上澤 千尋(原子力資料情報室)
経済産業省は中長期のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」について、2040年度の電源構成を策定する方針だと報じられている。そこで焦点となるのが原発の新増設・リプレースを明記するのかだ。新増設・リプレースを書き込む場合でも、従来炉では世論の支持が得られない。革新炉をといっても、SMR(小型モジュール炉)では何基も建てなければ役に立たないし、電力会社が投資をためらうことが目に見えている。本命視されているのが「革新軽水炉」だ。
「革新軽水炉」という呼び名に騙されてはいけない。実は従来型の延長上にある軽水炉であって、技術的にも安全性の面からも本質的に新しいものはない。設計の変更にともなって、場合によってはより危険になるものもあるだろう。
「革新軽水炉」の規模は中型から大型で、電気出力は80万kWから150万kWを超えるものまである。日本のメーカーでは、三菱重工、日立GE、東芝エネルギーシステム(ESS)が開発に参戦しており、それぞれが売り出そうとしている原発の主な仕様(概念設計)が明らかになっている。三菱重工はSRZ-1200、日立GEはHI-ABWR、東芝ESSはiBRという炉型をそれぞれ発表している。3つとも、メルトダウンした燃料の受皿=コアキャッチャーと大事故時の放射能放出を抑えるためのフィルターベントを設置することになっている。耐震性の強化、原子炉建屋の強靱化をうたっているが、狙っている安全性レベ
ルはそれほど高くなく規制基準の最低限のあたりだ。
三菱重工のSRZ-1200は、一次冷却系が3つあってそれぞれに大型の蒸気発生器がついた電気出力121万kWの加圧水型炉である。耐震性強化策として示されているのは、岩盤に建屋を埋め込み半地下状態に原発を建設することだ。柏崎刈羽原発は岩盤に埋め込まれた半地下の原発だが、2007年7月の中越沖地震で強い揺れに襲われ大きな被害を受けた。岩盤自体のズレ破壊も起こりうるし、これは他の2つの炉型にも言えることで、建屋を岩盤に埋め込むことや埋め戻し土に頼ることが日本ではそれほど有効だとは思えない。
航空機テロ対策を兼ねて放射能の閉じ込めのため原子炉建屋のコンクリート壁の厚さを2倍にするという対策も、従来のものが貧弱だっただけにとても十分とは言えない。冷却材喪失事故対策として、窒素の蓄圧注入による注水系を採用するということだが、加圧水型炉では以前にも似たようなシステムを使ったことがあり、有効性と安全性に疑問が出され撤去したことがある。
日立GEのHI-ABWRと東芝ESSのiBRは、どちらもABWR(改良型沸騰水型炉)の変形版である。2つの炉型とも事故時の駆動電源のいらない静的炉心冷却システムとして、福島第一1号炉の非常用復水器と同様の冷却機器の採用を示唆している。通常の原子炉の上方に設置されている分厚いコンクリート製の遮蔽プラグがなくなり、原子炉ウェル(原子炉の上方の筒状の空間)には原発の運転時にも水を張る構造となっている。原子炉ウェル全体が水で満たされることで、原子炉建屋の上部が重い構造となるため、地震時に不安定で建物全体が揺れやすくなり、耐震安全上かなり問題が生じる可能性がある。
3つの原子炉とも1日のうちで時間帯によって出力を変える「日負荷追従運転」への対応を掲げている。しかし、それは、安全的にも経済的にもメリットがない。「革新軽水炉」は、既存の技術を活かしてなんとか原子力産業を生き長らえさせよう、ということなのだろうが、建設費が高くなることが容易に予測される。「革新」のイメージ操作で原発の新増設・リプレースをエネルギー基本計画に組み入れることは許されない。
(2024年5月号掲載記事)
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