次世代炉は経済的に成り立たない

松久保 肇(原子力資料情報室)

 2023年閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」で、政府は「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」方針を打ち出した。次世代革新炉とは革新軽水炉(建設開始2030年代前半)、高温ガス炉(同2029年)、高速炉(同2030年代後半)、小型軽水炉(同2030年代前半)、核融合炉(同2030年代後半)の5つの炉型だ。商業用に作られるのは革新軽水炉のみで、のこりは開発段階の炉だ。研究開発に政府は巨額の費用を支出している(GX関連では高速炉と高温ガス炉に10年間で1兆円を投じる計画)。実現可能性の特に低い核融合炉以外の4つの炉型を以下概観したい。
 革新軽水炉:次世代革新炉の本命の「革新軽水炉」は2030年代半ばに運転開始を目指す。この炉の特徴は、1)自然災害、航空機衝突対応、2)受動的安全機能、3)重大事故時の影響低減、だ。これらは近年海外で建設された原発に導入済みだ。政府が革新軽水炉を次世代炉と呼ぶのはPR上の都合なのだ(前号参照)。
 原子力事業者は革新軽水炉の建設に二の足を踏んでいる。最大の理由は高額な導入コストだ。そこで事業者らは国に、原発にかかった費用を回収できる仕組みを求めた。その声に応えて導入された長期脱炭素電源オークションでは、初回の2023年度オークションで、2006年から建設中の中国電力島根原発3号機が落札した。だが事業者らはさらなる補助を求めている。
 小型軽水炉:工場でパーツを組んだモジュールを製造し現地で組み立てることで、工期の短縮と品質の向上を図る工法をモジュール工法と呼ぶ。中でも30万kW以下の小型炉に適応したものを小型モジュール炉(SMR)と呼ぶ。
 だが、コスト競争力のなさは変わらない。西側世界で最初の商用SMRと期される米NuScale Power社の小型軽水炉VOYGRも、ユタ州の電力会社から受注していた初号機計画が中止となった。日本国内では1982年に原子力委員会が「(中小型軽水炉は)比較的早期に実現(中略)民間主導の下で進め」ると位置付けたが建設されなかった。ニーズがないからだ。
 高温ガス炉:高温ガス炉は革新炉の中で最も早期の建設開始が予定される。一般的な原発に比べて高温を使うので、水素ガス生成にも使えると謳う。ただ水素製造量は年7 ~ 24.5億N㎥ /基、政府が示す2050年の日本の水素需要は2000億N㎥ /年のため1基では1%に満たない。また、コストや技術の特殊性から経済的に成立しうるかきわめて疑問だ。
 高速炉:1970年代後半に商業化されるはずだった高速炉は、技術的に難しく、今日に至るも、稼働しているのはロシアと中国の高速炉だけだ。日本は高速増殖炉もんじゅの開発におよそ2兆円を投じたが、事故を起こし、運転日数わずか250日で廃炉になった。廃炉には少なくとも3750億円が必要だという。また技術的ハードルだけでなくコストの問題もあり商業化は全く見えない。
 原発は、高い初期投資を安価な燃料で長期かつ継続的な運転で回収する。だが、かつて数千億円だった原発の初期費用は兆を超える。そのため、軽水炉を微修正した「革新軽水炉」でさえ採算性が見えず、国による原発の生涯にわたっての支援施策が必要だと言う。ましてや新型炉の商業化には大きなハードルが存在する。
 原発はかつて「too cheap to meter」になると言われた。しかしいつまでもコストは安くならず、補助金頼みの産業と化している。気候危機が現実のものとなる中、原発に資金と時間を費やしている余裕はない。

(2024年6月号掲載記事)

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