明日香 壽川(東北大学)
最近、しばしば「データセンターやAI(人工知能)などの情報関連技術(ICT)部門が急激に拡大している。これによって、世界および日本の電力需要および二酸化炭素(CO2)排出量が激増する。ゆえに、原発推進が必要」という3段論法のような議論を聞く。しかし、この議論は、下記の理由で明らかに間違った3段論法である。
電力消費量全体に占める割合は大きくない
第一は、ICT部門の電力消費量が一国の電力消費量全体に占める割合の大きさに対する無理解である。すなわち、たとえ、ある部門の活動量(この場合はICT部門の電力消費量)が大きく伸びたとしても、その部門の全体に占める割合が小さい場合は、全体に対する影響度は大きくならない。そして、日本全体の電力消費量は極めて大きいので、全体に対する割合が小さいICT部門の電力消費量が大きく増えたとしても全体が大きく増えることはない。
「消費量激増」の正体は
第二は、しばしば「急激に拡大」や「激増」といった言葉が使われるが、それが今なのか、それとも2050年までにかけてなのか、などが曖昧なまま議論されていることである。たとえば、政府審議会などでよく引用される最近の電力中央研究所(大手電力会社のシンクタンク)による将来の日本の電力需要予測は、今から26年後の2050年に最大で現状の1.37倍である(これでも他のシンクタンクや研究機関の予測より大きい)。これは年率に直すと1%程度に過ぎず、とても「激増」とは言えない数値である。さらに、この増加分の多くは水素製造のための再エネ電力の増加が占めている。
省エネと再エネが進む
第三に、省エネのポテンシャルはこれまでも、またこれからも大きいことである。たとえば、2010年から2018年の間にクラウドを介したコンピューターの仕事量は550%増加したものの、世界全体のデータセンターのエネルギー消費量は6%しか増加していない(Masanet et al.2020*)。これは、2010年以降、世界のデータセンターのエネルギー原単位が毎年20%ずつ減少したことを意味する。データセンターの運転費の半分以上を電気代が占めるため、事業者が持つ省エネ技術導入インセンティブは極めて大きい。
したがって、国や地域によって差があるものの、少なくとも短中期的には、ICT部門において省エネの導入拡大傾向が続く可能性は極めて高く、多くのデータセンター事業者が再エネ由来の電力を求めていることを考慮すると、いわゆるデジタルサービスに対する需要の拡大と同じペースで世界全体および日本において電力消費量やCO2排出量が急激に増加する可能性は極めて低い。
ただし、日本におけるデータセンターなどの立地・建設は、地域、とりわけ市町村の脱炭素目標の実現に対しては大きな障害となる。したがって、今後はこうした事業計画をもつ民間事業者も含め、市区町村の削減計画の2030年目標、2050年CO2排出ゼロを前提に事業計画を策定するよう、大型施設へのゾーン制、新規立地者への公害防止協定のような追加排出量を抑える協定、カーボンプライシングの強化など、様々な制度を整備していくことは重要な課題である。
*Masanet et al.(2020)Recalibrating global data center energy-use estimates, Science, Feb. 2020, Vol. 367 https://datacenters.lbl.gov/sites/default/files/Masanet_et_al_Science_2020.full_.pdf
(2024年10月号掲載記事)
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