末田 一秀(編集長)
経団連が10月11日、次期エネルギー基本計画についての提言を公表した。「再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」との方針を明記すべきとしている。
しかし、原発は本当に「脱炭素電源」なのであろうか?
「発電時に二酸化炭素CO₂を出さない」はウソ
そもそもよく言われるこの宣伝が、事実ではない。沸騰水型原発では、タービン軸封部(タービン車軸とケーシングの隙間)から放射能を帯びた蒸気が漏れることを防止するため、原子炉の起動・停止時には補助ボイラーで発生させた蒸気でシールしている。補助ボイラーの燃料は重油で、廃棄物処理や屋外タンクの加温、建物の暖房等にも利用するため原子炉の起動・停止時に限らず常時動いている。つまり発電時も常時CO₂を排出している。
排出原単位は都合のいい仮定が前提
例えば電事連は、HPで各種電源別の1kWhあたりのCO₂排出量を石炭火力943g、石油火力738g、太陽光38g、原発19gなどと宣伝している。この根拠は、大手電力会社などの資金提供で運営されている電力中央研究所が2016年7月に公表した報告書「日本における発電技術のライフサイクルCO₂排出量総合評価」だが、実現していない国内再処理、プルサーマルを前提にし、ウラン鉱石からウランをロスなく100%取り出せるとするなど核燃料サイクルの各工程で都合のいい設定がされている。例えば、再処
理で回収したウランは全量天然ウランに混ぜて再利用することになっていて、CO₂排出量の多い天然ウラン濃縮量が減る計算だ。高レベル廃棄物処分に伴うCO₂排出量などは信頼できるはずがない。福島原発の廃炉作業は100年を超えて続くことになりそうだが、事故に伴う排出ももちろん算定されていない。
ウラン濃縮の方法が変わるだけで原発の原単位は大きく変動する。イギリス・サセックス大学のソバクール氏は多くの研究をレビューした結果、信頼できる19研究の原発のCO₂原単位は、最小1.36g、最大288.25g、平均で66g としている。
結局、原発のCO₂原単位は、火力発電を上回ることはないものの、太陽光や風力等の再生可能エネルギーよりも劣ることは間違いない。
原子力からのCO2排出実態
環境省が、温暖化対策推進法にもとづき集計公表している温室効果ガス排出量を見ると、六ヶ所再処理工場がアクティブ試験を行っていた2006年度から3年間の実績値は20万1千~ 22万7千トンである。電中研論文では再処理の運転では0.7g/kWhしか見込まれていないが、再処理量で概算すると1桁高い値になる。ちなみに2008年度の全原子力施設の排出合計は116万トンにのぼり、山梨県の全事業所排出量(都道府県別で下から3番目)とほぼ同じ値となる大量排出だ。
脱炭素へ向けた社会変革を阻害する
この夏実感した地球沸騰化の進行を抑えるためには、社会や生活のあり方を根本から見直す必要がある。しかし、原発の推進はエネルギー大量消費型社会の温存につながり、逆行するものになる。また、大規模集中型電源である原発は、バックアップ電源として火力発電2~3基を必要とし、火力発電の削減にもつながらない。新増設の場合、立地計画から稼働開始まで長時間かかり、待ったなしの温暖化対策に間に合わないことも問題だ。
原発を「脱炭素電源」として推進するのは誤りである。
(2024年11月号掲載記事)
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