福島第一原発事故収束作業の矛盾が噴出

『原子力資料情報室通信』第465号(2013/3/1)より

多重下請け構造の廃止、線量限度超えの労働者に仕事や賃金の保証を!

 

 東京電力が1月31日に公表した、2012年12月末日までの作業者の被曝線量の評価状況についてのデータをもとに、2011年3月11日から12年12月末日までの作業者の外部被曝と内部被曝の累積線量を表1にまとめた。
 累積総被曝線量を計算してみると、約30万人・ミリシーベルト(=300人・シーベルト)と膨大なものとなった。うち約70%は下請け労働者の被曝である。2011年3月、事故直後から対応にあたった東京電力社員が圧倒的に大きな被曝をしたが、翌4月以降は下請け労働者の被曝が大きくなっている。
 2012年12月3日、東京電力が公表した「福島第一原子力発電所従事者の被ばく線量の全体概況について」によれば、「全体的な状況から発電所の線量は改善してきている。大半の作業者の被ばく線量は線量限度に対し大きく余裕のある状態で解除されており、その後も放射線作業に従事可能なレベル」と、きわめて楽観的に捉えている。
 1ヵ月の被曝線量が10ミリシーベルトを超えた作業者数は12年10月で20人(最大16.94ミリシーベルト)、11月は15人(最大19.28
ミリシーベルト)、12月は8人(最大15.85ミリシーベルト)となっている。2009年度のデータでは、作業者の年間被曝線量は94%が5ミリシーベルト以下、被曝の最大値が19.5ミリシーベルト、平均線量1.1ミリシーベルトであったことを考えると、現在の福島第一原発がいかにきびしい現場であるかが改めてわかる。東京電力は、労働者は桁違いの被曝をしていることをきちんと認識するべきである。

若年労働者の大量被曝

 東京電力は、福島第一原発事故の復旧作業に携わった作業員の被曝に関するデータを世界保健機構(WHO)の要求に応じて、作業員の年代別線量、内部被曝線量分布、甲状腺等価線量の分布などを2012年3月に提出した。12月6日に公表された資料をもとに年代別の被曝分布を表2にまとめた。
 若い労働者が大量の被曝をしている。事故後、中央操作室で作業を続けた方々にヒアリングをしたとき、「最初は若い人の被曝はできるだけ避けようと、現場に向かう輪番を工夫したが、一巡したら人員が足らなくなって、若い人もローテーションに加えざるを得なくなった」という話を聞いた。平常時には中央操作室は放射線管理区域ではなかったので、線量計やチャコールフィルター付きマスクなど被曝に対する備えはほとんどなかった。また長時間、緊張を強いられる中での作業で、飲食さえも汚染した場所でせざるを得なかったことが大量の内部被曝をもたらした。
 内部被曝について、東京電力は「2012年1月20日以降、内部被曝をした者はおりません」としているが、疑問である。また、東京電力は2ミリシーベルトを記録レベルとし、「記録レベル未満の線量は放射線管理手帳に記入しない」としているが、どんなに低い線量であっても記録はしなければならない。

原子力事業者の責任を明確に

 2012年7月に発覚した鉛板で線量計をカバーするという被曝隠しは、被曝線量の測定、記録等を義務づけた電離放射線障害防止規則(電離則)の第8条、9条などに違反し、労働安全衛生法第22条で事業者に義務づけた「放射線による健康障害を防止するための措置」に違反する。
 問題となった作業は、原子炉を設置している事業者としての東京電力が、関連会社である東京エネシスに発注したものである。東京エネシスは、仕事をさらに下請会社に発注し、その一部をビルドアップ社(以下、ビルド社)に請け負わせた。
 労働安全衛生法第2条第3号では、事業者を「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と規定している。この場合の事業者とは労働者を雇用しているビルド社となる。鉛カバーを思いつき実行した役員と、法人としてのビルド社が処罰の対象となった。では、原子力事業者である東京電力と元方事業者である東京エネシスの責任はどうなるのか。
 厚生労働省は2012年8月10日、新たな行政通達「原子力施設における放射線業務及び緊急作業に係る安全衛生管理対策の強化について」(基発0810第1号)を発出した。この行政通達は、緊急作業を含めた安全衛生管理全般にわたるものであり、法律では義務づけられていない原子力事業者や元方事業者によるさまざまな管理的な実務を具体的に示し、行政指導の枠組みで事実上の義務付けを図るとしている。
 しかし、行政指導では明らかに限界がある。原子力施設において安全衛生対策、被曝管理をきちんと行うためには、労働安全衛生法上での義務主体を原子炉等規制法とあわせて、原子力事業者が全体を把握し責任を担う体制が不可欠である。そのための新たな法律的な枠組みが必要だ。

下請け構造での労働者の賃金、線量を超えた労働者の補償問題

 厚生労働省が2012年10月30日に公表した「東京電力福島第一原発における線量管理の実態調査取りまとめ」では、「線量限度に達した労働者に対する措置」の項で「1次以下の請負業者では、元方事業者の定める線量限度が近づくと、今後について労働者と話し合いを行い、おおむね以下の対応をとっている。総合建設業者では、元方事業者の線量限度に近づくと、発電所構内の低線量作業に配置換えし、それでも超えた場合は一般建設作業や除染作業等へ配置転換する(転職の場合もある)。(中略)原発専業業者では、原発以外の仕事につくことが難しいことから、被曝が均一になるよう全国の支店で作業者のローテーションを行っている。それでも元方事業者の定める被曝線量に近づいた際は、構内の線量の低い作業や除染作業に配置換えを行う予定である」という対策を示している。
 このような対策がとれるのは、第1次、2次下請けなど労働者の身分保障がある程度できているところに限られるだろう。大多数のそれ以下の下請け構造にいる労働者は、賃金も中間搾取されていて、被曝線量が限度を超えると失職してしまう。
 一連の調査のなかで、偽装請負が多数存在することも明らかになった。多重下請け構造を撤廃し、労働者の賃金を補償しなければならない。また、線量限度を超えた労働者に仕事や生活保障をする体制も必要だ。この先数十年と続く廃炉までの期間、さらにきびしい作業が継続される中で、国の施策が急務である。原発が稼働して以来ずっと課題であったこの大きな問題に社会全体で向き合い、取り組まなければならない。

被曝労働者の健康管理と被害補償

 福島事故以前から労災補償問題などに取り組んでいる枠組みの交渉では、私たちは以下の事項を国に求め続けている。
①国の責任で、すべての緊急作業従事者に長期健康管理のための「手帳」を交付し、在職中、離職後を通じて無償の健康管理を行うこと
②すべての被曝労働者に「健康管理手帳」を交付すること
③食道がん、胃がん、結腸がんを労働衛生安全法施行規則第35条別表の認定対象疾病の例示リストに追加すること
④労災補償の認定基準や労災認定の考え方を、死亡者の遺族、離職者、現在被曝労働に従事している労働者、すべてに周知すること
⑤遺族補償の時効を取り払って、申請を受け付けること
 厚生労働省は、福島原発の緊急作業に従事した約1万9,000人のうち50ミリシーベルトを超えて被曝した約900人に限定して長期健康管理の「手帳」を交付するとしている。
 放射線影響研究所が2012年2月新たに公表した「原爆被爆者の寿命調査第14報」では全固形がん死亡について、被曝した放射線量がある値以下なら被曝影響はないという「しきい値」がないことがより明確に示された。
 厚生労働省は、放射線業務従事者の年間被曝限度の50ミリシーベルトを超えていることだけを「交付」の理由にしているが、これは残りの約1万8,000人の中から生じる被害を切り捨てるものである。従事した全員に手帳を交付し、漏れなく健康管理をするべきである。

(渡辺美紀子)

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