【原子力資料情報室声明】ミッションインポッシブル―浜岡原発での基準地震動にかんする不正事案調査報告書―
ミッションインポッシブル
―浜岡原発での基準地震動にかんする不正事案調査報告書―
2026年9月16日
NPO法人原子力資料情報室
9月14日、中部電力は浜岡原発の基準地震動策定における「不適切事案」にかんする特別調査委員会からの報告書(以下、本報告)を公表した。[i]1月5日に発足した際は「第三者委員会」を名乗っていたが、最終的には日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」[ii]に適合しなくなったため、「特別調査委員会」に看板を掛け変えた。適合しなくなった理由として報告書は「委員会の体制等について、2025年12月26日以降中部電力と協議」、「本委員会が設置された2026年1月5日までに、専門的又は技術的な事項に対する正確な認定、中部電力の社内で行われている調査の内容や認定事実等の確認、ステークホルダーへの適時の説明を含む中部電力の対応における機動性の確保」という3点を挙げ、「ガイドラインに全面的に準拠しないもののこれを尊重…中部電力と合意」と説明している。中部電力は1月5日、今回の不正行為を公表するとともに第三者委員会が調査すると発表した。[iii]だが発表した時から第三者委員会ではなかった。中部電力は基準地震動を改ざんした上、その調査委員会の位置づけすら偽装していた。
日弁連のガイドラインはその前文に「第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」と明記する。だがガイドラインを尊重するにとどまる本委員会の目的は何だろうか。報告書を読む限り、その目的は問題の矮小化、そして浜岡原発をなんとしても生きながらえさせることだと推察せざるを得ない。その典型的な表れは、本報告書ではなく、本報告書のダウンロードリンクの前に掲載された、中部電力が委員会から調査報告書に関して受けたという「本件各行為に関して、本委員会としては、問題がない適切な行為であったとの認定はしていない。他方、それらを改ざん、ねつ造、(地震動の)過小評価、データ不正といった言葉で単純化して、簡潔に表現することも妥当ではないと考えている」との説明書きだ。本報告書を読めば、改ざん、偽装のオンパレードである。にもかかわらず、全体を総括した時に不正行為と呼ばない、と宣言しているのだ。
今回、不正行為は大きく、作成段階の不正(①候補を多数作成した上での人為的な代表波選定、②残差最小によらない人為的な代表波選定、③残差最小を考慮しない人為的な代表波選定、④入力値流用による代表波作成、⑤⑥接続周期操作、⑦模擬地震動(波形)の人為選択、⑧波形数値の直接書き換え)、審査段階の証跡捏造、発覚後の追加隠蔽に整理できる。本報告書を読むと、作成段階の不正①が常態化するなかで、手間を省くための④が始まり、さらに基準地震動を一定値以内に収めるために各種不正にエスカレートしていった姿が現れてくる。そこでこの不正①はいったいいつから行われているのか、という疑問が浮かぶ。だが委員会は「選定方法①が行われたケースの一部については、委託先の 2012年度の委託報告書及び解析業務報告書から、その実施が確認」「遅くとも2014年2月14日の浜岡原子力発電所 4号機に係る原子炉設置変更許可申請書等の提出時には既に選定方法①が一部のケースで行われていたと認められる」と、そこを解明しようとはしない。なお7月9日付共同通信は関係者への取材から「不正は、2009年の駿河湾を震源とする地震で5号機に想定を上回る揺れを観測したことを契機に、追加の耐震策を回避する目的で始まった可能性がある」と報じている。[iv]2か月以上前の段階で検討し報道までされた不正の起点や動機にすら迫らない。また調査の中で見つかった別の不正行為も中部電力との間で検証すべき調査対象事象としないことなどで合意している。問題の局限化が目的だったのであれば正しい態度といえようか。
一方で、原因究明においては中部電力の一部の役職員がもつ「独自の正当化理論」や原子力部門の高度性に伴う統制不全、経営層の理解欠如、などが挙げられた。特に「独自の正当化理論」はキャッチ―なフレーズだが、読むと、原子力規制委員会の規制は過剰規制だ、といった「平凡」なものであり、昨今の原子力業界に一般的な主張だ。原子力部門がブラックボックス化しがちなことも繰り返し指摘されてきており目新しさはない。むしろ原子力業界全体が同様の宿痾を抱えているといってもいい。
一方、「本委員会は、NRAの指摘・対応の是非について評価することは予定していない」としながら、「仮にNRAの指摘が技術的又は学術的に不合理なものであり、また同委員会の対応が頑なであったとしても」不適切行為は認められないという一定の留保を置いた指摘や、若干の感想として「安全側に判断すべき立場にあるNRAの主導の下でなされた要求は、その性質上、安全側に過剰なものになる可能性を秘める」「社会的な必要性や効用との関係で、どこかでバランスを図るべきであるという考え方もあり得る」など、中部電力になり代わって原子力規制委員会への不平・不満をぶつける主張を繰り広げている。加えて、原子力の必要性についても脚注などで引用の形をとって繰り返し主張している。
9月14日に行われた中部電力の記者会見で、中部電力は再稼働申請を取り下げ、準備したうえで再度提出する方針を表明した。そして焦点はA-17断層であり、解決できる問題であるかのように説明した。だが本報告書を見ると、例えば、「御前崎海脚西部の断層帯についてはSGFと波数積分のフーリエスペクトルの重ね描きから4秒と判断しておりますが、A-17断層と御前崎海脚東部の断層帯・牧之原南稜の断層は、上記のようにすると波数積分法の結果が大きすぎてSs-Dに収まらないので、収まるように接続周期をそれぞれ5秒と4秒にしている」という記述がある。また本報告書にはないが、3月に中部電力が原子力規制委員会に提出した報告書には「方法②は、当初、A-17断層への対応として行われたものであったが、その後、プレート間地震における分岐断層や内陸地殻内地震との連動ケースにおける代表波の選定においても行われた」とある。[v]
本報告書によれば、「2011年5月の運転停止以降、浜岡原子力発電所の維持に要した費用は、累計で約1兆5,000億円、安全性向上対策工事に要した投資額は、累計で約2,800億円」である。2011年度から2025年度の間、中部電力は1.7兆kWhを販売したため、浜岡原発の費用が均等に配分される前提だと1kWhあたり0.86円上振れていたことになる。標準世帯(月260kWh)で考えると年間2,676円、15年で約4万円を負担してきた。加えて今後再稼働に要する期間分の維持費、巨額の改修費用が発生する。報告書は停止によるコスト増(化石燃料焚き増し等)が2,400億円だと述べる。これは3~5号機の合計額と考えられるが、3・4号機の再稼働申請は今回取り下げ、5号機は申請すらまだだ。浜岡原発の再稼働によるコスト削減効果は再稼働に伴う費用で相殺される可能性が高い。
原子力は電力安定供給・脱炭素に不可欠だと主張する。だが、浜岡原発は15年以上、1kWhの電力量も生み出すことなく、ただ費用を消費者に転嫁してきた。もはやこの状態を漫然と続けることは許されない。中部電力に突きつけられている課題は、浜岡原発の存続の是非をゼロベースで判断することだ。
すべてのステークホルダーのための第三者委員会であれば、この指摘を行うべきだった。だが特別委員会は、問題の収拾がミッションであった。だがそのミッションは達成不可能だ。文言上で問題を矮小化することはできても、浜岡原発の地質という現実がそこに存在するからだ。中部電力は小手先のごまかしに終始するべきではない。
以上
[i] 中部電力. (2026). 浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案に関する調査報告書の公表. www.chuden.co.jp/publicity/press/1218316_3273.html
[ii] 日本弁護士連合会. (2010). 日本弁護士連合会:企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン. www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html
[iii] 中部電力. (2026). 浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案について. www.chuden.co.jp/publicity/press/1217264_3273.html
[iv] 共同通信. (2026). 中電、浜岡不正09年地震契機か 原発5号機、追加対策を回避. news.yahoo.co.jp/articles/cb3fce2c61cd3d04d6aaf84864fb847af073bf6e
[v] 中部電力. (2026). 浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案に関する経済産業大臣および原子力規制委員会からの報告徴収への報告. www.chuden.co.jp/publicity/press/1217589_3273.html


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