編集長の独断偏見録②
北海道ブラックアウトに思う
9月6日午前3時8分ころ、北海道の胆振(いぶり)東部で起きたマグニチュード6.7の内陸型地震が起きた。震源間近の苫東厚真石炭火発2、4号機の停止を引き金にして1号機も止まり、迷走した周波数の低下・回復・再低下が、北海道電力管内全発電所の停止・全域295万戸のブラックアウトにつながった。その前々日の4日には、台風21号のために電柱の倒壊・折損や電線の断線などが相次ぎ、関西電力管内で一時は最大168万戸が停電した。
北海道電力では、泊原発1~3号機が停止中で、地震の揺れは1、3号機の最大加速度が6ガル、2号機で7ガルときわめて小さかったが、停電により6回線すべての外部電源からの供給が断たれた。泊原発は6年以上停止しており、核燃料は使用済み燃料プールに移されている。非常用ディーゼル発電機6台が起動してプールの冷却を実施。6時間余りで2回線が復旧され、午後1時までに3基とも外部電源への切り替えを完了した。
関西電力では、再稼働をした高浜原発3、4号機は定期検査で停止しており、大飯原発3、4号機が運転を継続していた。
泊原発は止まっていて、大飯原発は動いていたが、そのこととは関係なく大停電は起こったのである。にもかかわらず、泊原発が動いていればブラックアウトは発生しなかったという主張がある。9月11日付の電気新聞では東京工業大学の奈良林直特任教授が「原子力発電所を『止めていることのリスク』が非常に高いことを認識する必要がある」と強調していた。
しかし9月8日付東奥日報で京都大学大学院の安田陽特任教授も指摘するように「今回は短時間の周波数バランスの問題なので、単に供給力に余裕があればよいという問題ではない」。北海道電力も、「泊原発が再稼働していれば、ブラックアウトは防げたのか」の問いに「再稼働後の発電量などの仮定が多すぎて、答えられない」と答えていた(産経新聞9月27日配信)。詳細は、電力広域的運営推進機関の検証委員会が解明中である。
泊原発について言えば、むしろ止まっていてよかったと言うべきか。前述のように炉心に核燃料はないから、メルトダウンすることもない。また、3号機は6年以上、1、2号機は7年以上止まっていて、使用済み燃料プールの燃料も温度は下がっている。非常用ディーゼル発電機の起動に失敗しても(非常用ディーゼル発電機は、通常の条件下でも起動失敗や定常に達しない事例があるほか、冷却水の供給不能事故も多く、また、一括起動後、保護リレー作動や水貯槽のスロッシングによるトリップなどもあり、一部の構造的損傷とともに、一般のプラントなどではかなり悪い結果となっている。――石川島播磨重工業・杉浦光、日本原子力産業会議原子動力研究会『第31回年会報告書』)、外部電源への切り替えが遅れても、大事には至らない。
仮に動いていたとしたら、停止失敗も含めて、より危機的となった可能性は否定できない。
泊原発(1、2号機は57.9万kW、3号機は91.2万kW)も苫東厚真火発(1号機は35万kW、2号機は60万kW、3号機は70万kW)も運転が可能だった場合、それぞれどの号機を動かすことになるかはわからない(苫東厚真火発は、1基のみ運転の場合、今回のように需要が小さい時、つまり停止の影響が大きい時に計画外停止することを避けるため、常に2基は運転させることにしていたらしい。泊原発稼働時もか)。設備容量で見れば、泊原発は北海道電力の全設備の26.5%、苫東厚真火発は21.1%を占めていた。両発電所を合わせると、地震発生時の需要の1.2倍になる。その時は苫東厚真火発だけで需要の53.4%を占めていた(前日のピーク需要に対しては43.1%)。需要の変動に合わせた小回りの利きにくい、即ち周波数の維持が難しい体制である。
余談だが、苫東厚真火発の3号機は8.5万kWと比較的小さかった。日本初の加圧流動床複合発電プラントとして1988年に運転を開始したが、配管の損傷が多く、低い稼働率と高い補修費が問題とされ、2005年には廃止されている。
閑話休題。1つの発電所に頼りすぎていたと多くの人が指摘したが、原発が動いていればさらに頼り方が複雑になったと言える。そこで、動いていた苫東厚真火発の何号機かが止まれば、離れた泊原発にも影響が及ぶだろう。火力や原子力の発電機は、数%の周波数変動で停止させるようになっている。そのために北海道では、次々と発電機が止まりブラックアウトを招いた。とりわけ原子力の発電機は安全性を考えて、手厚い運用体制がとられている。言いかえれば、送電系統のちょっとした異常ですぐに停止するのだ。
9月6日には、地震直後に道央と道東を結ぶ3つの基幹送電線も停止した。原発は、動いていたとしてもけっきょく停止することになり、停止動作や電源確保に失敗すれば危機を迎えることになる。震源間近にあったのが苫東厚真火発でなく泊原発だったらなどとは、考えたくもない。
他方、大飯原発についても、今回の台風による大停電では起きなかったが、大規模停電や変電所・送電線の被災により原発の電気が送れなくなれば、原発は停止せざるをえない。原子炉の出力を下げて所内だけで使うとかする綱渡り運転が現に行なわれているが、事故回復までのつなぎであり、長くは続けられない。やはり停止に失敗すれば事故となる。
なお、対策としては分散型の再生可能エネルギーを活用すべきと、これも多くの人が言う。とはいえ前出の安田陽教授も書いていたように「再エネ中心の分散型電源システムであれば、なおさら適切に設計しないと、もっと脆弱になる可能性もある」。北海道電力をはじめとする電力各社は、今回のブラックアウト以前にホームページなどでそのことを強調していた。
であればこそ、安田教授が『科学』10月号で説く「再生可能エネルギーがもたらす便益とは」と考えれば、再エネの便益を活かせるよう、海外にも学び早急に技術的対策をすすめるべきだろう。分散型の再生可能エネルギー活用以外に解決の道はないのだ。