電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第十八次中間とりまとめ(案)等に対する意見
資源エネルギー庁は現在、「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第十八次中間とりまとめ(案)への意見」を募集中です。「第十八次中間とりまとめ」は、ベースロード市場、長期脱炭素電源オークションの制度改正に関するもので、特に後者について、既設原発の安全対策投資や、LNG火力の新設案件など多くの問題を含んでいます。
原子力資料情報室は以下の意見を提出しました。
●該当箇所
2.1.ベースロード市場 (1)背景
「新電力のアクセスが極めて限定的であったため、大手電力会社と比して、新電力は十分な競争力を有しない状況であった。この課題に対処するため、ベースロード市場(以下「BL 市場」という。)が創設され、旧一般電気事業者等が保有する BL 電源等により発電された電気の一部を、適正な価格で市場供出することが制度的に措置された。」
●意見
当初のベースロード市場の設立目的は、新電力にベースロード需要を供給するというものだった。現状も、BL比率(約56%)に向けて市場が設定されている。一方、本市場の取引量は新電力の販売電力量に比べて、想定されたBL比率を大幅に下回っている。取引量が少ないままなのは、本市場での供出価格が高すぎるためだ。当初目的に照らして、制度を見直すべき。
●該当箇所
(2)2023 年度オークション結果総括
●意見
2022年度のBL市場約定価格は、2023年度のJEPX市場価格を大幅に上回っている。また2022年度に想定された燃料価格と2023年度の実際の燃料価格は大幅に異なっている。よって、この市場によって、売り手側は相当額の利益を挙げたものと想定される。BL市場の取引は実需給の相当前に行われており、双方にとってリスクが大きい。取引を行う時期をより実需給に近くするべき。
●該当箇所
2.2.長期脱炭素電源オークション
(b) 原子力
(b-1) 既設原子力発電所の安全対策投資の扱い
本制度は、投資回収の予見可能性を確保することにより、脱炭素電源への投資を通じて供給力を確保する制度であり、現状でも既設揚水の大規模改修や既設火力の脱炭素化のための改修は対象となっている。したがって、既設原発の安全対策投資についても、オークションの対象とすることで投資回収の予見可能性を確保することは、本制度の趣旨に合致する。
●意見
本制度は「投資回収の予見可能性を確保することにより、脱炭素電源への投資を通じて供給力を確保する制度」であることから、すくなくとも、既設原発にすでに行われている安全対策投資に関して、本制度に盛り込むことは、本制度の趣旨に反する。なぜなら、投資回収の予見性有無にかかわらず事業者がすでに投資を行っており、この制度でこうした電源の応札を認めることは、原子力事業者への棚ぼた利益となり、消費者の利益に大幅に反する。
●該当箇所
(b) 原子力
(b-1) 既設原子力発電所の安全対策投資の扱い
第2回入札の対象に追加するのは「2013 年 7 月に施行された新規制基準に対応するための投資案件」とし、今後、新たなバックフィットが行われた際や、巨額の自主的安全性向上投資が行われる際に、必要に応じて、本制度への対象の追加の必要性を検討することとした。
●意見
本制度は「投資回収の予見可能性を確保することにより、脱炭素電源への投資を通じて供給力を確保する制度」である。本制度導入前にすでに投資が行われているものを入札対象に含めることは、こうした事業者への棚ぼた利益となる。また新規制基準に対応するために追加投資を行いながら、本制度の対象となる電源とならない電源があることは事業者間に不公平を生むことにもなる。
●該当箇所
(b) 原子力
(b-2) 事業者間の公平性
(b-1)の整理とした場合、既に再稼働した既設原発は本制度に参加不可となり、まだ再稼働していない既設原発は参加可能となるが、こうした事業者間の公平性については、以下の2点を考慮すれば、一定の公平性は確保されると考えられる。
本制度では固定費に対して支援を受けることでローリスクとなる代わりに、他市場収益の約9割の還付を求めることでローリターンとなることから、必ずしも収益性が改善する訳でもない。
これまでに再稼働した既設原発も、今後、新たな知見が得られ、バックフィットとして規制基準に反映され、その追加された基準に対応するための投資案件が本制度の対象に追加された場合には、本制度に参加可能となる。
●意見
1点目については、収益性が本制度によって改善するかどうかが問題ではなく、制度の公平性の問題であり、この主張は失当である。2点目については、制度上当然のことをいっているにすぎず、すでに行った投資の回収についての公平性については何ら改善するものではなく、この点もまた失当である。●該当箇所
(d) 揚水・蓄電池
初回入札に応札した蓄電池案件の設備容量(送電端)は、平均 3.5 万 kW であった。これを踏まえ、本制度では原則 10 万 kW 以上の大規模な電源投資案件を対象としていることから、第2回入札では、蓄電池・揚水の最低入札容量を引き上げ、一般水力と同様の3万 kW(送電端設備容量ベース)とした。●意見
蓄電池案件はまだ本邦では創成期であることから、小規模案件も引き続き対象としておくべき。●該当箇所
(b)脱炭素電源の募集量のうち、「既設火力の改修案件」「蓄電池・揚水」「既設原子力の安全対策投資」の募集上限●意見
水素・アンモニア等は将来的に専焼化が求められていながら、混焼度の向上や専焼化はまだ研究開発段階である。そのため本制度により提供される予見可能性はそもそも不十分である。よって、本制度の対象から除外する、少なくとも実態に合わせて募集容量を引き下げるべき。●該当箇所
(b)脱炭素電源の募集量のうち、「既設火力の改修案件」「蓄電池・揚水」「既設原子力の安全対策投資」の募集上限
既設原発の安全対策投資については、一定の募集上限を設定することとして、募集上限を 200 万 kW とした。●意見
既設原発ですでに投資済み案件については公平性の観点からも消費者負担の低減の観点からも本制度に盛り込むべきではない。●該当箇所
(c)LNG 専焼火力の募集量
非化石電源の導入拡大を前提としつつ、更に安定供給に万全を期す観点から、400 万 kW を追加募集することとした。●意見
LNG専焼火力の将来的な脱炭素化は現状義務化はされておらず、一方で、電源の寿命は非常に長期にわたる。急激な脱炭素化が求められている今、LNG専焼火力の建設に予見可能性を与えることは異様なことであり、認められない。●該当箇所
(d)既設原子力発電の安全対策投資
既設原発の安全対策投資は、原子力の新設案件と同じ上限価格の下で競争し、経済合理性のある案件が本制度の支援対象となり得ることとした。●意見
仮に電気出力が100万kWであったとして、2000億円の安全対策工事を行った場合、投資回収を20年、金利2%を想定したとしても、全体の費用は2500億円程度、年1.25万円/kWであり、上限にしたとしても2万円/kWに満たない。新設よりも安全対策工事の方が高くなるような経済性を考慮しない非合理な投資が行われているのであれば、そうした投資を本制度で支援することは消費者利益を大幅に損ねる。よって、上限価格は10万円にするべきではなく、実際の投資額をもとに設定するべきである。●該当箇所
なし●意見
長期脱炭素電源オークション2023年度約定結果の発表では、単年度の約定総額のみが示されている。だが、このオークションでは、20年以上支払いが続くため、総額でどの程度の費用が発生するのか不明確だ。消費者負担で電源投資を促す以上、約定結果の発表の際、落札電源それぞれの約定価格と制度適用期間を発表するべきだ。最低でも当該オークションで将来的に発生する負担総額を示すべきだ。
●参考資料
CNICブリーフ「消費者負担で原発補助金―長期脱炭素電源オークションとその問題」
●意見提出先