「風車」2014年3月号
日本の全原発停止が続いている。それでも特に困ることは起きない、と世の中の人に知ってもらえると思ったが、困ることが起こらなさすぎて、原発の電気が送られていないこと自体が忘れられている。それこそが困ったことだ。
否、電気料金が値上げされているのは困ることではないか――と叱られるだろうか。原発の停止で火力発電の燃料費がかさんでいると聞かされると円安でもあるしと素直に信じてしまいそうになる。しかし、だから電気料金の値上げは当然なのか。実は日本の電力各社は、1980年から翌81年にかけて50%を超える家庭用電気料金の大幅値上げをして以来、96年からの燃料費調整を別にすれば、福島原発事故後の2012年に東京電力が8.5%の値上げをするまで、一貫して値下げだけをしてきたのだ。
その間、発電原価に占める燃料費の割合も金額も増加し続けていた。それでも値上げより値下げを選んだのは、需要が落ち込むのを嫌ったためである。コストの高騰を経営努力で抑え込んだと電力各社は説明している。ならば今なぜ値上げか。
値上げを思いとどまっても需要減は避けられないかわり、値上げしても、もう大きくは減らないと見切ったからだろう。原発停止は今になって値上げに走る電力会社の姑息な口実に使われているのだ。