六ヶ所再処理工場 原子力規制委員会による審査の問題点

『原子力資料情報室通信』第552号(2020/6/1)より

原子力規制委員会による審査はおわったが

4月28日に日本原燃は再処理事業変更許可申請書の一部補正書を原子力規制委員会に提出した。2014年1月7日にはじまった新規制基準への適合のための事業変更許可申請の最終的な補正書である。
原子力規制庁は審査書案を作成し、5月13日の規制委員会本会議で了承された。むしろ、規制庁が書きたい審査書を書くために、日本原燃に答案用紙である事業変更許可申請書の書き方を指導・提案を審査期間中におこなってきた、と見るべきかもしれない。事業変更許可申請書の内容が実装されるかどうか、十分な安全性が達成できているかどうかは、また別の問題である*。
何度か書いてきたように、六ヶ所再処理工場の審査の内容については、安全性をめぐっていくつも大きな問題がある。くりかえしになる部分も多いが、あらためていくつか問題点を指摘しておきたい。

使用済み燃料の冷却期間の変更

本誌548号で書いたように、日本原燃は六ヶ所再処理工場でとりあつかう使用済み燃料の条件を変更した。
新規制基準対応の当初には原子炉から取り出し後1年以上原発で冷却したものとしていた受け入れの条件を、最低でも4年以上へと審査期間中に変更した。また、せん断開始までの期間については、それまでの原子炉から取り出し後4年以上としていた条件を、15年以上へと変更した。
燃料条件変更によって、使用済み燃料に内蔵する放射能の量が減衰するものがあり、発生する熱の量も少なくなる。せん断開始を4年から15年とすることによって、半減期が約373.6日のルテニウム106の量が2000分の1へと大幅に減るほか、高レベル濃縮廃液の発熱密度を3分の1にまで落とすことができる。これにより、解析上では重大事故時の様子をいちじるしく緩和することができる。
高レベル濃縮廃液の冷却に失敗し溶液が沸騰しながら放射能を放出しつづける事故のことを日本原燃は蒸発乾固(じょうはつかんこ)と呼んでいる。蒸発乾固がおきると、ルテニウムが揮発しやすくなって大量に放出される。4年冷却燃料の事故解析では、高レベル濃縮廃液タンクの冷却機能の喪失から数時間で蒸発乾固の状態にいたり、ルテニウム106を中心にセシウム137換算で数千テラベクレル(数千兆ベクレル)の放射能が環境中に放出されるという結果を日本原燃は示している。これは、再処理工場での重大事故時の放出の判断基準である「セシウム137換算で100テラベクレルを十分下回る」に反していて、新基準適合性審査に合格することができない。ところが、15年冷却を条件とすれば、蒸発乾固にいたったとしても放出量は数テラベクレルにおさえられ、基準をクリアできることになる。
せん断開始までの時間4年を15年へと延ばす「現実的な対応(何もせずに書類上で燃料条件を書き替える)」をしたことが、日本原燃がおこなった実質的にもっとも大きな「重大事故対策」なのかもしれない。冷却期間をさらに大きくしていって、いっそのこと冷却期間無限大=再処理しない、というオプションをまじめに検討することを提案したい。
臨界事故、使用済み燃料プールの冷却水喪失、放射性廃液の漏えい、有機溶媒火災、レッドオイルなど爆発物の生成と爆発ほか、燃料条件を変えてもついてまわる再処理工場の事故の発生は避けられず、その場合には大きな規模の放射能放出がおこりうる。

大陸棚外縁断層および六ヶ所断層が「将来活動する可能性のある断層等」

であることは否定できない

新規制基準では、後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できない断層などを「将来活動する可能性のある断層等」と呼んで、その断層のトレース上には重要構造物を建てることを禁じているほか、その断層によって起こされる地震で壊れないようにすることを求めている。
本誌545号において、六ヶ所再処理工場の周辺に大陸棚外縁断層および六ヶ所断層という「将来活動する可能性のある断層等」が存在することを書いた。
再処理工場前面の太平洋沖海底に長さ100キロ以上の長大な大陸棚外縁断層があり、その南端部は2つにわかれて一方は陸側にむかってのびている。平らな地面(12.5万年前ないしは10万年前に形成されたもの)を曲げて海側に傾き下がる地形構造が見いだされており、東洋大学教授(変動地形学)の渡辺満久さんはこれを六ヶ所撓曲(とうきょく)と呼んでいる。六ヶ所撓曲をつくりだしている地下深いところにあるのが六ヶ所断層である。いいかえれば、12.5万年前ないしは10万年前の地形面を変形させている六ヶ所断層が「将来活動する可能性のある断層等」にあたるのは確実だ。
日本原燃は、六ヶ所再処理工場に影響をおよぼす地震を引き起こす陸上部分(内陸地殻内)の活断層のうちもっとも重要なものとして出戸西方断層(でとせいほうだんそう)をえらび、長さを約11キロメートルと評価している。
六ヶ所撓曲の変形の幅が1キロメートルほどであるのに対し、出戸西方断層の変形の幅は数十メートルほどとまるで規模が違う。鉛直方向のズレ量についても、六ヶ所撓曲のものが数十メートルであるのに対し、出戸西方断層のものは2~3メートルとはるかに小規模である。六ヶ所断層上ににちょこんと乗っかって、地表付近にわずかなキズ跡をしるしているのが出戸西方断層である。出戸西方断層で活断層を代表させ、基準地震動をつくれば、以前に書いた通り、過小な評価になるのははっきりしている。
日本原燃と規制委員会は、六ヶ所断層を無視するか、あるいは出戸西方断層と故意に混同するような態度をとっている。六ヶ所撓曲を議論していても、出戸西方断層の北方ないしは南方への延長のありなしや長さの問題にすり替えて審査をおこなってきた。
昨年3月の規制委員会からの指示によって、日本原燃は出戸西方断層の南端を示すために鷹架(たかほこ)沼南岸の露頭の調査をおこなってきた。調査の結果、従来は100万年以上前につくられたとしていた地層が年代測定によって38万年前ごろにできたものと説明を変え、名前も六ヶ所層と仮の名前をつけた(本誌545号で、この地層について、さらに新しい年代のものではないかと渡辺さんが解釈しているかのように書いたのは、筆者の誤解でした。訂正のうえ、お詫びします)。
日本原燃は、調査の範囲を広げ、鷹架沼南岸の斜面を数百メートルにわたり散発的に露頭を削り出す調査をおこない、六ヶ所層の地層は「ほぼ水平に分布しており」断層運動の影響を受けていないと結論している。しかし、もとになったデータは、非常に散発的なものであり十分な確度をもったものとはいえない。また、鷹架沼南岸の地下が変形を受けていないことが、六ヶ所断層の存在と活動性を否定することにはならないのではないか。

*審査書案に対して、5月14日から6月12日の30日間を提出期間と限定して、
「科学的・技術的意見の募集」(パブコメ)がおこなわれている。
www.nsr.go.jp/procedure/public_comment/20200514_01.html

参考資料
・六ヶ所再処理事業所再処理施設に関する事業変更許可申請の一部補正、4月28日
www.nsr.go.jp/disclosure/law_new/REP/180000013.html
・被規制者等との面談概要・資料、2020年4月、再処理事業に関するもの
www2.nsr.go.jp/disclosure/meeting/REP/202004.html
4月28日、日本原燃(株)再処理施設の新規制基準適合性に関する資料提出、その1~その7、資料1~資料56
・第5回原子力規制委員会、5月13日、配付資料
資料1-1 日本原燃株式会社再処理事業所再処理事業変更許可申請書に関する審査の結果の案の取りまとめについて(案)
www.nsr.go.jp/data/000310671.pdf
資料1-2 日本原燃株式会社再処理事業所再処理事業変更許可申請に関する審査(案)の概要
www.nsr.go.jp/data/000310672.pdf
・第339回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合、2020年2月21日、配付資料
www2.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tekigousei/
nuclear_facilities/200000107.html

(上澤千尋)