六ヶ所再処理工場と活断層 ―無視され続ける大陸棚外縁断層・六ヶ所断層―

『原子力資料情報室通信』第545号(2019/11/1)より 

活断層審査の状況

 10月3日から4日にかけて、原子力規制委員会は青森県六ヶ所村で、六ヶ所再処理工場周辺の活断層をめぐって現地調査をおこなった。調査の目的のひとつは、出戸西方(でとせいほう)断層と呼ばれる活断層の北端部と南端部の地形と地質を観察することである(もうひとつの目的は八甲田山噴火によって降り積もった火山灰の状況確認である)。
 日本原燃は、六ヶ所再処理工場に影響をおよぼす地震を引き起こす陸上部分(内陸地殻内)の活断層のうちもっとも重要なものとして出戸西方断層を選び、長さを約11キロメートルと評価している。
 出戸西方断層の北端部については、2018年3月に発行された今泉ほか編の『活断層詳細デジタルマップ[新編]』(東京大学出版会)に、活断層のトレース(地表面の軌跡)が海岸線に近づきながら日本原燃のものより2キロメートルほど北側に延長したかたちで図示されているものがある。南端部については、出戸西方断層そのものではなく、地下深い位置に大きな活断層(六ヶ所断層)が存在し、より南側の地表付近の地形にまで変形をもたらしていることを、渡辺満久・東洋大学教授(変動地形学)らが2008年以降の継続的な研究で指摘し続けている。
 2016年12月26日の審査会合でいったん終了したかにみえた活断層関連の六ヶ所再処理工場の新規制基準適合性審査だったが、審査を担当している規制庁が審査書案を作成する段階になって、審査の内容に不十分な点があることがあきらかになった。2019年3月29日の審査会合で、規制委員会側は上記の2つの指摘について、データを拡充して説明するように日本原燃に求めた。日本原燃が新たに調査をおこないデータを取得するなどして審査会合で説明したのち、説明内容を確認するためにおこなったのが今回の現地調査だ。

問題にすべき活断層は?

 下北半島の太平洋沖の海中の大陸棚の縁には高さ200メートル以上の急な崖があり、1991年に出版された『新編 日本の活断層』には、六ヶ所村の東沖合から南北に延びて尻屋崎の北東沖合まで、100キロメートル以上の長さの大陸棚外縁断層が活断層として記載されている。それだけでなく、津軽海峡をはさんで活断層の延長上に、噴火湾の手前にいたる30キロメートルにおよぶ活断層によってつくられた地形(活撓曲)も描かれている。ここまで延びているとすると大陸棚外縁断層の総延長は150キロメートルにもなる(これが動いて地震を引き起こせば、六ヶ所再処理工場だけでなく東通原発やむつ使用済み燃料中間貯蔵施設、大間原発にも大きな影響をおよぼすことになるだろう)。
 池田安隆・奈良大学教授(地形学)は、事業者などがおこなった海上音波探査の記録をくわしく解析した結果、大陸棚外縁断層は約12万年前以降に活動していることは確実だという。かつての日本海形成期の正断層(1400万年前まで活動)の跡(あと)をたどって、日本列島付近の応力場が圧縮に転じて以降、大陸棚外縁断層は逆断層として活動を続け、少なくとも海底部分についてはその活動がいまも続いている、と池田さんは説明している。
 渡辺さんは、大陸棚外縁断層の南端部は2つに分岐していると指摘する。一方はそのまま海底を南にのびているが、もう一方は陸側に乗り上げるように南南西にのびていく様子が海成段丘の発達と変形の様子から読みとることができるという(図1)。大陸棚外縁断層の陸上部分を六ヶ所断層と呼んでいる。
規制委員会と日本原燃は出戸西方断層のみを問題にしたがるが、六ヶ所再処理工場で問題にすべきは、出戸西方断層ではなく大陸棚外縁断層・六ヶ所断層の方である。

12.5万年前の海成段丘面を曲げる六ヶ所断層

 海成段丘の平らな地面は大昔の海岸ちかくの海底が隆起して干上がってできたものだ。海岸が隆起する原因として第一にあげられるのは大規模な地震である。したがって、海成段丘が発達しているということは地震とその原因となる活断層の存在に注意を向けなければいけない。
 六ヶ所村の周辺には、12.5万年前にできた海成段丘(M1面)と10万年前にできた海成段丘(M2面)が広く分布している(図2)。渡辺さんの最近までの地表地形の調査・判読や露頭(地層があらわになった崖のこと。崖崩れや掘削工事などで出現する)での地層の観察結果から、次のような海成段丘と活断層との詳細な様子があきらかになった:
12.5万年前の海成段丘面が(本来の水平な姿ではなく)海側に折れ曲がって傾き下がり、そこに寄りかかるように10万年前の海成段丘が堆積し、さらに10万年前の海成段丘面も海側に傾いている。これは、12.5万年前の海成段丘ができたあとに地下深くにある逆断層が動く地震が起きて、段丘面を曲げて、段丘面が海側に傾き下がるようになった。このとき、地面・地層が柔らかかったため、逆断層の面(線)が海成段丘の地層を上端まですぱっと切ることなく、折れ曲がるにとどまった。その後に10万年前の海成段丘の地層が堆積し、さらにそのあと逆断層の活動(地震)が起きて10万年前の地層も傾いた。
 海成段丘面の傾きの幅は500メートルから1キロメートルほどで、傾きの帯は南北にのび、北は大陸棚外縁断層へとつながっている。この海成段丘面が傾いている地帯を、渡辺さんは六ヶ所撓曲(とうきょく)と呼んでいる。地下深くにあって地表に撓曲を生じさせているのが六ヶ所断層である。
 図2の露頭4(●4)の位置には長さが200メートル以上の露頭がある。また、2014~2015年ごろ、日本原燃はこのあたりで大がかりなトレンチを掘って地層の調査をし、出戸西方断層の南方トレンチとして審査会合で報告している。実際の露頭観察と日本原燃の資料を精査して渡辺さんが作成した地形・地質の断面図が図3である(一部筆者改変)。12.5万年前の地形面が0.6度から2.0度へと東側に向かって傾きを増しており、その上におおいかぶさるように10万年前の地形面ができており、1.3度で東に傾斜している。10万年前の地形面の下に12.5万年前の地形面が2.0度の傾斜で潜り込んでいる様子が露頭4で確認できる。12.5万年前の地形面が潜り込むあたりでギャップが生じている。日本原燃のスケッチにはこの箇所に逆断層が描かれており、古い地層と地層の境目が六ヶ所断層の活動によってズレ動かされて生じたものと見ることができる。
 地表近くの変形が地下の構造とよく合っている様子は、日本原燃がおこなった人工地震波による探査記録からも読みとることができる。地表の撓曲が起きている範囲で地下の地層が曲がっており、逆断層活動による変形であることを強く示唆している。日本原燃は、地下の地層の曲がりは、地盤が水平方向に圧縮されてできる向斜構造(谷状の地形)であって、現在は活動していないと解釈している。
 露頭1(●1)は日本原燃がD-1露頭と呼んでいる場所で、出戸西方断層の断層面(線)と地層の変形の様子をみることができる。ここでも撓曲が生じているが、その縦方向のズレ量は2~3メートル、変形の幅は10メートルほどと、六ヶ所撓曲にくらべてはるかに小さな規模であり、六ヶ所撓曲とはきちんとわけて議論すべきものだ。

 

想定する地震は?

 新規制基準では、後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない断層等を「将来活動する可能性のある断層等」と呼んで、その断層のトレース上には重要構造物を建ててはいけないほか、その断層によって起こされる地震で壊れないようにすること(安全機能の維持)を求めている。
 12.5万年前ないしは10万年前の地形面を変形させている六ヶ所断層が「将来活動する可能性のある断層等」にあたるのは確実だ。
 六ヶ所再処理工場をはじめ核燃サイクル施設は、六ヶ所断層の上盤側(断層面を境にしたときの上側、地震によって持ち上げられる側)に位置しているため、現在想定している以上に揺れやズレ(の衝撃)が大きくなり、六ヶ所断層が動けば施設全体が大きな被害を受けることは間違いない。とくに六ヶ所撓曲の範囲に、ウラン濃縮工場の施設がひっかかっていることを渡辺さんは懸念している。
 日本原燃が策定している基準地震動Ssをつくる際に決め手となっているのは、六ヶ所断層上にちょこんと乗っかって、地表付近にわずかなキズ跡をしるしている出戸西方断層による地震である。出戸西方断層の長さは、日本原燃の評価では、前述の通り約11キロメートルである。
 日本原燃は、基準地震動Ssを策定するにあたって、活断層の長さから地震の大きさを決めるのではなく、出戸西方断層の位置に断層モデル(断層面)を設定し、Mw(モーメントマグニチュード)6.5~6.7の規模の大きさの地震を想定している。Mj(気象庁マグニチュード)に換算すると6.9~7.2にあたる。このやり方によると、詳細な説明を省くが、結果的に断層長さを28.7キロメートルとして設定することになるので、見かけ上は出戸西方断層を大きく上回り、安全側の評価をしているようにみえる(断層長さ28.7キロメートルから経験式をもとに最大マグニチュードを設定するとMj7.3~7.4にならなければいけない)。
 しかし、本来なら六ヶ所断層とその先につづく大陸棚外縁断層を対象に基準地震動Ssをもたらす地震を策定すべきものである。大陸棚外縁断層の総延長は、最も大きく見積もると、前述の通り約150キロメートルにおよぶ。断層長さを150キロメートルとして、単純に経験式をつかって地震の規模を算定するとMj8.5~8.6になる。地震のエネルギー規模にして100倍以上の地震を想定からはずして考えていることになる。

施設の耐震性はどうなっているのか?

 六ヶ所再処理工場の施設の耐震評価について、簡単にみておく。施設における地震動(S2、Ss)の最大加速度だけで決まるものではないが、わかりやすくするため単純化して考える。
 六ヶ所再処理工場の事業指定許可時(1992年12月)の地震動S2(設計用限界地震)の最大加速度は375ガルであった。このときには、出戸西方断層はまだ活断層とは認定されていなかった。耐震設計審査指針が改定されて、耐震バックチェック報告書(2007年11月)では基準地震動Ssの最大加速度が450ガルと引き上げられた。新規制基準適合審査のために用意された再処理事業変更許可申請(2014年1月)では、日本原燃はさらにSsの最大加速度を600ガルとし、2018年4月の補正申請では700ガルとさらに大きくなった。
 2012年4月27日に公表された日本原燃による六ヶ所再処理工場に関する「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた六ヶ所再処理施設の安全性に関する総合的評価に係る報告書 (使用前検査期間中の状態を対象とした評価)」(いわゆるストレステスト報告書)をみると、「耐震裕度」(むしろ耐震切迫度というべきかもしれない)が目減りしている施設が多いことがわかる。
 いくつか紹介すると、最大加速度450ガルの地震動を対象に評価した結果、分離建屋内にある高レベル廃液濃縮缶、高レベル廃液ガラス固化建屋内の供給槽や中間熱交換器類、使用済み燃料受け入れ貯蔵建屋内のプール冷却水系、そして、各建屋の間を地下でつなぐ洞道(トンネル)は、「耐震裕度」が10~20パーセントほどしかない。10~20パーセント大きな地震動に襲われれば破壊されてしまう。
 このため、700ガルの地震動を想定した場合には、基準を満たそうとすればこれらの施設をはじめ多くの施設に大幅な耐震補強が必要になる。しかし、アクティブ試験での操業やその期間中に起きた廃液漏えい事故などで汚染され、実際の耐震補強ができない施設も多く存在していると考えられる。しかも、本来想定すべきはより大きな活断層による地震であることを考えると、状況はより厳しくなる。
 現在までに、設備及び工事認可の変更申請が提出されているもののうち耐震補強にかかわるのは、北換気筒のオイルダンパーの設置・筒身中央部の補強、前処理建屋の燃料横転クレーン、第1ガラス固化体貯蔵建屋(東棟)とガラス固化体受け入れ建屋およびガラス固化体貯蔵建屋の屋根鉄骨の一部補強、ウラン・プルトニウム混合酸化物貯蔵建屋の貯蔵ホールの下部の支持部材などである。検討中ということなのだろうか、高放射性の溶液や地下の洞道などの耐震補強はまったくない。

審査の今後は?

 今回の現地調査の対象となっているTkh露頭が図2の鷹架(たかほこ)沼の南にある。日本原燃の資料によると、12.5万年前の地層の下に砂子又(すなごまた)層上部層という砂の層があある。Thk露頭で砂子又層上部層の下部から採取した火山灰の年代測定から、砂子又層上部層は従来100万年にできたと説明してきたのだが、37万年前ごろにできたもの、と説明を変えてきた。また、日本原燃のスケッチをみると、この砂の層はそれほど堅く固まってはおらず、12.5万年前の地層といっしょに東側に傾いてみえることから、さらに新しい年代のものではないか、と渡辺さんはいう。
 現地調査を終えた原子力規制委員の石渡明さんは「日本原燃の説明は、納得できるところも多かったが疑問点もあった」と感想を述べ、さらに、出戸西方南端部付近の地下の地層の曲がりを「向斜構造である」と説明する日本原燃に対し、「向斜構造ではないのではないか」と指摘している。
 規制委員会は六ヶ所断層を見つけることができるのか。

(上澤千尋)

 

■参考資料
渡辺満久・中田高・鈴木康弘 2008,下北半島南部における海成段丘の撓曲変形と逆断層運動,活断層研究,29(2008),pp15-23
池田安隆 2012,下北半島沖の大陸棚外縁断層,科学,2012年6月号,pp. 644-650
渡辺満久 2016,六ヶ所断層周辺における海成段丘面の変形と地形発達,活断層研究,44(2016),pp. 1-8

渡辺満久 2018,広い撓曲崖を形成する六ヶ所断層,科学,2018年1月号,pp. 72-76
渡辺満久 2019,六ヶ所再処理工場周辺の活断層評価への疑問,【とめよう再処理!首都圏市民のつどい】
連続学習会「六ヶ所再処理工場の安全性を問う」第3回,2019年6月28日,(https://www.youtube.com/watch?v=4EuD6qPvhE8&t=27s)
日本原燃,核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合配付資料,第302回(2019年9月18日)ほか