木村亜衣(特定非営利活動法人いわき放射能市民測定室事務局長)
福島第一原子力発電所のタンクにたまり続けている放射性物質を含む処理汚染水の海洋放出を、政府や東京電力は、8月24日午後1時ごろから開始しました。「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」との約束を反故にし、また国内外の人々の「処理汚染水放出反対」の声も押しきる形で強行されました。
政府や東京電力は、
・トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理を行う。
・海水希釈後のトリチウム濃度が1,500Bq/L未満、つまり告示濃度限度(60,000Bq/L)の40分の1以以上に薄めるので安全だ。
等と言っていますが、告示濃度以下なら本当に安全なのでしょうか?検出が下限値以下だからといって、環境や人体に及ぼす影響が本当にないのでしょうか?
現在、各機関が海水の自由水型トリチウム濃度を測定していますが、「迅速法」によるもので、検出下限値は7~8Bq/L程度となっています。放出後、国は「トリチウムの濃度は検出できる下限値を下回った」と発表し、各メディアはそれらを一斉に報じています。しかし、「検出できる下限値を下回った」だけのことであり、今後どのような影響を及ばすかは、誰にも判断することはできません。
また、この問題の焦点は、トリチウムのみとなってしまっていますが、実際には様々な放射性核種も含まれています。そもそも、それらも海に流してよいのでしょうか?疑問が残ります。
放射能測定を続ける
たらちねでは、2015年から福島第一原発1.5㎞沖合の海洋調査を開始しました。採取する検体は、海水・魚類・プランクトンで、測定する放射能核種は、放射性セシウム・ストロンチウム90・トリチウムです。また、2021年春からは、福島県沿岸調査も行っています。東京電力が発表した放射性物質拡散シミュレーションによると、処理汚染水は、沖合だけではなく、陸地に沿って南北に流れていくことが多い結果となっていました。これらの核種の測定方法は、全て公定法に基づいて分析を行っていますので、測定結果を報告できるまで時間がかかります。しかし、目に見えない・匂わない・感じない放射能の存在を明らかにするためには、可能な限り検出下限値を下げ可視化する事がとても大事なことだと思います。
私たちは、これまで継続してきた12年間の測定活動を通して、福島県内の農産物の放射性物質が減少していることを確認してきました。海洋環境の放射性物質による汚染も同様です。12年前の惨事が繰り返されています。
2度と同じ過ちを見過ごさないためにも、科学的視点と思考を起点に、子どもたちの未来を守るため活動に励んでいきます。
はんげんぱつ新聞2023年10月号掲載記事