新大綱策定会議奮闘記(9)原子力委員会は存続するか

『原子力資料情報室通信』第457号(2012/7/1)より

新大綱策定会議奮闘記(9)
原子力委員会は存続するか

 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会(以下、小委)の活動と結果は前号で紹介したが、その後、5月24日に毎日新聞が、実は秘密会合を開いて事業者の意向に沿って報告書を書き変えていたと暴露したことで、事態は一気に原子力委員会の存続にもかかわる本質的な問題に突入していった。

秘密会議

 報道を総合すると、原子力委員会が入っている合同庁舎4号館7階の会議室で「勉強会」と称する秘密会議がたびたび開かれ、その中で、事業者の意向に沿って報告内容が書きかえられていた。交わされた会話まで報道されているので、内容が相当詳しく伝わっているようだ。テレビでは三々五々会議室に入って行くメンバーの隠し撮り映像が流された。これらの情報は内部(複数)からのリークによるとみられる。情報提供者の意図は不明だ。

 藤村修内閣官房長官は記者会見で2011年11月から本年4月24日までに23回の「勉強会」を開催したことを明らかにした。小委が15回だったことを考えれば、その多さに驚かざるを得ない。メンバーは電気事業者や日本原燃、経産省などで構成されており、毎回の参加者は30人を超える。

資料の公開

 原子力委員会はこれまでに同会の見解、内閣府に残っている資料およびメールのやり取りなどを公開した。見解は、事業者を含めた会合を開催していた事実を認めながらも、これは「検討小委の資料準備のための作業連絡を目的として開かれてきたもの」だとした。その上で「事業者の見解を反映して報告書を書き換えた事実はない」と否定した。第1回の招集メールには「大綱策定会議や技術検討小委に向けて、原子力発電と核燃料サイクルオプションの定量的定性的評価の準備のため」に勉強会を設置するとしている。小委のためだけではないことは明白だ。ただし、23回のうち5回分の資料は内閣府にはないとして公開されていない。

策定会議で激論

 上述の見解を読んで、筆者は5月29日の新大綱策定会議(以下、策定会議)に意見書を提出し、4項目の要請を行った。?全秘密会議の資料や参加者名、議事録などの公開、?影響の有無を第3者委員会でチェック、?秘密会議を開催しないことの宣言、?策定会議を中断し、新組織による原子力委員会のあり方、原子力政策に関する審議のあり方を議論する、である。

 浅岡委員も金子委員も阿南委員も意見書を書き、事実関係の全貌を解明し、原子力委員会の責任と改革を求めた。

 この日は、3人の専門家を招いて意見を聞く予定になっていて、近藤駿介委員長は秘密会議問題に30分程度を割いてお茶を濁すつもりだったのだろう。途中、これで議論を終わりたいと言ったが、それでも4人は次々と発言を続け、結局、委員長は私たちの発言を止めることができなかった。この日の策定会議は秘密会議問題に終始して終わった。

近藤委員長の約束

 この策定会議で近藤委員長は、?今後は秘密会議を招集しない、?秘密会議で検討された資料の公開、?電力やメーカーなどからの出向職員は6月末を目処に戻す、?原子力委員会のあり方、審議会のあり方の改革案を示すことなどを約束した。
 近藤委員長は改革案を「次回会合には提出する」と会合を締めくくったが、直後の記者会見では策定会議を中断すると述べた。その後、予定されていた策定会議は次々と延期されて中断状態に入っている。
 また、小委が事業者の影響を受けたかどうかの第3者チェックは鈴木座長が約束した。そして、6月8日に内閣府に後藤斎副内閣相をトップとする検証チームを設置して検証を始めた。検証は非公開で行われている。阿部知子衆議院議員(社民党)は予算委員会で質問、細野原発担当相から外部評価を検討したいとの発言を引き出した。

筆者の立場

 鈴木座長の小委の運営は、少数意見は意見として書き込むというそれなりに公正な姿勢だったと思っている。そして、各委員から最終報告書の承認を得ているので書き換えはないと主張している。筆者は言いたいことは言ったし、筆者の主張が入れられたところもあるが、入れられなかった点もある。そして、最終報告書を承認した。

 一例をあげれば、直接処分の経済性が最も優れていると断定するべき、と筆者は繰り返し主張したが、優位となる可能性がある、と弱められた。委員6人中4人がサイクル推進の立場だから、事業者の影響を受けて書き換えたと証明するのは現実問題として難しい。

 これは求める結論を導くために官が行う人選の問題や審議会のあり方の問題と言える。小委は核燃料サイクルの選択肢を選出してその得失を客観的にまとめることが委託されたミッションだが、会議はしばしば個人の考えの表明となった。特に山名委員はその傾向が強かった。鈴木座長にも選択肢の優劣を判断したいという姿勢が時折見られた。全員の合意で再処理・直接処分併存政策(以下、併存)が最もよいという結論に達したかったようだ。

 これに対して筆者は、六ヶ所再処理工場の運転を容認することができなかったので、全量直接処分が最もよい選択肢であると主張した。

秘密会議のウラ事情

 秘密会議は「定量的定性的評価の準備のため」という。費用関係など事業者しか持たない詳細情報があることから、彼らの協力を必要とする面もあろう。福島原発事故後に透明性が極めて重要なことと知りながら、密室会議を繰り返しているのだから、事故の反省がなく、やり方が根本的に間違っている。

 事業者が必要な時だけに参加しているのなら準備作業のためという理屈は通るが、しかし、全会合に参加しているのだから、その理屈は通らない。委員から出された意見に対する対応策の分担を行なっていたことは公開された資料で明らかだ。

 協議を続けていれば、その中で議論の方向性や評価案が決まっていくのは当然だ。都合の悪い議題を見送る話が出てきても何の不思議もない。4月24日、大臣が大飯原発の運転再開問題で福井県入りするその日の策定会議で、立地地域との共生に関する議論をしないように経産省サイドから圧力があって議案から外したと報道されたが、これも「勉強会」の席上で出たことだろうと推察する。

 問題の本質は、市民不在のまま、官僚と事業者たちだけによる非公開会合が開催されて政策の骨格が議論され、それにそった対応策を話し合っていたことにあるのであって、書き換えなどの影響を受けていなければ許されるといった問題ではない。策定会議や小委など審議会が秘密会議を権威づける「隠れ蓑」となっていることが本質的な問題なのである。

秘密会議はどの程度機能したか

 一般論として審議会の本質問題を述べたが、今回はどの程度機能していたのか。迷うところがある。それは、原子力委員会は小委員会の最終報告を受領したものの、いまだに委員会決定としていないからだ。通常は小委の報告書がそのまま決定となるのだが、事態は通常通りに進んでいない。このことは、小委の最終報告が官僚や業界の求める内容を充分に反映していない可能性を示唆している。その後の原子力委員会の会合を追うと、「もんじゅ」の継続を具体的に書き込みたいようだ。これは、鈴木座長が全量再処理に反対の立場であったことが影響しているのではないかと考えている。

改革に向けて

 今後秘密会合は開催しないと約束した。事業者の影響を排除するというわけだ。しかし、官僚が事務局を担って政策決定の議論をまとめていくこれまでのやり方のままでは政策決定過程は変わらない。金子委員は議題選定や議案内容を委員で構成する小委員会形式で行うことを提案したが、そうした改革が必要だ。近藤委員長は有識者ヒアリングを通して原子力委員会の改革案を提案すると5日の原子力委員会で述べている。

 この改革は、国会で審議されている原子力安全規制庁の設置法の議論の影響を受けるだろう。原子力委員会の存在意義が問われている。原子力委員会が行ってきた原子力政策(計画)、予算配分、平和利用の担保といった仕事がどこまで必要かまで遡って見直し、改革していくことが必要だ。まさにゼロからの見直しであるが、私見を言えば、原子力政策を独立して作る時代ではない、予算は単なる積み上げであり、財務省が吟味すればよい、平和利用の担保は原子力安全規制の一環として位置付けられよう。要するに原子力委員会は役割を終えたと考えている。
(伴英幸)


 小委の最終報告書は委員の意見を反映させているので公正だという意見があります。しかし私は秘密会議の悪影響があったと思います。議論がマイナスから始まった場合とゼロから始まった場合では、同じ時間と労力をかけても行き着く結果が違うからです。偏った「事務局案」をたたき台に議論を開始する場合、そのおかしさの指摘に終始して会議時間がなくなる様子を何度も見ました。
(谷村暢子)

 

 

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