2024年3月10日
NPO法人原子力資料情報室
2011年3月11日、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震によって東日本大震災が発生した。巨大地震と大津波に襲われた東京電力福島第一原発が過酷事故を起こして爆発。膨大な量の放射性物質が環境にばらまかれた。
あれから、すでに、13年を数える。だが、事故はまだ終わっていない。とりわけ、事故を起こした原発の後始末が遅々として進まない。後始末と言いつつも、どのような状態にするのか、具体的な最終状態を決めることができないでいる。放射能という存在がそうさせているのだ。事故から30~40年で終息するだろうか。その見込みを立てることができない。百年作業になるのではないかとおそれる。
誰もが、こんな深刻な事故は二度と起きてはならないと願ったはずだった。厳しい自然現象に直面するとき、原発というシステムは技術で制御できるものではない、と判ったからだ。だが、岸田GX政策は、気候変動に対応すると称して、原発回帰を謳う。まるで、福島原発過酷事故を無視するかのように。
脱炭素のために、原発は欠かせない、国の全面的援助のもとに新型原子炉にも取り組むと言う。しかし、核ごみの文献調査も、使用済み核燃料の後始末も、核燃料サイクルの根幹をなす六ヶ所再処理工場も、行き詰まって見通しが立たないでいる。それを、まるで知らぬかのように。
長年にわたって破綻してきた原子力政策を、国は見直すことをしない。
新年の第一日、夕刻、マグニチュード7.6の能登半島地震が起こった。家屋は崩壊し、道路は寸断され、地盤は沈下し、かつ最大4メートルも隆起する地殻変動が起きた。自然災害とは言うものの、〈活動している地球〉に起因して繰り返して起こる自然の営みである。技術でそれを制御することはできない。
北陸電力の志賀原発2基は停止中だったが、深刻な被害を受けた。かつて計画されたが、根強い反対運動で撤回に追い込まれた珠洲原発が、もし実現していたなら、福島事故を超える大事故になっていたに違いない。避難がままならず、人々は致死的な量の放射線で被ばくせざるを得なかっただろう。 13年前の3月11日に発せられた「原子力緊急事態宣言」は今も解除されていない。世界で最大級の変動帯に位置する日本列島に、安全優先で原子力発電所を立地することはできないと、国は認識すべきではないか。
The post 【原子力資料情報室声明】13年を経て、地震・津波・放射能 first appeared on 原子力資料情報室(CNIC).]]>だが、既報の通り、専用港内の放射性物質濃度があまり低下しない(注1)。これは、放射性物質が海洋に追加で供給されていることを意味している。ではどこから出ているのか。
専用港への放射性物質の供給源はそれほど多くはない。①事故時に放出された放射性物質が降雨により構内排水路に流入・排水、②サブドレンでくみ上げた水の排水、③海側遮水壁から漏れた水、の3経路が主なものである。構内排水路・サブドレンの排水ともにモニタリングが行われているが、専用港内の放射線量を説明できるほどの放射性物質量ではない。一方、③の海側遮水壁は、深さ約30mまで鋼管矢板を打設している。透水係数は難透水層と同程度の10-6cm/秒とされているが、一定量の漏洩は発生しうる。実際、東京電力の計算では30トン/日の地下水が漏えいすることになっている。また鋼管矢板が難透水層のある十分な深さまで打設されているかについても不明確なところがある。
では、漏えいしている地下水がどのような性状のものか。例として、1・2号機周辺と護岸付近の地下水のサンプリング結果からいくつかのポイントの推移を示した。
まず1・2号機建屋周辺の地下水だが、一目してわかる通り、位置によってだいぶ状況が異なる。たとえばNo.24の水の濃度はおおむね一定といってよい動き方をしているが、それ以外のポイントではかなり激しく上下動している。なお、仮に事故時に放出されたものが地面に落ちて徐々に地下水に浸透しているのであれば、継続して上昇するはずだが、そうではない。なお、タービン建屋(T/B)側は各号機とも床面まで汚染水除去が完了している。
では、より専用港に近い位置ではどうか。1号機(No.0-1)、1-2号機取水口間(No.1-8、1-9)、2-3号機取水口間(No.2-6、2-7)、3-4号機取水口間(No.3-4、3-5)と、2号機スクリーンポンプ室南側(No.2-3、2-5)の経年変化を見ると(縦軸が各グラフで異なることに留意)、これも大きく変動していることがわかる。なお、取水口間は地盤改良(水ガラスの注入)が行われているので、地盤改良した地点の上流側と下流側の結果を示しているが、いずれも上流側が下流側を大きく上回っている。また、2号機スクリーンポンプ室南側では濃度上昇が起きている。結果、その下流側のNo.2-7でも上昇しているように見える。ここで示さなかったポイントでも変動は確認できる。
東京電力も護岸エリアのモニタリング結果の変動値を検証しているが、昨年12月11日の報告によれば、建屋からの漏洩ではなく、地下水位分布に伴う挙動によるものと想定している(注2)。確かに、建屋内滞留水と比べて放射性物質の濃度が異なるが、雨水や地下水で希釈されていることも考えうる。建屋近傍のサンプリング結果と照らして考えると、事故時に放出された汚染水によると考えてよいかは疑問だ。
福島第一原発の廃炉は始まりから地下水との闘いだった。事故から13年、デブリの冷却は進んでいる。水をかけて冷却するのではなく、空冷への転換など、これ以上汚染水を増やさない抜本的な対策が必要ではないか。
(松久保肇/2024年3月1日発行 原子力資料情報室通信597号より)
(注1) https://cnic.jp/47439
(注2) https://www2.nra.go.jp/data/000463742.pdf
1月1日に発生したマグニチュード7.6の2024年能登半島地震は、その後に余震も続いたこともあり、奥能登地方を中心に大きな被害をもたらしている。家屋などの損壊にとどまらず、崖崩れや地盤の崩壊によって道路が破壊される現象がいたるところで起きている。
地震領域の長さは150km以上に広がっている。本震の震源と考えられている海底活断層から南に20km離れた地点で、別の活断層(富来川(とぎがわ)南岸断層)が誘発されて動いたことが、名古屋大学の鈴木康弘さんら(日本地理学会断層調査グループ)によって確認されている。
本震(1月1日16時10分)では、震央(破壊開始点の直上の地表)から約70km南東にある志賀原発でも大きな揺れを計測した。地表で震度5弱、1号炉の原子炉建屋最下階の床面で最大加速度399.3ガルを観測した。地震動の本格的な解析結果はまだ公表されてはいない。この揺れによって志賀原発がどのような被害をうけたか、少し長くなるが一つ一つみておく。
① 使用済燃料プール冷却浄化系ポンプが一時停止した(約30分後に再起動した)。プール水温は29.5度で変化なし。当初は電源電圧の異常で停止したと北陸電力は説明していたが、現在はスキマサージタンクの水位の低下によるものと推定している。
② 起動変圧器から3600リットルの絶縁油が漏れた。これにより起動変圧器が使えなくなったため手動で予備電源変圧器に切り替えて赤住線(66kV)から受電した。地震発生時には放圧板が動作した。No.4放熱器で上部配管接続部の損傷と補強板とフィンの接続部に割れ、No.1~3、No.5~6放熱器には補強板とフィンの接続部にひび割れが見つかった。コンサベータ(変圧器内の絶縁油が温度の変化で膨張する量を吸収するタンク)の内部のゴム袋が揺れによって損傷した可能性がある。
③ 所内変圧器および主変圧器の放圧板が地震の揺れにより動作して開放した。
④ 使用済み燃料プールの水が地震によるスロッシングでオペレーションフロアに飛散した(約95リットル、約17100Bq)。
⑤ タービン補機冷却水系サージタンクの水位が低下した。原子炉建屋・タービン建屋の換気空調系の冷却コイルが損傷して冷却水が漏えいしたため。
⑥ 放水槽の周囲(全周約108m)に設置された防潮堤(高さ4m)の南側壁が数センチ傾斜した。防潮堤のコンクリート基礎部が地震の影響で数センチ沈下した。補機冷却側連絡通路付近の道路に空隙が見つかった。
⑦ 純水タンクの水位が低下した。屋外の埋設配管から漏えいを確認された。
⑧ 高圧電源車アクセスルート付近の道路の3箇所に数センチの段差が発生した。
⑨ 1月16日に発生した地震により志賀町で震度5弱を計測したことによる保安確認措置として、高圧炉心スプレイディーゼル発電機の試運転をしたところ、自動停止するトラブルが発生。2号炉における地震の影響
⑩ 主変圧器から絶縁油漏えいした(回収された油量は約19800リットル)。予備電源変圧器に自動で切り替わって志賀原子力線(275kV)から受電。噴霧消火設備が自動起動した(火災の発生はなし)。放圧板が動作した。No.11冷却器上部配管接続部に損傷、No.1 ~ No.10冷却器上部配管接続部に塗装ひび割れ、コンサベータと放圧管を接続する配管の損傷が見つかった。
⑪ 励磁電源変圧器の放圧弁が動作し、堰内に絶縁油が約100リットル漏えいした。
⑫ 使用済み燃料プールの水が地震によるスロッシングにより飛散した( 約326リットル、約4600Bq)。
⑬ 地震の揺れにより、低圧タービンにて「伸び差大」の警報発生。スラスト軸受けに過剰な力が加わりタービン翼が損傷した可能性が高い。
⑭ 使用済み燃料プール内に保管してあった原子炉冷却材再循環ポンプのインペラ・シャフト検査装置水中TVカメラユニットケーブルカバー(ポリエステル製)の一部がプールの底に落下。
⑮ 本震による津波が到達したため、取水槽内の海面水位が約3m上昇し(17時47分)、約1m低下し(17時52分)ていたことがデータにより確認された。1・2号炉の共通設備における地震の影響
⑯ 1号炉と2号炉の廃棄物処理建屋を接続するゴム製のシール部材(エキスパンション)を覆う金属製のカバーが脱落しているのが見つかった。
⑰ 物揚場の埋め立て部(中央部)の舗装コンクリート全体が沈下し、護岸とのあいだに最大35センチ段差が発生した。
①~⑰までのおおよその発生場所を国土地理院が地震後の1月17日に撮影した空中写真の上に記したのが図1(表紙に掲載)である。敷地内の活断層のトレースを追加してある。
②③⑥はS-2・S-6断層と無関係とは思われず、ほかにも⑩⑪はS-8、⑦⑯はS-1とそれぞれなんらかの関係がありそうにみえる。これらの断層が今回の地震の影響で動いた(動かされた)可能性も考えられる。
昨年3月にS-2・S-6断層などを「将来活動する可能性のある断層等」ではないと原子力規制委員会が認定したことの不当性は本誌第586号(2023/4/1)で指摘したとおりである。
断層の挙動について知るために、舗装を取り除いてトレンチを掘るなどして厳正に調査することが最低限必要である。今回の地震で動いたことが見いだされれば、志賀原発は即閉鎖である。
そうなると、原子力規制委員会の判断が間違っていたことになるのだから、敷地内に同様な小断層がある原子力施設についても再検討する必要がでてくる。
図2には、最近の北陸電力の審査資料をもとに能登半島の志賀原発周辺の活断層の分布を示した。細い実線で活断層を示しており、富来川南岸断層と兜岩沖断層のあいだの破線をのぞいて、北陸電力が認定したものであることを表している。活断層の分布に、能登半島地震による地盤隆起の情報を追加してある。
まず、北陸電力による活断層の想定の不十分さについて指摘しておく。
2023年10月6日の審査資料で北陸電力は、能登半島北部沿岸断層帯をひとまとまりの活断層として96kmとして扱い、マグニチュード8.1の地震を敷地から65kmの位置で想定している。西側で笹波沖断層帯として45.5kmの活断層からマグニチュード7.6の地震を敷地から17kmの位置で想定した。今回の地震から、この2つの活断層をまたぐような活断層による地震を想定すべきと考える。これは10年も前に変動地形学者の指摘があり、事後には複数の研究機関が断層モデルとして150kmほどの長さにわたるモデルを提示している。
北陸電力は、福浦断層に加えて、兜岩沖断層と富来川南岸断層を活断層のリストに入れている。しかし、それらの間の関連、たとえば兜岩沖断層と富来川南岸断層をひとつながりのものとして扱うということはしていない。海上音波探査のデータのみによって、両者の連続性を否定しているが、これでは十分と言えない。海成段丘面の高度の変化や海底の地形を考慮して、兜岩沖断層と富来川南岸断層をひとつながりの活断層として扱うべきである。
能登半島の北岸から西岸にかけての90kmにわたる海岸線付近の土地が隆起したことがわかっている。楕円で示した珠洲市の北岸と輪島市の北西岸で隆起量が大きかったことがあきらかになっている。とくに珠洲市の北岸では、12万~13万年前につくられはじめた海成段丘が、標高100m以上の高さにまで隆起していることがわかっている。今回のような地震の隆起量を仮定すると、50回以上の地震によって現在の高さに持ち上がったことになる。
志賀原発の原子炉建屋は12万~13万年前の海成段丘の上に建っており、標高は約20mである。今回の一連の地震では、志賀原発が建っている地盤は今のところ目立った隆起をしていない。しかし、過去の地震で隆起した結果、現在の高さにあるのだから、今後も隆起を続けるのは確実である。
地震で地盤が隆起する際に、地盤の方に大きなひび割れがあったらどうだろう。地盤全体がいつも均等に持ち上がるとは考えられない。その場合には地盤の上にのっている建物・構造物が自重によって壊れたり、倒壊したりする可能性が高い。この点から見ても、志賀原発は不適当な場所に立地しているとしか考えられない。
(上澤 千尋/2024年3月1日発行 原子力資料情報室通信597号より)
■参考資料
・国土地理院、令和6年(2024年)能登半島地震に関する情報、1.空中写真(正射画像)(1月4日公表、1月19日更新)
https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/20240101_noto_earthquake.html#3-1
・富来川南岸断層に沿う地震断層の発見(1月19日公開):日本地理学会断層調査グループ 鈴木康弘(名古屋大)・渡辺満久(東洋大)
http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto011.pdf
・北陸電力、プレスリリース 原子力
https://www.rikuden.co.jp/press/atomic.html
(令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(1月30 日現在)、https://www.rikuden.co.jp/press/attach/24013099.pdf、ほか)
・原子力規制委員会、2024年能登半島地震関連資料(令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応、2024年1月10日、
https://www.nra.go.jp/data/000465120.pdf、ほか)
・原子力規制委員会、第1193回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合 https://www2.nra.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tekigousei/power_plants/200000492.html
(「資料2-1 志賀原子力発電所2号炉 敷地周辺の地質・地質構造について敷地周辺(海域)の断層の評価(コメント回答)」、「資料2-2 志賀原子力発電所2号炉 敷地周辺の地質・地質構造について 補足資料」)
・渡辺満久、中村優太、 鈴木康弘、能登半島南西岸変動地形と地震性隆起、地理学評論、2015年88巻3号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/88/3/88_235/_pdf/-char/ja
・後藤秀昭、能登半島沖の海底の変動地形
https://jsaf.info/jishin/items/docs/20240103182202.pdf
・上澤千尋、『原子力資料情報室通信』第586号(2023/4/1)
https://cnic.jp/46777
原発事故に向き合い伝える高校生[渡部 義弘]
13年経った私の希望[宇野 朗子]
福島はいま(26)ALPS処理汚染水のいま
福島第一原発関連データ
激しく変動する地下水の放射性物質濃度 本当に建屋から漏えいはないのか?
能登半島地震で志賀原発では何が起きているのか
短信・資料紹介・新スタッフご挨拶・お詫びと訂正
〇日時:3月2日(土)午後1時30分~4時
〇会場:紅葉坂教会 礼拝堂(〒220-0031 神奈川県横浜市西区宮崎町1)
〇講師:松久保肇(原子力資料情報室事務局長)
〇参加費:300円
〇主催:日本基督教団・神奈川教区 社会委員会・核問題小委員会
〇連絡先:Tel.090-2669-4219(久保)
〇アクセス
・JR京浜東北線『桜木町』駅(北改札西口)徒歩5分
・横浜市営地下鉄『桜木町』駅(南1口)徒歩7分
The post 【3/2】福島原発はどう? 汚染水はどこが問題 能登地震で志賀原発はどこまで壊れた? first appeared on 原子力資料情報室(CNIC).]]>
〇日時:3月4日(月)14時~15時20分
〇形式:ズームを利用したオンラインセミナー
〇講師:小野有五さん(北海道大学名誉教授・自然地理学)
岡村聡さん(北海道教育大学名誉教授・地質学)発表資料はこちら
(冒頭に当室の高野聡から簡単な発表もあります。発表資料はこちら)
〇参加費:無料(ご寄付歓迎 cnic.jp/support/donation)
〇主催・お問合せ:原子力資料情報室 cnic@nifty.com
The post 原子力資料情報室ウェビナー「地層処分技術WGへの提言 -より公正で科学的な議論のために-」 first appeared on 原子力資料情報室(CNIC).]]>
2024年2月22日
小野有五(北海道大学名誉教授)
岡村聡(北海道教育大学名誉教授)
原子力資料情報室
2月13日、文献調査報告書(案)(以下、報告書案)が公表された[i]。地層処分技術WG(以下、技術WG)がこれを審議する際には、資源エネルギー庁が作成した文献調査段階の評価の考え方(以下、評価の考え方[ii])が適切に反映されているかだけでなく、評価の考え方(案)へのパブリック・コメント、および2023年10月30日に約300名の地学専門家が発表した「声明 世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」[iii]に照らして、市民や研究者の指摘や疑問に答えているかどうかが検討されるべきである。しかし、第1回技術WG(2月13日)では、53件ものパブリック・コメントに対する回答は、わずかな文言の修正だけですまされ、多くの問題点の指摘に対し、なんら科学的な検討も、反論も行われなかった(資料1、2参照)。「声明」は、激しい変動帯の日本列島において、今後10万年間にわたり、地殻変動による岩盤の脆弱性や深部地下水の状況を予測し、地震の影響を受けない安定した場所を選定することは、現在の科学的知見では不可能と述べている。これらの指摘に対し、今後、技術WGで客観的・科学的な検討と審議が行わるよう、提言を行いたい。
報告書案の審議にあたっては、とりわけ最新の知見をもとに検討することが技術WGに求められている。しかし、報告書案は、本年1月1日に起こった能登半島地震については全く触れていない。特に能登半島沖の海底活断層と断層活動の連動、地下深部流体と地震・断層運動との密接な関連などについて、全く検討されていない。能登半島地震を起こした海底活断層は、従来の音波探査では特定できず、変動地形学的手法でのみ認定されることも明らかになった[iv]。報告書案においても、音波探査に偏ったデータをもとに神恵内の沖合に存在する積丹半島沖の活断層の存在は否定され、変動地形学的研究から主張された活断層の見解は無視されている。能登半島地震によって得られつつある最新の知見に基づき、沿岸域の活断層について、抜本的に再検討しなければならない(資料3参照)。
活断層の連動は、能登半島地震でも、北海道南西沖地震でも、また熊本地震でも実際に起きている。黒松内低地断層帯の活動性を評価するためには、当然、活断層の連動を考慮するべきである。しかし、報告書案では、黒松内低地帯の活断層について、「白炭断層」だけが個別断層として取り上げられているにすぎない。政府の地震調査研究推進本部が2005年に公表した黒松内低地断層帯の長期評価では、寿都町周辺の活断層として五十嵐川断層や丸山付近の断層が、断層運動による地形変形を示すと記述されている。それにもかかわらず、報告書案では、これらは地質調査・地球物理学的調査の情報がないとの理由で無視されている。このような判断は、「地震本部」の長期評価を無視し、活断層の連動性の視点が抜け落ちた、根本的欠陥と言わざるを得ない(資料4参照)。類似の活断層の過小評価の事例は、尻別川断層の評価などにも散見される。
能登半島地震のもう一つの最新知見は、群発地震を引き起こす深部流体の存在である。それが群発地震の発生に関与し、ついには大地震につながったことが分かってきた。深部流体を起源とする低周波地震は、寿都湾内陸部でも観測されている。しかし報告書案では、避けるべき事象とは認めていない。概要調査以降の調査には留意が必要とされたが、あくまでも部分溶融域の存在の可能性、つまり新たな火山が生じる可能性に関しての指摘にすぎない。寿都では地下30kmの低周波地震とともに10kmの浅部地震の観測データもあり、能登半島の群発地震との類似性を考慮する必要がある。これらの地震発生域は、黒松内低地断層帯の北部と重なり、能登半島において珠洲市周辺で生じた群発地震と能登半島の北部沿岸域の長大な活断層との類似性を想起させる(資料5参照)。しかし報告書案は、そのような検討を行っていない。これは評価の考え方の基準の信憑性にも関わる問題である。このような観測データが認められる地域は、地層処分候補地として最初から避けるべきである。
岩盤については、以前から、寿都、神恵内とも、きわめて脆い「水冷破砕岩(ハイアロクラスタイト)」からなるので、地層処分には適さないことが専門家から指摘されてきた。しかし、報告書案では、単に留意事項にとどめているにすぎない。一方、この留意事項では、本岩盤の特性として、地下深部(300m以深)の情報が得られていないとしつつ、新第三紀堆積岩に匹敵する強度であり、不均質な力学特性を示すことが示されている(資料6参照)。このことは仮に概要調査でボーリング調査などをしても、不均質な岩盤の空間的な広がりは把握できず、結果として最終処分地としての適否の判断が最後まで困難であることを示している。このような不均質で脆弱な岩盤は候補地から除くべきである。
火山活動について、第四紀火山であることが明らかでないケース(熊追山、磯谷溶岩など)では、年代測定を中心に概要調査を実施することが報告書案に示されている。しかし、これらは新第三紀層の上位に重なることから第四紀火山とされる文献も存在しており、概要調査に進むまでもなく、避けるべきである(資料7参照)。さらに、第四紀火山の活動中心から半径15kmを避けるべきという規定に関しては、ニセコ-雷電火山群のうち、雷電火山を中心とした半径15kmを避ける範囲とすべきである。なぜなら雷電火山については、留意事項において、すでに詳細に調査済みであることから、山頂を活動中心に半径15kmが設定される可能性もあると指摘しているからである。
文献調査とは、すでに公刊されている文献に基づき、地層処分には不適当な事象がどれくらい地域に存在・分布するかを明らかにし、それらが多いことが判明すれば、それ以上の調査には進まないという「ふるいわけ(スクリーニング)」を行うのが本来の目的であろう。寿都、神恵内の両地域は、多くの不適当な事象があることが文献調査から明らかになったのであり、両地域とも地層処分には不適であると結論するのが科学的なやり方である。
しかし、NUMOは、概要調査をしなければ、不適かどうかは判断できないとして、先に進めようとしている。地下深部の地学的・工学的事象は、地上からの探査では、不確かさをゼロにはできない。NUMOの論法からすれば、結局は現地を掘ってみないかぎり、適・不適はわからないから、ほとんどの場所は概要調査、精密調査をしなければ、適・不適の判断はできないということになる。これではそもそも文献調査をする意味がなくなる。
「科学的特性マップ」では、今回の地震で大きな被害を受けた能登半島の海岸部でさえ、地層処分の適地とされている。そうした科学的な誤りをただすための再検討の場が、文献調査であるべきであろう。地層処分には不適であることを示す多くの科学的論文があるにもかかわらず、それらを無視し、NUMOの判断だけで、地層処分に適していると結論づけるのは、科学への冒涜であり、技術WGの科学者が、それを容認するようなことがあってはならない。
そもそも報告書案は、地層処分の適性・不適性を判断した基準が、原発に関する原子力規制委員会の規制基準とどのような関係にあるのかを、一切明らかにしていない。例えば参考資料3でも触れたように、原子力規制委員会の規制基準は、海底活断層の認定には、変動地形学的手法を音波探査とは独立に採用すべきであると明記しているにもかかわらず、報告書案はそれを無視している。耐用年数原則40年の原発と比べ、10万年間の保管施設建設である高レベル廃棄物の地層処分において、安全基準はどのように考えるべきかという根本的な定義がなされていないのである。技術WGは、それをNUMOに問うべきである。
今後、技術WGでは、約300名の地学専門家の「声明」が、本格的に審議されることになる。公正で透明性のある審議のためには、「声明」の呼びかけ人の中から複数の推薦人を募り、参考人として、技術WGの議論に参加させるべきである。経済産業省および技術WG委員長にそれを実行するよう要請する。
(提言のPDFダウンロードはこちら、参考資料1~7が統合された資料のダウンロードはこちら、提言を8つに要約した資料のダウンロードはこちら)
[i] 寿都町の文献調査報告書(案)www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/geological_disposal/pdf/001_s05_00.pdf
神恵内村の文献調査報告書(案)
[ii] www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/20231102.pdf
[iii] cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2023/11/902f6cbc42a46268054c87533439491b.pdf
[iv] 日本活断層学会の鈴木康弘会長が、能登半島地震後に、同様の問題提起をしている。
jsaf.info/jishin/items/docs/20240110081056.pdf
[v] 技術WGの資料「議事の運営及び役割分担について」では「委員長が必要と認めるときは、委員以外の者の出席を求めることができる。」と規定されている。
The post 【地層処分技術WG への提言】「声明」の呼びかけ人を参考人として技術WGの議論に参加させよ first appeared on 原子力資料情報室(CNIC).]]>〇日時:2024年2月28日(水)
〇時間:11:00~13:00(開場10:30)
〇場所:衆議院第一議員会館 多目的ホール(永田町2-2-1)
〇プログラム
10:30 開場
11:00 開会
*主催者あいさつ
現地報告
*自然を活かしたまちづくりの展望
講演
*上関町の自然環境について【リモート講演】
安渓遊地さん・貴子さん(生物文化多様性研究所)
*地形と地質から見た上関への原子力施設建設の危険性
越智秀二さん(広島県自主防災アドバイザー)
*中間貯蔵施設の問題点
末田一秀さん(はんげんぱつ新聞編集長)
13:00 終了
〇主催:◆原発に反対する上関町民の会 ◆上関原発を建てさせない祝島島民の会 ◆上関の自然を守る会 ◆原発いらん!山口ネットワーク ◆原水爆禁止山口県民会議
〇お問い合わせ:山口市元町3-49 ℡ 083-924-8145(原水爆禁止山口県民会議)
The post 院内集会「『奇跡の海』に核のごみ?!上関中間貯蔵施設計画の問題点を検証する」 first appeared on 原子力資料情報室(CNIC).]]>
3.11東日本大震災・福島第1原発事故から13年目の年初め、元旦に石川県能登地方をマグニチュード7.6、震度7の大地震が襲い大変な被害をもたらしました。能登地方には志賀原発がありますが、幸い福島第1原発事故以来運転が中止されていたため、放射能被害はまぬがれました。しかし、原発では使用済み核燃料プールの冷却ポンプが一時停止、変圧器の故障、2万リットルもの油漏れ等々が明らかになっています。
稚内市民の会ではこの地震大国の日本で、改めて福島原発事故の現状と「核のゴミ」問題を考えるため、今年も講演会を開催いたします。今回は、早くから日本の原発問題、核のゴミ問題に警告・提言を出し続けてきた原子力資料情報室から高野聡さんに講演をお願いしました。
多くの皆さんの参加をお待ちしています。
〇2024年3月10(日)14時00分~15時30分
〇ところ:稚内市東地区活動拠点センター1階 軽体育室(北海道稚内市潮見3丁目1−1)
〇講師:高野聡さん(原子力資料情報室スタッフ)
〇主催:高レベル放射性廃棄物施設誘致反対稚内市民の会
〇共 催:平和運動フォーラム稚内支部
〇入場料:無料、但し資料代として300円頂きます
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福島第一原発事故から13年が経過しようとしていますが、避難生活は長期化し、原子力緊急事態宣言はいまだ解除されていません。燃料デブリの取り出しも困難を極めるなか、廃炉の先行きも見通せない状態が続いています。燃料デブリに含まれる放射性物質は冷却水や雨水・地下水に触れ、高濃度の放射性物質を含む汚染水を発生させています。この汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理していますが、トリチウムは取り除くことができず、また、放射性物質すべてを取り除いているわけではありません。
政府・東電は、2023年8月24日、漁民や県民など多くの反対があるにもかかわらず「ALPS処理水」の海洋放出を強行しました。福島第一原発は2051年までに廃炉作業の完了をめざすとしていますが、その間、燃料デブリを水で冷却していく限り、汚染水は発生し続けることになります。
また、能登半島地震によって志賀原発のトラブルが相次いでいます。建設中止となった珠洲原発も震源地に近く、これらの原発が稼働し放射能災害も加われば、近隣住民の避難は困難を極めたことは明らかです。
こうしたなか、被害を長期化させている福島原発事故を忘れず、ALPS処理水の問題点や能登半島地震が明らかにした避難計画の脆弱性や原発の危険性を学習します。ぜひご参加ください。
〇日時:2024年3月11日(月)18:00~20:00(会場17:30)
〇会場:北海道自治労会館 5階 大ホール(札幌市北区北6条西7丁目)
〇講演:原発は動かしてはならない-能登半島地震と福島第一原発廃炉-
原子力資料情報室事務局長 松久保肇さん
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〇主催/「さよなら原発1000万人アクション北海道」実行委員会(事務局:北海道平和運動フォーラム)
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