原子力小委員会参加記⑰かすかに聞こえる軍靴の足音

『原子力資料情報室通信』第620号(2026/2/1)より

【47回原子力小委員会】
 12月17日、47回原子力小委員会が開催された。テーマは引き続き「原子力政策の具体化に向けた論点」だった。事務局から「既設炉の最大限活用」に向けたいくつかの論点が提示されたうえで、電気事業連合会から運用高度化による安全性向上・品質向上(稼働中メンテナンスや稼働率の向上など)に向けた取組みが説明された。
 なお一連の原子力小委の目的は2023年に閣議決定された「今後の原子力政策の方向性と行動指針」の改定だ。前回策定はエネルギー基本計画改定を受けてのもので、今回も同様にエネルギー基本計画改定を受けての改定検討だ。経産省に今後もエネ基改定ごとに見直すのか確認したところ、そうではないとの回答があった。

 委員会で私は以下の通り発言した
1 原子力人材が不足するという話は事実なのか? 前回も発言したが、原子力産業協会の産業動向調査によれば電気事業者と電気事業者以外を合わせた原子力関連従事者数は2005年度の42,911人を底に増加中で現在は51,260人だ。50基以上稼働していた時期よりも8,300人も増加した。政府目標では2040年時点の原子力比率が20%だ。原発基数は事故前の54基体制から30基台になり運転やメンテナンスに関連する雇用者数は減少する。たとえば1989年の電気事業者の原子力関連従業者数は8,766人、当時の稼働原発は37基だった。いまは13,012人。4,000人以上増えた。鉱工業の関連従事者は新設作業で増加するかもしれないが、新規制基準対策で増加しており、増加分はそれほど多くないかもしれない。また、現在多くの領域で人員不足がいわれており、原子力分野だけの問題でもない。たとえば日本の社会資本は老朽化が深刻で、2040年には道路や港湾、河川施設の6割以上が建設後50年を超える。こうした老朽化への対処にも多くの人手が必要だ。過剰な雇用見込みを立てるのではなく、客観的な数値を検討する必要がある。

2 核燃サイクルの実効性向上WGでは、六ケ所の安定稼働が議論されている。ここで重要なのはプルトニウムバランスだ。フランスでは日本と同様に利用と消費のバランスを維持する方針を示しているが、民生用プルトニウムの保有量は2010年の56トンから2023年には96トンへと増加の一途をたどっている。なぜ増加したのか、日本で同じことが起きないのか。もし起きるのであれば、どのように対処するのか、を議論いただきたい。

3 長期脱炭素電源オークションや容量市場は、事実上国民全体に巨額の賦課金を転嫁する仕組み。にもかかわらず、構造が極めて不透明だ。現状の国民転嫁のやり方には強く反対する。

4 電事連資料では、スクラム頻度の低下を安全性向上とイコールでみなしているが本当にそうか? たとえばオンラインメンテナンスの推進による稼働率向上は、従来止めて直していた比較的軽微な事象を、様子を見ながら運転する対応に変容したことを示している可能性もある。少し古い統計だが、米国は日本に比べてトラブル頻度が多い。稼働率向上は安全を最優先する安全文化を侵食しかねない。また運転期間の長期化は、定期検査頻度の低下になる。定期検査作業員の要員数減ともイコールだ。地元との共生という観点でも微妙な話になる。現場に触れる機会も減るので、技術者の力量低下にもつながる。通常運転時の省人化も当然考えられていることと思うがオンライン化にサイバーテロリスクも存在する。通常運転時は問題ないかもしれないが、重要なのは重畳事象が起きた時の対応能力であり、こうした対応は安全余裕の切り詰めにつながる。慎重に検討すべきで今回の説明では不十分。

 佐藤丙午(へいご)委員(拓殖大教授、安全保障論)から気になる発言があった。行動指針の6つの柱に追加すべき新たな柱として、医療、動力源、核魚雷などの軍事利用なども見据える必要がある、というものだ。特に動力源は例えば原子力動力船や原子力潜水艦、核魚雷は通常動力型核搭載魚雷と、小型原子炉型核搭載魚雷の2種類が考えられるが、後者を想定しての発言だと思われる。

【10回革新炉ワーキンググループ】
 12月11日には、10回革新炉ワーキンググループが開催された。今回のテーマは高速炉・高温ガス炉の開発状況で、事務局から全体状況の説明があったのち、開発のとりまとめ役の日本原子力研究開発機構(JAEA)から開発状況について説明があった。なお茨城県から高温ガス炉実証炉の県内設置および実施主体、設置場所の早期選定に向けた議論加速化が要請された、との事務局報告があった。

 私は以下の通り発言した
1 原子力基本法は「原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする」ことが明記されている。つまり、平和利用は原子力利用の大前提であり、ここを外れた議論はあり得ないと理解しているが、事務局に見解を伺いたい。

2 高速炉や高温ガス炉の実証炉開発事業について、高速炉で1,714億円、高温ガス炉で1,970億円、合計3,684億円と支出がかなり増えている。GX基本方針では2025年度までに高温ガス炉・高速炉の研究開発設計等を実施、その後実証炉開発というスケジュールが示され、10年間で1兆円の投資だった。GXの基本は官の資金によって民間投資を促すというものだ。では、民間投資はいつどのようなタイミングで検討するのか? また、官の資金は国民の税金だ。もんじゅでも損切しないままずるずると投資をし続けた結果、2兆円を超える資金が投下。官の投資はすでに十二分に実施された。支出総額の見込みの示されないまま、出し続けることに正当性があるのか評価するべき。また「経済性を含めて実用化の見通しを得るために」実証炉開発事業を行うというが、実証化段階に移る条件を設けるべき。その際、技術的成熟性もさることながら高速炉・高温ガス炉も経済行為である以上、サイクル全体を俯瞰した客観的な経済性評価は極めて重要になる。

3 米国の原子力規制は推進側の圧力により規制当局の独立性を棄損する形で規制改革が行われ審査迅速化につながっている。日本ではそのようなことはあってはならない。

4 この間経産省は高速炉開発の意義として有害度低減を強調してきた。だが炉心設計では増殖比は1を超える設計を行っている。もし高速増殖炉を目指しているなら正直に説明するべき。

 またJAEAに、再処理について、MOXは湿式再処理、金属燃料は乾式再処理という二本立てを考えているのか? 高温ガス炉での水素製造を行った場合、どの程度の製造コストとなると想定しているのか?もし検討されているのであれば感度分析は行っているのか? と質問した。

 特に開発実施主体やコスト面には多くの課題がある。そのためか、今回は、珍しく私も含め多くの委員の意見が一致していたように感じた。
 委員の発言終了時点で閉会時刻が迫っていたことから、委員の意見への事務局・JAEAの回答の多くは次回持ち越しとなった。次回の議題は今回の継続で高速炉・高温ガス炉の開発状況となる予定だ。

(松久保 肇)

第47回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/047.html

第10回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/010.html

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