漁民・県民を無視する強行許さない

佐藤 和良(これ以上海を汚すな!市民会議共同代表)

廃止措置計画なき汚染水の放出

 2023年3月11日、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から12年。「中長期ロードマップ」により事故処理から廃炉への作業と管理が行われており、廃炉の完了は2051年とされています。しかし、福島第一原発には放射性廃棄物処理も含めた廃止措置計画は策定されておらず、廃止完了までの全体工程は不透明です。

 政府と東京電力は、2021年から予定されていた燃料デブリの取り出しも開始の見通しが立たたない中、燃料デブリ保管施設等の設置エリアの確保のために汚染水貯蔵タンクの解体・撤去が必要とし、ALPS処理水を海洋放出することが、特定原子力施設全体及び各設備のリスク低減及び最適化が図られるとして、放射性液体廃棄物=トリチウム等汚染水の海洋放出方針を決めました。

漁業者との約束を反故、県民の反対続く

 今年1月、政府は「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」を開き、「令和4年8月以降、漁業者を始め地元住民等との車座対話や全国地上波のテレビCM・WEB広告・全国紙の新聞広告等を活用した情報発信等の取組も強化し、理解醸成の取組が進展してきている。『基金』等の漁業者の事業継続のための対策については、漁業者の方々から信頼関係構築に向けての姿勢との評価を得ている」と全く手前味噌の評価をして、「海洋放出設備工事の完了、工事後の規制委員会による使用前検査やIAEA の包括的報告書等を経て、具体的な海洋放出の時期は、本年春から夏頃と見込む」と発表しました。IAEA の包括的報告書が6月下旬とされ、海洋放出の強行は7月以降と見られます。

 これまで、政府と東京電力は、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」という福島県漁業協同組合連合会や全国漁業協同組合連合会に対する2015年の文書約束や、福島県内農林水産業・消費者4協同組合組織はじめ、福島県内7割の自治体議会による海洋放出の反対・慎重の意見書採択などをことごとく無視してきました。一方的に丁寧な説明と称して「理解」の押し付け、被害前提の「風評被害」対策を進めており、言語道断です。

 福島県民は、本格操業を目前にした漁業はじめ一次産業ばかりでなく、県内の各産業にも実害、風評被害合わせ、2011年3月の事故被害に続く新たな被害が及ぶことに不安をつのらせ反対してきました。福島県漁連の野崎哲会長は「われわれが反対している中で進んでいくのは残念だ。淡々と進むことに非常に不満だと発信するしかない。説明を尽くしていない」と訴えています。

情報や影響評価も不十分なまま強行は許されない

 全漁連や福島県漁連が反対の姿勢を堅持し、宮城県知事など周辺自治体の反対表明も続きました。近隣諸国はじめ、昨年9月の国連総会で大統領が反対演説を行ったミクロネシア連邦やオーストラリアなど16 ヵ国が加盟する太平洋諸島フォーラムや全米海洋研究所協会などからも、安全性の検証が不十分であると指摘されています。

 放射性核種毎の総放出量、貯蔵タンク内の核種毎の放射能総量などの情報も公開されず、海底土、生物への吸着・濃縮による放射能の蓄積評価など放射線影響評価も不十分で、放射性核種が40年を超えて全量投棄されれば汚染が広がり、人と環境への影響は無視できません。

 政府と東電は、福島県内はじめ全国で説明・公聴会を開催すべきであり、漁業者はじめ県民の反対と危惧が払拭されていない以上、海洋放出強行は止めるべきです。

(2月23日)

はんげんぱつ新聞2023年3月号掲載記事