希釈処理しても放射能量は同じなのに

末田 一秀(編集長)

 政府は2021年4月、福島第一原発の汚染水を海洋放出する方針を決定しました。政府と東京電力は「漁業者をはじめ関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」(2015年8月25日東電の福島県漁連への回答書など)と約束しているにもかかわらず、関係者の理解のないまま海洋放出設備の工事を進め、今年の春以降に放出を開始する構えです。これ以上、海を汚さないために、本紙では今月号から問題点に関する連載を開始します。初回は、この問題の基本情報です。

汚染水とは

 福島第一原発は地盤を掘り下げて建設されているため建屋に流入する地下水や溶け落ちた燃料デブリの冷却水が、汚染水となっています。冷却水は循環利用されているものの、凍土壁で止められない地下水の流入が続き、汚染水は増え続け、132万㎥を超える量が保管されています。汚染水海洋放出は、税金を投入して建設された凍土壁による止水対策の失敗を覆い隠す目的とも言えます。  汚染水はALPSと呼ばれる水処理装置で処理されていますが、トリチウムを取り除くことはできません。また、処理が不十分なため、昨年9月末段階で貯蔵量の3分の2はトリチウム以外の放射能も基準を超えており、そのうち5%は基準の100倍〜19,909倍という高濃度です(下図)。これらの基準を超えた「処理途上水」は再度処理して、基準以下の「処理水」にして放出すると東電は説明しています。東電は、ALPS除去対象の62核種と除去対象になっていない炭素14等のうち29核種(トリチウム以外)を測定・評価対象核種とし、対象外の39核種を放出前に自主的に検出限界未満であることを確認するとしていますが、トリチウム以外の放射能の放出総量がいくらになるのか、その影響はどうなのか、説明はされていません。

放出計画

 処理水には、国の放出基準6万Bq/Lを超えるトリチウムが含まれているため、海水で希釈して1500Bq/L未満にし、沖合約1㎞まで伸ばした海底トンネルから放出するとしています。一般の工場は水銀など有害物質を希釈処理などしていません。国が希釈処理にお墨付きを与えていいはずがありません。

 年間の放出量は、当面、事故前の福島第一原子力発電所の放出管理目標値である年間22兆ベクレルを上限とするとされていますから、放出完了までには少なくとも30年ほどかかると見込まれます。廃炉作業の工程を定めた「中長期ロードマップ」は、法的根拠もないまま関係閣僚等会議が定めたもので、燃料デブリの取り出し開始が遅れるなど既に破綻していますが、廃炉完了の2041 ~ 51年は変更されていません。2051年に廃炉が完了するとは思えませんが、汚染水の処理完了がそれよりも延びる可能性があり、辻褄がとれていません。

「ALPS処理水」と「処理途上水」の推定貯蔵量

はんげんぱつ新聞2023年1月号掲載記事