省エネ対策の大きな可能性

歌川 学(産業技術総合研究所)

 省エネルギーは再生可能エネルギーと並ぶ脱炭素・環境負荷の小さなエネルギーシステム転換の柱である。日本は最良省エネ設備、断熱建築の普及実績は小さく、工場、オフィス、家庭、運輸で大きな省エネ可能性がある。
省エネ対策の柱
 省エネ対策の柱は新築、更新時に省エネ設備機械と断熱建築導入、断熱改修することである。
 電化による省エネもある。エネルギー消費の種類、電力消費、熱利用、運輸燃料それぞれの省エネの他、化石燃料の消費削減を兼ねて熱利用と運輸燃料の効率の良い電化も省エネになる(例えば暖房ストーブ等から断熱強化・エアコン利用でエネルギー消費は約80%減、ガソリン乗用車を電気自動車にするとエネルギー消費は75-80%減)。効率の良い電化なら電力消費はあまり増えない。トラックも含め全て電気自動車に転換しても電力消費増は現在の電力消費の約10-15%ですむ。
 発電の省エネもある。原発はウラン燃料の熱エネルギーの約30-35%、火力発電は燃料エネルギーの約
35-55%(ガス火力以外は35-43%)が電気に、排熱利用のない多くの発電所は燃料エネルギーの半分以上を捨てている。再エネ電力(バイオマス以外)に転換でロスの大半がなくなる。
 全国で省エネ設備・断熱普及によりエネルギー消費量を2030年に13年比半減、2035年に約6割減、電力消費量は30-35年に13年比3割減、2050年には7割以上を削減でき、脱炭素対策に大きく寄与する。今の技術とその改良技術の普及効果で、今から開発する新技術は含まないでできる。(明日香ら環境経
済・政策学会報告、未来のためのエネルギー転換研究グループ報告)
省エネを進めるしくみづくり
 省エネはコスト減と共に地域課題解決と両立する。断熱強化は、冬季に断熱の悪い住宅の屋内温度差により心臓疾患等で多くの人が亡くなる現状を大きく改善できる。
 省エネ対策の多くは費用効果的で、省エネ設備・断熱建築で設備費や建築費が増える分を、光熱費削減で「もと」を取り、全体コストを削減できる。光熱費を考えずに省エネ対策を削り設備費建築費だけ減らすと、「安普請」で光熱費負担が増え全体コスト増の可能性が高い。
 省エネ推進には全国でエネルギー機器効率規制、断熱建築規制(25年4月からの規制は欧米基準より窓・壁等から約2倍の熱が逃げる基準)、工場・事業所・建物ごとのエネルギー効率管理、情報開示と断熱性能ラベルなどのしくみ活用、総量管理や炭素税などのしくみがある。自治体・地域では専門的知見を国・地域で共有するため、エネルギー事務所・専門機関などによる公的中立の相談窓口設立(事業所・住宅の対策種別の省エネ効果、投資回収年など)と省エネ診断実施、「頭金ゼロ」の省エネ設備導入・建物断熱導入で光熱費削減分により返済するしくみなどがある。
 省エネの大きな可能性を現実にし、メリットも地域で活かせるよう、全国、地域で多くの専門家、実務家、市民が政策やしくみづくりに参加し多くの知見を集め、対策を進めるしくみを強化することが課題である。(本稿は、所属組織の意見ではありません。)

(2024年12月号掲載記事)