海外からも反対の声

伴 英幸(原子力資料情報室)

 汚染水(ALPS処理水)の海洋放出には海外の政府や多くの団体から反対の声が上がっている。

 中国外務省の孫暁波軍縮局長は、「日本が一方的に排出を決めたのは無責任だ」と批判し、周辺国などとも連携して反対していく構えを強調した(朝日新聞3月16日)。

 太平洋の16カ国が参加する太平洋諸島フォーラムも懸念を表明している。22年11月23日にフォーラムが委託した5人の専門家による覚書が公表された。これによれば、透明性が不十分、生態系への影響や生物濃縮の考察が不十分であることから、放出を無期延期し、タンク貯蔵の継続あるいはセメント固化をと提唱している。

 2月7日に実施された同フォーラム代表団と岸田総理との会談では、日本側から「自国民及び太平洋島嶼国の国民の生活を危険に晒し、人の健康及び海洋環境に悪影響を与えるような形での放出を認めることはないことを改めて約束する」と述べられ、「両者は本件に関する集中的な対話の重要性につき一致しました」とある(外務省)。合意には至っていないと読める。

 オーストラリアの戦争防止医師協会と自然保護基金は共同声明を発表し、太平洋は豊かさ、生命、文化の場であり、下水道ではないと述べ、オーストラリア政府に対して海洋投棄計画の延期と代替案を検討するように日本政府に要請することを求めている(3月)。

 ニュージーランドをベースに活動する環太平洋地域の非核社会構築に向けた連合体が、日本政府と東京電力に放出中止を求める声明を出した。その中で、NZ政府に対して国際海洋法裁判所に提訴するよう働きかけること、日本政府に対して環太平洋で影響を受けると考えられる地域社会との、科学に基づき、公正で信頼のできる対話の場を設けることを要請している(22年11月26日)。

 フィリピンからは2つの団体が声明を出している。一つは非核バターン運動で、日本政府に対して環境全体に悪影響を及ぼす海洋放出を中止し、家族の生命、生活、未来を守る行動をとるよう求めている。もう一つは「海洋放出は人類への犯罪である」とする共同宣言で、フィリピンの市民社会の代表的な人々が署名している。

 韓国では4月7日に共に民主党の国会議員らが福島を視察し、翌日、海洋投棄反対の声明を出した。4月12日には783の市民団体が声明を発表した。海洋投棄に強く反対すると同時にユン政権に対して、反対の姿勢を明確にし、海洋法国際裁判所に提訴することを求め、日本政府に海洋投棄の中止を求めている。韓国YWCAは放射性廃液を放出するなとする要請を発表した(4月6日)。

 核のない世界のためのマンハッタンプロジェクトはニューヨークで発足した団体だ。海洋投棄計画の中止を求めるハガキを、大熊町長、双葉町長、福島県知事に送る運動を展開している。カリフォルニア州ウエスト・ハリウッド市議会が廃液を太平洋に放出しないことを求める議決を採択した(3月6日)。議決では14項目ほどの理由が述べられているが、国連人権委員会の専門委員が21年4月に海洋放出に対して環太平洋地域の数百万の生き物たちに影響を与える懸念を表明したことに触れている。

 イギリス・アイルランドの非核自治体協議会(NFLA)は、岸田首相、経産大臣、農水大臣など宛の書簡を公表し、汚染水の太平洋への放出を強く非難している(3月15日)。

 書簡ではNFLAの前代表が22年にも同様の書簡を送ったことに触れ、再度強く要請するとしている。  札幌でのG7エネルギー閣僚会議の共同声明では、日本政府の期待に反して、海洋放出に関するIAEAのレビューを歓迎するとしている。放出そのものを歓迎する内容にもなっていない(4月16日、共同声明第71項)。国内外の反対の声を押し切って強行することは許されない。

はんげんぱつ新聞2023年5月号掲載記事