電気事業分科会への要請書(コストから原発を考えるプロジェクト)

2004年7月15日

総合資源エネルギー調査会電気事業分科会
分科会長 鳥居 泰彦様

要請書

コストから原発を考えるプロジェクト

■はじめに
 7月2日、経済産業省のロッカーから、わずかながら残っていた原子力政策への信頼が崩れ去りました。原子力政策とは、現行の原子力長期計画及びエネルギー基本計画に示された現行の原子力発電及び核燃料サイクルに関する基本的政策ばかりではなく、虚偽報告を重ねて運転してきた原子力発電や日本原燃などの民間事業者が地元への陳謝と説明などで回復しつつあった信頼も一緒です。
 7月14日、わずかながら残っていたバックエンド事業に対する制度・措置の在り方についての審議への期待感も崩れ去りました。期待感とは、核燃料サイクル政策についての原子力委員会での見直し議論をはじめ国民的議論の結論を待った上で、中間報告案の取りまとめを行うべきとする消費者・市民の要望を、鳥居分会長が受け止めてくれるだろうという期待感でした。
 こうした期待を裏切ったことに対し、私たちは強く抗議します。期待と信頼を回復できる芽が残っているとすれば、まず中間報告案への意見募集を中止し、中間報告案を白紙に戻し、試算隠しの徹底究明と全面的な情報公開を行いうことです。
 重ねて私たちは意見募集の開始に対し強く抗議します。

■7月14日まで
 6月18日、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会は第20回会合で、中間報告(案)「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」を修文の後にパブリックコメントを行うことを確認しました。およそ1ヶ月経た7月14日までに、パブリックコメントのために修文された「中間報告(案)」は公表されませんでした。その「中間報告(案)」では核燃料サイクルの在り方について、原子力委員会「新計画策定会議」をはじめとした政府内の検討や国民的な議論が深められることの期待感が強調されていました。

 新計画策定会議は6月21日の第1回に引き続き7月8日に第2回が開催され、すでに核燃料サイクルの在り方についての本格的な審議が始まりました。7月16日に開催が予定されている第3回では、分類された政策ごとの評価の視点が具体的に事務局から示され、核燃料サイクル政策についても経済的な視点ばかりではなく、たとえば安全性、資源特性、環境適合性、保安特性、システムとしての実現可能性などの評価視点を示すものと理解しています。また、原子力委員会では、個別の評価視点の審議を深めるために作業グループを設置することも考慮されています。

 このように、電気事業分科会の「中間報告(案)」が新計画策定会議に紹介されることなく、核燃料サイクルの在り方についての本格的な審議が進んでいます。新計画策定会議には、電気事業分科会委員も兼ねる委員が多数出席していますが、「中間報告(案)」の検討は提案されてはいません。他方、後述する「この間の経過」にある過去の再処理と直接処分の経済的比較についても、新計画策定会議で審議しないことが方向付けられました*。

*「私は原子力委員会を通して多くの傍聴の方に御隣席いただきながら公開でこのような議論をしていることは十分関係者が理解をしていると思っていまして、それにもかかわらず、それなりのアクションを立てられるのは、それなりの説明をお持ちなんであって、それはそちらにお聞きするべきものかなと。私自身は我々がその問題について真摯に議論していることが伝わることをもって、十分な私どもの問題意識が伝わるに違いない。特に口頭で個別対応のアクションするつもりはございません。」(7月6日新計画策定会議での近藤座長の発言)

 「核燃料の再処理費用負担、枠組み案公表先送り、経産省方針」(日経7/7)、「宙に浮く再処理支援策」(日経7/9)と、「中間報告(案)」のパブリックコメント手続きに着手できない事情が取材されています。「中間報告(案)」は、実現可能性が見通せない六ヶ所再処理工場が稼働率100%で操業した場合という1ケースのみを前提としたために柔軟性が全くなく、将来の政策評価を可能とするための資料としては利用できないことが明らかとなったと考えます。

■7月2日からの経過
 3月17日の参議院予算委員会で日下一正資源エネルギー庁長官(当時)は「日本におきましては再処理をしない場合のコストというのを試算したものはございません」と答弁しました。しかし、1994年2月17日の総合エネルギー調査会原子力部会核燃料サイクル及び国際問題作業グループに通産省・資源エネルギー庁原子力産業課(当時)が作成した「核燃料サイクルの経済的試算について」があり、これをもとに10数名の委員と科学技術庁(当時)の事務局を加え、20数名で審議していたことが7月2日になって明らかとなりました。
 また、98年3月に通産省(当時)の外郭団体、財団法人原子力環境整備センター(当時、現・財団法人原子力環境促進・資金管理センター)が、「将来の使用済燃料対策の検討(その3)報告書?使用済燃料の直接処分を考慮した核燃料サイクルバックエンド費用の検討」という文書を作成していたことも明らかとなりました。
 94年の「核燃料サイクルの経済的試算について」は、3月17日の参議院予算委員会の答弁資料作成担当であった安井正也電力・ガス事業部原子力政策課長(当時、現・欧州中東アフリカ課長)が事務方の要職(原子力産業課総括班長、企画振興班長兼係長、総務課原子力広報推進室付の職員など多くを兼任)を務めていました。議事概要では、電力事業者委員から「多少コストがあがるかもしれないが、核拡散抵抗性を高めた方がいい。また、電気料金が若干高くなろうと長期的判断から経営資金を割いても再処理事業に投入していく必要がある」との発言がなされています。

 7月6日には、1994年2月10日に開催された原子力委員会長期計画専門部会第二分科会で「軽水炉によるプルトニウム利用に関する経済性について」という文書をもとに、OECD/NEAのコスト比較に係る分析を行っていたことを原子力委員会が公表しました。同時に示された原子力委員会長期計画専門部会第二分科会の報告書「将来を展望した核燃料サイクルの着実な推進」(94年6月22日)の抜粋では、「軽水炉でのリサイクルと直接処分の経済性については、」に続く次の部分に下線が引かれています。「使用済燃料を直接処分する際の主要因子である技術的課題、コスト等がそれぞれの国のおかれている状況によって大きく異なり、不明確であるために厳密に比較することは困難である」と。

 7月7日には、1994年度から95年度にかけ、原子燃料サイクルコストについて、各電力会社の原子力部門のメンバーで構成される検討会を開き、直接処分を含むケーススタディを行っていたことを電気事業連合会が公表しました。電気事業連合会は公表にあたり、「原子燃料サイクルコストのケーススタディの骨子」を別紙とし、「研究報告(要約)」を1996年2月のとりまとめ資料として添付しています。

■経過に見る問題点
一.国と民間の違いはあれ、核燃料サイクル政策と核燃料サイクル事業は、この間に明らかとなった試算時から継続してきたものであり、かつこれらの試算に直接関わった人物が核燃料サイクル政策と核燃料サイクル事業での重責を負う役職であることから、これらの試算の存在に気付かなかったという説明は信じ難い内容です。

一.議事概要にある電気事業者の発言では「経営資金を割いても再処理事業に投入していく必要がある」という事業方針が示されています。事業者は、廃棄物処分や解体コストが見積もれなかった時期から、こうしたコストを負担する事業計画をもっていたものと考えられます。

一.電気事業連合会が公表した「研究報告」は要約であり、当然、本編があるものと考えられます。
 

■ 要請事項
 今回のバックエンドの措置は、「いままで想定されてこなかった未回収の費用が発生しているのでこれを平等に回収する制度をつくる」ためであったはずです。今回のデータ隠しで、いままで積み重ねられた「何が想定され、何が想定されてこなかったのか」の審議に対する信頼性が失われました。いわば、前提が完全にひっくりかえったわけで、今回の中間報告案についての意見募集は中止し、中間報告案を白紙にもどし、検討し直す必要があります。

一.電気事業分科会において、この間問題となっている試算の資料をすべて国(経産省と原子力委員会)と民間(電気事業連合会)から提出させ、なぜこれらの試算に基づいて再処理しない場合とする時の議論を発展させなかったのか、なぜこれらの資料が、試算当時はもとより、昨年来、まさに貴分科会においてコスト問題が審議されてきた時期においても公表されなかったのかなど、経過についても説明を求めることを要請します。

一.再処理費用の未回収となっている部分、たとえば再処理工場の廃止費用などについても試算していたデータがあるのではないか。国の機関および民間事業者のロッカーなどを調べ直すことを要請します。

一.エネルギー基本計画等で求められた「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方」のとりまとめの時期が遅れることにより発生する問題点を明らかにし、その対応策について審議することを要請します。

一.電気事業分科会では、中間報告「バックエンド事業に対する制度・措置の在り方について」案への意見募集をただちに中止し、白紙にもどすことを要請します。

コストから原発を考えるプロジェクト
事務局:グリーンピース・ジャパン
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「コストから原発を考えるプロジェクト」は、消費者団体、環境保護団体、脱原発団体の連合体です。原発のコストの問題に焦点をあて、市民や国会、電力会社などに、「もう、原発はやめていこう。他のやり方をすすめよう。」と呼びかけていきます。当面の課題として、原発コストを大幅に増やす核燃料の再処理は止めるべきであることをアピールし、原発に偏った経済的優遇措置や税金投入への動きを監視していきます。

呼びかけ団体(アイウエオ順):核燃やめておいしいごはん/グリーン・アクション/グリーンピース・ジャパン/原子力資料情報室/原水爆禁止日本国民会議/ストップ・ザ・もんじゅ東京/東電と共に脱原発をめざす会/日本消費者連盟/ふぇみん婦人民主クラブ/福島老朽原発を考える会