原子力長計策定会議委員月誌(10)
伴英幸の原子力長計策定会議委員月誌(10)原発の割合を3~4割に維持するつじつまあわせ
※原子力資料情報室通信371号に掲載
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研究開発に関する議論を中断して、議題はエネルギー政策における原子力の位置づけと今後の方向に移った。2度の会議の後、論点整理(案)が出されている状態だ。2000年の長計では原子力の位置づけは適切なレベルに維持するとなっているだけだったが、今回の提案は3~4割程度かそれ以上に維持すると強気な提案が出てきた。
原発の導入は電気事業者の経営の話だから、数値目標は出ないだろうと筆者は少し楽観していた。二酸化炭素削減に原子力が不可欠といった原子力産業界の世界的なキャンペーンをやや軽視していたのかもしれない。
これに対する電力側の対応を勝俣委員(東京電力)の発言から見ると、原子力開発が電力の自主的な開発だったことを強調した第21回会議(3月16日)の発言に続いて、第22回(同29日)では、30%、40%を何がなんでも達成するといった義務的なものではないと考えていると発言していた。電力の自由化枠は2007年に一般消費者まで拡大するかどうかの議論が始まる。あくまでも3~4割にこだわるのなら、自由化のいっそうの拡大は困るといっているかのようだ。
吉岡委員が「あまりにも内容がひどい」と評した資源エネルギー庁作成の資料は、担当課長によれば、省庁内の稟議を済ませ、原子力委員会事務局とも十分に議論・合意を得た上で提案したとのこと。2100年までの展望を示した長期見通しと原子力の位置づけは、何がなんでも原子力マイナス成長計画は示さないという大前提から出発しているようだ。
その奇妙さは「見通し」に現れている。2006年をピークに人口が減少すると予測して最終エネルギー消費は2000年比で78%まで低下する見通しを示しながら、電力需要は131%に増大するという。原子力は2030年までに設備容量5800万キロワットに増えた後は一定で推移する。しかし、それだけでは十分に対応できないので、極めつけのセリフが「原子力か新エネルギーかではなく、原子力も新エネルギーも」である。原子力の廃炉問題については軽水炉の新設で対応するが2050年くらいから高速増殖炉が導入されると、高速増殖炉推進派にエールを送っている。ただし、経済性などの諸条件が整うことを前提にした見込みであると藤委員(電気事業連合会)は発言の中で念を押した。
興味深いところもある。例えば、資料の「原発を取りまく環境」の項でエネ庁が行なった電気事業者へのヒアリングの結果として、電源選択のキーは①経済性、②投資リスクとなっており、国全体のエネルギー政策との整合性というキーは6番目にランク付けされている。電力自由化が進む前は国との整合性は上位にランクされていたとのこと。確かに大きな環境の変化だ。
それはともかく、廃炉に軽水炉の新設で対応するといっても、コストが高い、建設費が膨大である、電力需要の長期低迷などの点から、軽水炉の新設はできないだろう。そこで、高経年化対策という名の60年運転や定期検査の柔軟化、出力増強といった原発酷使策が出てきているわけだ。
(4月16日)