東北電力女川原発周辺の放射能汚染について

東北電力女川原発周辺の放射能汚染について

古川路明(理事)

 2006年8月、女川原発の周辺で放射能汚染があることが報じられた(記事1、記事2)。その内容について、私の考えていることを述べてみたい。
 ここで問題になっている放射能は、コバルト60などとヨウ素131であるが、両者はかなり性質が違うので、別途に考えてみたい。

1.コバルト60など
 コバルト60(半減期、5.3年)、コバルト58(71日)とマンガン54(310日)は、いずれも中性子による核反応でつくられる。加速器の内部と周辺にも存在するが、この場合は発電炉の運転によって生じたものと断定してよい。発電炉の一次冷却水中に含まれるコバルト、ニッケルと鉄に中性子があたると、それぞれコバルト60、コバルト58とマンガン54が生じる。このような放射能は冷却水が通る配管の内側に「放射化生成物」として付着しやすい。BWR(沸騰水型原子炉)の定期検査の際に原子炉の外に放出されることが多かった。特に、運転開始が早かった敦賀原発第一号炉と福島第一原発第一号炉ではその傾向がいちじるしく、作業員の体内にコバルト60とマンガン54が入ったり、原子炉施設の外に微粒子として排出されたものが松葉の中から検出されたことがある。浜岡原発周辺で採取された松葉の中にも含まれていた。
 そのような背景を考えると、今回のように浄水槽の中で検出されても何の不思議もない。放射能量としてはわずかであり、危険はほとんどないと思うが、汚染が広がることは望ましくなく、今後の慎重な放射線管理を望みたい。

2.ヨウ素131
 ヨウ素131(半減期、8.1日)は、体内に入ると甲状腺に集積し、そこに大きな放射線影響を与える。1×10^6ベクレル(100万ベクレル)を経口摂取すると、30ミリシーベルトの実効線量を受けると考えられている。
 ヨウ素131は核分裂によってつくられると考えてよい。核分裂が大規模に起こるのは原子炉運転である。運転中の電機出力100万キロワットの発電炉の中には3×10^18ベクレル(1兆ベクレルの300万倍)が存在している。起源として原子炉が考えられるのは当然である。
 放射線による診断と治療のためにヨウ素131が用いられることがある。がん治療では、1×10^8ベクレル(1億ベクレル)以上を用いると考えられるので、患者の排泄物などに含まれる放射能は環境汚染の原因となりうる。ただ、このような目的に用いられるヨウ素131は特定の経路を経て病院などに供給されているはずであり、それを調査することは容易であろう。
 もう一つの起源は再処理工場であるが、ヨウ素131の寿命は短く、原子炉運転中に生じたものはすべて消滅している。保管中の核燃料内で起こる核分裂によって生じるもののみが問題であり、六か所村再処理工場で1年間に処理される予定の800トンの核燃料中に含まれるヨウ素131の量は1×10^12ベクレル(1兆ベクレル)を超えるとは思えない。
 今度の海藻の汚染の起源を特定することは簡単ではないが、六か所村から女川原発までの距離が約300キロであることを考えても再処理工場の影響は除外してよい。「記事2」によると、原発の影響を除外し、起源を医療に求める意見が載っているが、これは早計であろう。上に述べた通り、医療に用いる放射能の起源を調査することは難しくはないはずである。私はそのような放射線治療が原発付近の病院などでおこなわれたとは思っていない。考えにくいことではあるが、私は原発からの放出がもっとも重要であると考えている。
 検出された放射能量はわずかであり、健康に影響があるとは思えないが、起源を確定することは今後のために重要であり、東北電力と宮城県によるさらなる調査を求めたい。

【記事1】河北新報(8月15日7時2分更新)
 東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)敷地内の放射線管理区域の外から人工放射性物質「コバルト60」「コバルト58」「マンガン54」「ヨウ素131」が検出されたことが14日分かった。いずれも微量で、人体への影響はないという。周辺海域から「ヨウ素131」が検出された問題の調査過程で発覚した。(以下略)

【記事2】 毎日新聞(8月26日朝刊) – 8月26日13時1分更新
女川原発前面海域のヨウ素検出:汚染源は原発ではない--環境保全監視協議会/宮城
 東北電力女川原発(石巻市、女川町)周辺の海藻から放射性物質・ヨウ素131が検出された問題で、県や専門家で構成する環境保全監視協議会は25日、汚染源は同原発ではない、と結論付けた。ただ、原因は特定されていないため、県は調査を継続する。(以下略)