は、例えば、中国がパキスタンに二基の原子力発電所を追加輸出するかもしれないという最近の発表によって示されています。パキスタンまたはインドに対して、保障措置下にある原子炉のためにウランや核燃料を供給することは、それぞれの国が、保障措置下にない施設において兵器目的で濃縮ウランやプルトニウムを生産する能力を高めることにつながります。その結果、インドおよびパキスタンとの原子力協力は、南アジアにおける核軍備競争を悪化させます。

 NSGの例外化決定があったとはいえ、インドやパキスタンとの原子力協力は、不拡散の義務と規範に反するものです。2010年NPT再検討会議の最終文書における行動35は、「すべての国に対して、核関連輸出が核兵器または他の核爆発装置の開発を直接または間接に援助することのないようにすること、またそのような輸出が本条約の目標と目標…ならびに1995年のNPT再検討延長会議で採択された…諸決定および原則と目標と完全に合致するようにすることを要請」しています。1995年のNPT会議の決定は、IAEAによるフルスコープ保障措置を核供給の条件とするという内容を含んでいます。

 これらの理由から、私たちは、日本政府がインドとの核貿易を認めないという自らの長年にわたる政策を逆転させてしまうべきでないと考えます。

 NSGによる例外化決定の後まもなく、当時の麻生総理は「(インドとの原子力協力に関する)国民の合意を得るには時間がかかるだろう」と述べました。政府の最近の決定に対する反応をみれば、日本国民がインドとの核貿易に同意するにはまだほど遠いということが明らかです。被爆者、広島・長崎市長、NGOなどが抗議声明を発しており、これは日本の市民社会がもつ核廃絶へのリーダーシップの長い伝統を示しています。日本政府はその国民の前で、同様のリーダーシップを発揮する責務を負っています。

 報道によれば、フランスと米国の政府および産業界の代表らが、日本政府に対してインドとの二国間協定を締結するように働きかけてきたとのことです。日本自身の原子力産業もまた、インドへの核輸出を勝ち取ることに熱心です。しかし、日本政府が核軍縮・不拡散へのリーダーシップをとるという自らの主張について誠実であるならば、商業的利益のために長く保持してきた原則を犠牲にするべきではありません。

 オーストラリアと日本政府の共同イニシアティブである核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)は、本年7月にウィーンで開かれた最終会合にて、以下のように、NSGによるインドの例外化決定に関する懸念を改めて表明しました。

 「…本委員会は、NSGがインドの核計画に関して例外化を認めた際の条件に関する懸念を改めて表明する。例外化決定にあたり、NSGは、軍縮と不拡散の目標および措置に関して新しい誓約を求めなかった。NPT非加盟国に対する将来の核供給については、少なくとも、受領国が核実験を行わず、核分裂性物質の生産禁止が発効するまでの間は兵器用の核分裂性物質の生産を一時停止するということが条件付けられなければならないというのが、引き続き、本委員会の見解である。」注3

 ICNNDのこの最小限の条件で十分であるかどうかについて意見は分かれるところです。しかし、インドはこれらの条件さえ受け入れないと見られていることから、日本がインドとの原子力協力のための二国間協定の交渉を行うことに正当性はないといえます。

2010年9月13日
アボリション2000グローバル評議会

注1:アボリション2000は、核兵器を廃絶する地球規模の条約をつくるために活動している90カ国2000以上の団体の地球的ネットワークである。

注2:「インドとの原子力協定、決断の時–核拡散の危機回避にご助力を–」2008年8月15日、NSG加盟国外相らに送られた国際書簡

cnic.jp/682

注3:核不拡散・核軍縮に関する国際委員会 ウィーン・コミュニケ(2010年7月5日)第20節
icnnd.org/Pages/100705_vienna_communique.aspx

連絡先(アボリション2000事務局)
The Rideau Institute, Abolition 2000 Secretariat
63 Sparks St., Suite 608, Ottawa ON, K1P5A6, Canada
tel: +1-613-565-9449
www.abolition2000.org


英語のプレスリリースのリンク:
cnic.jp/english/topics/international/nukecoop/japanindia-ab-13sep10mr.html
英語の書簡のリンク:
cnic.jp/english/topics/international/nukecoop/japanindia-ab-13sep10.html


2010/9/13 日印原子力協力交渉に異議あり
cnic.jp/944

2010/6/29 日印原子力協定は核拡散に加担するもの
cnic.jp/928

2010/4/30 日・インド原子力分野の協力に向けた協議に反対する要望書
cnic.jp/911

▼ Pan Orient News NGO Hits Japan-India Nuclear Negotiations

▼ ICNND日本NGO市民連絡会
核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)日本NGO・市民連絡会は、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」が世界が核廃絶への道筋を着実に歩んでゆくための提言を生み出すことを願いつつ、市民社会からの参画と協力を拡大することを目的に2009年1月25日、東京で発足しました。
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