義務付けられた再処理

原子力事業者は原発を設置する時や変更する時、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(炉規法)に基づき、「原子炉設置(変更)許可申請書」を監督官庁に提出します。この文書には原子炉の利用目的、型式、設置位置、構造、設備、工事計画や、使用する燃料の年間予定使用量などを、多くの記載事項がありますが、その中に、「使用済燃料の処分の方法」という項目があります。原発から出てきた使用済み燃料をどのように取り扱うかを記載する項目です。

この記述内容は原子力事業者が自社で決めることができたのでしょうか。

2011年東京電力福島第一原発事故後、原子力に関する多くの規制が見直されました。見直し前の炉規法には以下の規定が示されていました。

主務大臣は、第二十三条第一項の許可の申請があつた場合においては、その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。…

 その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 (改正前) 24条

では、この「 原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」とは一体何を指すのでしょうか。

原子力委員会が2004年に原子力資料情報室の伴英幸共同代表の指摘に答えて以下のような文書を出しています。

行政庁は、発電の用に供する原子炉の設置・変更の許可に当たっては、「原子力の開発、利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」の具体的な解釈として、核燃料サイクル政策の基本的な考え方を定めたエネルギー基本計画(閣議決定文書)、「当面の核燃料サイクルの推進について」(閣議了解文書)、原子力長期計画などを総合的に踏まえ、民間事業者が再処理することを確認しているところである。

原子力委員会(2004)新計画策定会議委員からいただいた御意見に対して

つまり、原子力事業者に対しては、使用済み燃料を再処理すると書くように、指導してきたというのです。

福島第一原発事故後 、炉規法24条にあった「原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」 という規定は削除されました。ところが、2016年、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律」が策定されました。この法律には 特定実用発電用原子炉設置者の責任 の義務として次の事項が記載されています。

特定実用発電用原子炉設置者は、特定実用発電用原子炉の運転に伴って生ずる使用済燃料の再処理等の責任を負う。

原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律 3条

特定実用発電用原子炉とは、処分の方法として再処理する旨を記載して許可を受けた原発のことです。すでに許可を受けた原発は、使用済み燃料の取り扱いについて、再処理すると書いてきたので、再処理の義務があるというのです。

また、高レベル放射性廃棄物の処分について定める「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」には、最終処分できる高レベル放射性廃棄物を次のように定義しています。

8 この法律において「第一種特定放射性廃棄物」とは、次に掲げる物をいう。
 一 残存物を固型化した物
 二 代替取得により取得した物
9 この法律において「第二種特定放射性廃棄物」とは、使用済燃料の再処理等(第五項第一号から第三号までに掲げるものに限る。)に伴い使用済燃料、分離有用物質又は残存物によって汚染された物を固型化し、又は容器に封入した物(代替取得に係る被汚染物を固型化し、又は容器に封入した物を除く。)であって、長期間にわたり環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。

特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律 2条

書かれていることはややこしいですが、要するに、「第一種特定放射性廃棄物」とは使用済み燃料を再処理したあとに出てくる様々な放射性物質をガラスで固めた「ガラス

固化体」、「 第二種特定放射性廃棄物」とは 再処理や分離したウラン・プルトニウムの燃料加工の工程で発生するTRU廃棄物 (長半減期低発熱放射性廃棄物)のうち半減期が長い核種が一定量以上含まれるものなどのことです。

この分類に合わない高レベル放射性廃棄物は地層処分できないことになっています。原発を運転すれば、必ず使用済み燃料がでてきますが、使用済み燃料は直接捨てることはできません。つまり、原子力事業者は使用済み燃料を再処理することを義務付けられているのです。

この義務は絶対なのでしょうか。そんなことはありません。

かつて炉規法に定められていた国策遵守規定は削除されているので、原子炉設置許可の変更申請で、処分方法を変更しても、法律上は指導は入らないはずです。一方、現時点では、最終処分法により、使用済み燃料は再処理しないと処分できません。最終処分法上の処分できる廃棄物に使用済み燃料が含まれるようになれば、原子力事業者は再処理以外の選択肢も取れるようになります。