2040年電源構成案は無責任な妄想なのか

末田 一秀(編集長)

 12月17日に開催された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会に第7次エネルギー基本計画の原案が提示された。報道されているとおり「原発依存度を可能な限り低減する」との表現が削除され、原発回帰の姿勢を鮮明にした問題だらけのものとなっている。25日開催の分科会で案として取りまとめられ、1月26日までパブコメ意見募集が行われている。

本稿では示された電源構成案に絞って考えてみたい。

不十分な温室効果ガス削減目標

 これまでの日本の温室効果ガス削減目標(NDC)は、2030年度に2013年度比46%削減で、2050年度にゼロを目指すというものだった。本年2月10日までに新たに2035年度目標を国連気候変動枠組条約事務局へ提出する必要がある。ところが、新たな目標を中央環境審議会と産業構造審議会の合同会合は、予定していた12月19日や臨時の翌日に決められず、24日の決定となった。

 温暖化を1.5℃に抑えるために先進国は2030年までに60%削減が求められているが、今回示されたのは2035年に60%削減である。これは2050年ゼロに向けて直線的に減らした場合の数字で、科学的な根拠はない。

2015年から変わらない原子力の割合

 12月17日時点で新たなNDCが決まっていなかったためか、NDCと整合を取る必要がある第7次エネ基の原案に、エネルギー需給の⾒通しは書かれていない。ところが、原案の概要という資料には何故か目標年次2040年度の見通しが参考として示されていた。2040年度の発電電力量を1.1~1.2兆kWhと見込み、再エネが4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割程度というものだ。

 2030年度を目標とする現行第6次計画の見通し、再エネ36~38%、原子力20~22%、LNG火力20%、石炭火力19%、石油等2%、水素・アンモニア1%と比較すると、目標年次が10年先になったにもかかわらず、概ね割合は変わっておらず、10年間何も対策しないと宣言するに等しい。原子力の割合は、2015年に策定された長期エネルギー需給見通しの数字を、2018年策定の第5次エネ基から引き続き踏襲することになる。政治的な配慮から上げることも下げることもできないのだろう。これまでと違うのは、パブコメ案でも需給見通しが本文ではなく参考資料になっていることだ。責任逃れの布石だろうか。

実現可能性ゼロでもいいのか

 現在再稼働している原発は14基だが、60年運転と条件を置くと美浜3号、高浜1,2号は2040年には運転停止しているはずだ。新規制基準に合格している東海第二も同様だ。新規制基準に合格している柏崎刈羽の2炉、審査中の9基を加えても設備容量の合計は2300万kWであり、稼働率70%の場合の発電量は1410億kWhにすぎない。原子力2割には2200~2400億kWh必要だが、この数字に達するには審査に不合格になった敦賀2号や申請すらしていない9基も稼働し、稼働率80%を達成する必要がある。およそ実現する見込みはない。

低い再エネ目標は経済成長機会の喪失に直結

 原子力の割合を高く維持する結果、再エネの2040年見通し36~38%は、デンマーク、スペイン、ドイツなどの現状値よりも低い。2023年のCOP28で、2030年までに再エネを3倍にする目標に日本も合意しているにもかかわらずである。安価な再エネの目標値が低ければ、電気料金は高止まりし、大量導入に必要な系統整備なども行われないであろう。案には「脱炭素電源の確保ができなかったために(略)⽇本経済が成⻑機会を失うことは、決してあってはならない」と書かれているが、成長産業である再エネで世界の劣後に立つことにより、成長機会を自ら手放す亡国の計画と断じることができる。