(2022年9月号記事から)
8月24日、岸田首相がGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発の新増設に踏み込んだと報じられている。実際は、会議に西村大臣が「再稼働への関係者の総力の結集、安全第一での運転期間延長、次世代革新炉の開発・建設の検討、再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化」を提案し、首相が「検討を加速」するよう指示したにすぎない。次世代革新炉がいかに多くの問題を抱えているかは、本紙7月号既報のとおりである。また、「許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採る」とも述べたが、西村大臣は具体策を示せていない。
そもそも10年に1度の厳寒を想定した場合、この冬の電力需給がひっ迫すると危機をあおっているが原発の再稼働や新増設には時間がかかり解決策にはならない。老朽火力の廃止で中長期的にひっ迫するというのであれば、そのような事態に対応するため導入された容量市場が機能せず、制度設計が誤りだったことになる。中長期的に需要の抑制を進めることがGXの本来の姿だ。
ウクライナ危機も口実にされるが、日本の石油石炭等の輸入のロシアへの依存度は8%にすぎない。世界のウラン濃縮能力のシェアをロシアが45.9%(2020年時点)も占めていることを、どうする説明するのであろうか。
GX会議に西村大臣が示した資料では、現状を「エネルギー政策の遅滞」としている。遅滞を招いている原因は、いつまでも原子力に固執しているからだろう。国策で新増設の旗を振っても、経済的ペイしないので電力会社も具体化には踏み込めないに違いない。
首相の指示によりGX会議がどのようなとりまとめを行うのか注視していきたい。
(編集部 末田 一秀)