原発事故後に形成された毒物テルル入りホットパーティクルこそが福島第一原発事故後の多様な健康被害をもたらした主犯である

2月号4面「反原発講座」詳細版

   山田國廣(京都精華大学名誉教授)

 福島第一原発事故により放出された毒物テルル1族(Te-132,Te-129mなどの放射性テルルと毒性が永続するTe-128,Te-130)と放射性ヨウ素(I-131,I-132,I-133)、放射性セシウム(Cs-134,Cs-136,Cs-137)の粒子状結合による「テルル毒入りホットパーティクル」が、原発事故により生じた急性原爆症、白血病、先天奇形、多種のがん発症の原因物質であり、なかでも小児甲状腺がんの主犯であった」という重要な事実を説明します。

子ども脱被ばく裁判の主任弁護士である井戸謙一さんは「この裁判の大きな意義のひとつは、やはり”不溶性放射性微粒子の存在”を提起できたことだと思います」と意見陳述書の中で述べています。井戸さんが主張されてきた「不溶性放射性微粒子」とは、「チェルノブイリ被害の全貌」の著者であるアレクセイ・V・ヤブロコフさんが「ホットパーティクルまたの名をチェルノブイリダスト」と呼ばれているものでした。

ヤブロコフさんは「Te-132,I-131などの揮発性のパーテイクルは数千㎞の範囲に拡散した。放射性核種が雨滴の中に濃縮された場合には、液体ホットパーティクルが形成された」「このような放射性のパーテイクルは、たとえば人が低線量区域にいたとしても、水や食物や呼吸を通じて身体に取り込まれると高線量の放射線を生じる。微細な粒子は容易に肺に侵入し、大きめの粒子は主として気道に集中する」という重要な指摘をしています。

2号機からのホットパーティクル放出と環境汚染

 私は、「このテルル毒入りホットパーティクルこそが福島第一原発事故によるあらゆる健康被害、なかでも小児甲状腺がんの主犯なのだ」と確信を持ちました。そこで、東日本において原発事故直後にホットパーティクルが形成されている事例を徹底的に資料調査し、以下の6事例を見つけました。原発事故直後にホットパーティクルを形成した6事例の大気、土壌、植物・放射能濃度の平均Cs-137比を図の折れ線で示します。その平均値が図の茶色の棒で示した値です。

以下は6事例の概要と元データの出典名です。

(1)2011年3月17日から19日の東日本9都県(福島県、宮城県、山形県、新潟県、茨城県、栃木県、千葉県、埼玉県、東京都)の61地点の土壌を採取してTe-129m,Te-132,I-131,I-132,Cs-124,Cs-136,Cs-137の3月15日時点におPける放射能比を算定している事例

(文献:小池武志他著「福島県三春町に飛来した福島第一原発事故由来の電離放 射線に関する包括的データ」J.Radiol.Prot.34(3)675-697(2014))

(2)2011年3月15日の福島県郡山市、福島市、本宮市、いわき市など5か所にお いて高速道路上の放射能比を測定している事例

(文献:松村宏他著「高速道路上のガンマ線測定により得られた福島第一原子力発電所から飛散した放射性物質の拡散」、日本原子力学会和文論文集、Vol.10,No3,P.152-162(2011))

(3)3月15日に新潟県南魚沼市で観測された大気浮遊塵のCs-137比

(文献:大野峻史他著「福島第一原子力発で事故の影響により新潟県において検出された人工放射性核種について」、新潟県放射線船監視センター年報、第9巻、19P~29p,2011年)

(4)3月15日の10時から11時、東京都世田谷区の都立産業総合研究所で観測された大気浮遊粒子放射能濃度とCs-137比

(出典:都立産業総合研究所のネット公開情報より)

(5)3月15日につくば市において国立緩急研究所で観測された大気浮遊粒子濃度とCs-137比

(文献:太原利眞他著「放射性物質の大気中における輸送・沈着シミュレーション」)

(6)3月17日から19日に郡山市、福島市、いわき市、会津若松市、川俣町、白河市で採取された樹木葉の放射能濃度とCs-137比

(文献:Masahiro Hosoda et al「Activity concentration of environmental sample collected immediately after the Fukushima nuclear accident」SCIENTFIC REPORTS|3:2283|DOI:10.1038/srep02283)

 一方、図の青の棒は、事故を起こした2号機が核分裂停止3日後に原子炉の中で生成させていた核分裂核種のCs-137比です。これは、原子力研究開発機構の研究者が2012年夏に公表した「JAEA-Data/Code 福島第一原発事故発電所の燃料組成評価」(ORIGEN2(米国立オークリッジ研究所で1980年に開発された原発の燃料組成解析のデータ集)を使用して、1号機から6号機の原子炉内および貯蔵燃料プールに存在する全ての核分裂生成核種の放射能、質量、熱量などを、核分裂停止後の0秒から20年後までを算定した190pに及ぶ網羅的データ集)から、2号機炉心部における核分裂停止後の0秒、1時間、1日、3日、10日、30日、90日、180日、1年、2年、5年、10年、20年後における放射量とCs-137比を見つけ出しグラフ化しました。

結論として言えることは「原発事故直後の3月15日~21日に東日本広域において観測されたテルル毒入りホットパーティクルの6事例は、2号機が核分裂停止3日後に放出したCs-137比と同様のCs-137比が観測された」という重要な事実です。

炉心損傷を起こした2号機は3月14日の夜から15日にかけて核分裂物質を東日本広域に拡散させました。2号機核分裂停止後3日後のCs-137比でTe-129m(0.3),Te-132(9.9),I-131(7.8),I-132(7.1),Cs-134(1.1),Cs-136(0.3),Cs-137(1.0)でした。

一方、2011年3月15日に事例1から事例5の日本9都県(福島県、宮城県、山形県、新潟県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、東京都)各都市で採取・測定された大気、土壌放射能のCs-137比、事例6の17日から19日に福島県の郡山市、いわき市、会津若松市、川俣町、白河市、宮城県丸森町で採取された樹木葉・放射能の6事例におけるCs-137比の平均Cs-137比はTe-129m(1.1),Te-132(6.0),I-131(6.7),I-132(5.2),Cs-134(1.0),Cs-136(0.2),Cs-137(1.0)で、両者の相関係数は図に示すように0.94と高い相関関係にあります。

テルル毒入りホットパーティクルの特徴としてもう一つ重要な点は、ホットパーティクル形成核種の質量比率(%)です。以下の図に、2号機炉心部・核分裂停止3日後のホットパーティクル形成核種の質量(g)と質量比率(%)を示します。

この図よりわかることは、テルル毒入りホットパーティクを質量比率でみると、Cs-137(68%)、Cs-134(5%),Te-128(5.3%),Te-130(21%)で合計99.3%を占めることになります。そのことから「テルル毒入りホットパーティクル」とは「テルル毒入りセシウムボール」という表現ができます。

テルルの毒性

 毒物テルル1族と放射性ヨウ素、放射性セシウムのホットパーティクルが有する、化学毒と放射能毒の複合影響について説明します。

放射性テルル(Te-129m,Te-132)、放射性ヨウ素(I-131,I-132)、放射性セシウム(Cs-134,Cs-136,Cs-137)には電離放射線による放射能毒があります。それに加えて、以下の示す驚くべき多様なテルル化学毒が複合影響的に健康被害を大きくします。

①急性毒性では、ジメチルテルルの半数致死量LD50が7.5mg/kgで、青酸カリの10㎎/kgに匹敵します。

②テルルの急性毒性は、「急性原爆症+金属の味」を起こします。

③テルルの生殖毒性では、水頭症、手足先天奇形、停留精巣、水腫、眼球突出、骨化遅延、臍ヘルニアなどほぼ全身に驚くべき多くの先天奇形が起こります。

④テルルは遺伝子障害では、ヒト白血球の染色体切断、ヒトリンパ球で小核誘発、大腸菌などでDNA損傷が起こり、あらゆる臓器発がん性を起こす?可能性を有しています。

⑤下肢の麻痺がおこる末梢神経の髄鞘(ミエリン)に障害(脱髄)を起こします。

⑥テルルは胸腺リンパ組織の萎縮を起こし免疫機能の低下を招きます。

⑦毒物テルルは甲状腺に吸収・蓄積され安定ヨウ素を減少させるという論文がありま  す。

⑧Te-132(半減期3.2日)とI-132(半減期2.3時間)は過渡平衡にありTe-132が甲 状腺に吸収されて安定ヨウ素を減少させてからI-132に壊変して放射性ヨウ素の影響を強くする複合影響があります。

  福島原発事故原因により小児甲状腺がんが多発しているということは、原発を推進してきた東電・政府関係筋にとって何が何でも隠しておきたい「不都合な真実」でした。そのため政府関係権威筋は、①100mSv以下なら安全である、 ②過剰診断説、③スクリーニングで見つけすぎた、④外部被ばく線量で小児甲状腺がん発症者分布が説明できる説、というトリック(被災住民を騙す手法)を駆使してきました。しかし、『原発事故後に形成されたテルル毒入りホットパーティクル』はこれらのトリックを種明かしして、真相を私たちに教えてくれます。加えて、バンダシェフスキーさんの研究では、Cs-137も甲状腺に蓄積されますが、子供は大人の3倍も蓄積量が多いというデータがあります。

 原発事故から10年近くが経過した2022年1月27日、小児甲状腺がんを発症した原告6人による東電を被告とした損害賠償請求裁判が、井戸謙一さんを弁護団長として始まります。10年という苦難の年月を経てやっと「東電を被告とした健康被害立証裁判」を始めることに漕ぎつけたのです。この裁判における焦点は「毒物テルル入りホットパーティクルによる健康被害証明」になると確信しています。苦難を耐え忍んできた多くの健康被害者のため、原発を根柢から無くすためにも、この裁判には何としても勝訴しなくてはなりません。