川井 康郎(プラント技術者の会)
政府・東電は漁業関係者や地域の人々、多くの市民の反対の声を押し切って、今夏にもALPS汚染水の海洋投棄を強行しようとしています。汚染水は今なお増加の一途を辿っており、総貯水量は2023年3月時点で132万㎥を超えています。
計画によれば、トリチウムの放出量は事故以前の福島第一原発からの排出管理目標値である年間22兆Bq以下、濃度は現在、汲み上げ水の放出で運用されている1,500Bq/L以下に海水で希釈しながら放出しようというものです。期間については、放出によってタンク容量を減らし、廃炉作業に必要な敷地を確保することが目的とされており、福島第一中長期ロードマップの廃炉目標時期に合わせた2051年に完了するものとしています。
しかしながら実際には、現在タンク内に貯められているトリチウムの総量約780兆Bqに加えて炉内や建屋内にはまだ最大で1,200兆Bqものトリチウムが残存していると推定されており、汚染水量は今後も増加し続けます。またトリチウム以外の多核種の除去処理のために、現在貯められている汚染水の約7割はALPS設備に再通水せねばなりません。ALPS設備では副生する放射性汚泥の処理の困難にも直面しています。計画の破綻は免れないでしょう。また、そもそも2051年までにデブリの取り出しを含む廃炉措置を実現しようというロードマップそのものが「お伽話」です。
筆者ら原子力市民委員会では、汚染水処理に関して以下の二案を提案しています。
(1)堅牢な大型タンクによる保管の継続
石油備蓄等で多くの実績を有する堅牢な大型タンクに長期保管し、半減期12.3年のトリチウムの減衰(年間約5.5%)を待ちます。海水希釈による誤魔化しではなく、自然減衰により総量そのものを減少させます。
(2)モルタル固化による永久処分
汚染水をセメント、砂と共に予め設置したコンクリートタンクの中に流し込んでモルタル固化します。廃止措置中の米国のサバンナリバー核施設の廃水に対して現在、大規模に実施されています(写真)。
利点は、何といっても海洋放出リスクを半永久的に遮断出来ることです。加えて、既存の土木技術で容易に施工が可能であること、固化後もトリチウムの減衰が進み、年月による劣化に対してもリスクは殆どないことです。弱点は、セメントや砂と混ぜるため容積効率が低く、水での保管と比べると約4倍の容積を必要としますが、敷地北側のデブリ取出し関連施設予定地や周囲の除染廃棄物中間貯蔵施設の利用が可能でしょう。環境への放出リスクを将来にわたって遮断できるという観点からモルタル固化処分の方がより望ましいと考えます。
実は、このモルタル固化案は2016年の経産省トリチウム水タスクフォース報告書 に「地下埋設案」として選択肢のひとつに挙げられています。その後、政府・東電は最も安易な海洋放出案ありきでこの最良の選択肢を真剣に検討してきませんでした。当面の汚染水の増加はタンクで凌ぎつつ、海洋環境の破壊も、風評被害拡大もないモルタル固化による根本的な解決に向けて決断すべきです。
はんげんぱつ新聞2023年4月号掲載記事