福島はいま(28)放射能汚染土を全国へ拡散する?/東京電力福島第一原子力発電所事故処理状況(2024年8月から2025年1月まで)

『原子力資料情報室通信』第609号(2025/3/1)より

■ まもなく、福島原発の過酷事故から14年目という日を迎える。わたしたちは今も「原子力緊急事態宣言」の下にある。被災し、避難した人たちには、平穏な日常は還らない。放射能に汚染したふるさとから離れて暮らす人たちはおよそ2万5千余名にのぼる(県内5千7百名、県外2万名、2024年11月現在)。
 放射性物質にどう向きあうか。たいへんな難問である。フランスのベクレルが放射能を発見したのは1896年。その後、科学者たちが原子の世界を解明してきて130年。分かったことは、放射能は半減期にしたがって減衰してゆくので、それを待つしかないということだ。その間、生命系と環境とをどうやって放射線から守っていくかである。放射性物質は拡散させず、集中管理するのが大原則なのである。

■ 福島県内で放射能に汚染された土砂などを中間貯蔵施設に集める事業が始まってから今年3月で10年になる。ダンプで206万回、1,400万m3(2024年12月時点)の大量の汚染土が双葉町と大熊町にまたがる1,600haという広大な地域に貯蔵されている。それは2045年3月までに福島県外に搬出すると法律 1)で決まっている。一定の水準以下の汚染土は再利用する方針だ。
 環境省は2月7日、汚染土の最終処分の方法として4つの案を明らかにした。①容量を減らさない、②ふるい分けする、③ ②+熱処理、④ ②+③+飛灰洗浄処理の4つで、1kgあたりの放射性物質の量は、順に、数万ベクレル、数万ベクレル、10万ベクレル~、~数千万ベクレルと試算された。最終処分量、および、それに必要な処分場の面積はこの順に減少する。例えば、①なら、約210万~310万m3で約30~50ha、④ならば約5万~10万m3で約2~3haである。
 前代未聞の大事故におそわれ、大慌てで作った法律 2)だが、「除去土壌の処分」のために、道路、堤防、農地などで一定の水準以下とはいえ、汚染土を使うのは間違っている。しかも「復興再生利用」と銘打ってだ。「放射性物質は集中管理」すべきなのだ。

■今回は、100ベクレル/kgと8,000ベクレル/kgの二重基準という誤りを犯そうとしている。
 1957年に施行された「原子炉等規制法」(「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」)では、原子力施設から出る廃棄物のクリアランスレベル(放射性廃棄物として扱わなくてよいレベル)は100ベクレル/kgである。だが、2011年8月に成立させた「除染特措法」(「放射性物質汚染対処特別措置法」)によれば、「事故由来放射性物質」とされるものは事実上の8,000ベクレル/kgがクリアランスレベルである。ともに放射性セシウムについての基準である。放射能の強さで仕分けるのではない。理に合わない。
 除去土壌の収集、運搬、保管、分類、処分などの作業者は外部被ばくを避けられないだろう。工事に伴う微粒子の土壌粉塵が浮遊する現場では、吸入による内部被ばくが深刻だ。工事現場を通りかかる通行者、近隣の住民なども内部被ばく者になる。
 事故や自然災害が起こったとき、想定外の事態になる心配もある。1月末に発生した埼玉県の県道陥没のような場合を連想してしまう。

■福島原発事故の後始末の作業がいつまで続くか、誰にも分からないが、百年を超えて続くのではないかとおそれる。その間、作業に従事する労働者は被ばくし続ける。事故以来、収束作業に従事してきた2次下請けの男性労働者が急性骨髄性白血病と診断され、労災認定された。それが契機で、元請け会社の被ばく労働管理責任が初めて認められたという報道があった。数少ない朗報である。
 原発を最大限に活用する、建替えも新設も認める、60年超運転もありうるという国の政策は、福島原発の過酷事故をなかったことにする背信行為だと言わねばならない。理が通らない。

(山口幸夫)

1)中間貯蔵・環境安全事業株式会社法
2)放射性物質汚染対処特措法


東京電力福島第一原子力発電所事故処理状況(2024年8月から2025年1月まで)

●プラントの状況
 格納容器や使用済み燃料プールの水温は季節変動があるものの、大きな変動は見られていない。また、ウラン燃料の核分裂時に生じるキセノン-135(半減期:約9時間)の発生状況にも変化はみられておらず、原子炉の状況は安定していると推定できる。なお建屋から毎時約2万Bqの放射性物質が放出されている(東電評価、2024年12月時点、図1)。

表1 使用済みプール処理状況

号機

概要

1号機

大型カバーを先行設置し、カバー内でガレキ撤去、燃料取り出しを行う方針。当初設置した建屋カバー残置物の撤去を2021年6月19日に完了。8月より大型カバー設置準備工事中(2025年夏頃完了見込み)。使用済み燃料は2027~28年度に取り出し開始予定。

2号機

2024~2026年度に燃料取り出し開始予定。燃料取り出し用構台設置後、原子炉建屋南側に開口を設け、燃料取扱設備を設置する計画。23年12月時点でオペレーティングフロアの除染・遮へい完了。また燃料取り出し用構台設置工事中。

3号機

完了(2021年2月28日)高線量機器取り出し着手(2023年3月7日~)

4号機

完了(2014年12月22日)高線量機器取り出し準備中(2024年度下期着手予定)

図1 福島第一原子力発電所1~4号機の大気への放射性物質放出量(ベクレル/時)

図2 平日1日あたりの平均作業員数(実績値)の推移

図3 パフォーマンス工場会議で審議された不適合件数推移

表2 ALPS処理済み汚染水海洋放出状況


 一方、時間の経過とともに、崩壊熱は大幅に減少している。そのため、原子炉への冷却水注水量は減らされている(2011年5月時点7~10m3/h→2025年1月時点1.4~3.8m3/h)。特に1号機では原子炉格納容器の下部にあるドーナツ状のサプレッションチェンバー(S/C)内の水位が高く地震の揺れなどの損傷が懸念されていたため、2024年3月から段階的に注水量を減らしていた(2月時点3.7m3/h→2025年1月時点1.4m3/h)。注水量の削減前の水位はS/C底部から約8.5mだったが、現在は約6.6mまで低下している。原子炉格納容器の上部にあるフラスコ型の部分(ドライウェル(D/W))の底部には1m程度、事故時の堆積物(デブリなど)がある(堆積物の上部はS/C底部から約7.5mと推定)ため、現在、堆積物は露出しているとみられるが、原子炉圧力容器底部温度は9月下旬をピークに低下している。なお、S/Cから原子炉建屋側に水が漏洩している。当初は0.02m3/h程度と推計されていたが、2024年12月以降、漏えい量が増加している(2024/12/31頃以降0.07m3/h程度、2025/1/15頃以降0.13m3/h程度)。
 使用済み燃料プールからの燃料取り出し状況は表1にまとめた。3・4号機では取り出しが完了した。1・2号機は準備中だ。
 遅延していた燃料デブリの試験的取り出し作業は2024年11月7日に完了した(詳細は本誌桜井論文を参照)。本作業に着手した9月10日午前7時20分(テレスコ式装置の先端治具がX-6ペネ接続構造の隔離弁を通過した時刻)をもって中長期ロードマップにおける燃料デブリ取り出し開始から廃止措置終了までの期間である「第3期」に移行した。
 一日当たりの作業員の推移を図2に示した。2024年12月現在4,690人となっている。不適合案件報告数は減少傾向にある。

●汚染水の状況
 福島第一原発における汚染水対策は大きく分けて①建屋に流入する地下水の減少、②海に流出する汚染水の減少、③汚染水の有害度低減、に分けることができる。建屋流入量の減少は、上流側から(A)地下水バイパスで地下水を汲み上げて海に放水(2025年2月10日現在953,611m3)、(B)福島第一原発1~4号機を囲う凍土壁(陸側遮水壁、全長約1,500m)を設置、(C)サブドレンで地下水を汲み上げて海に放水(2月9日現在1,801,404m3)、(D)舗装による雨水の土壌浸透抑制、を実施。海洋への汚染水流出対策については(A)海側遮水壁(鋼製)による地下水漏えい防止、(B)ウェルポイント・地下水ドレンによる海側遮水壁でせき止められた地下水の汲み上げ、などで対策している。こうした対策により、2014年5月に540m3/日だった汚染水発生量は、2023年度には80m3/日まで減少、2024年度も現在の100m3/日を下回っている。
 汚染水の有害度低減では、セシウムやストロンチウムを除去し、RO膜で不純物を取り除いた後、多核種除去設備(ALPS)で62の放射性核種を除去して、タンクに保管(2025年1月30日現在1,297,190m3、ただし過去の設備不具合や運用方針等により告示濃度以上のものが64%)。2023年8月24日からALPS処理済みの汚染水海洋放出が始まり、2025年1月までに10回、計78,285m3が放出された。表2にそれぞれの放出回の放出量とトリチウム放出総量を示した。徐々に濃度が高くなっている。なお2024年度は後1回の放出が予定されている。それ以外に建屋内滞留水約15,720m3、Sr処理水等8,946m3、RO処理水5,644m3、濃縮廃液9,463m3などが存在する。
 なおALPS処理水やSr処理水などが貯蔵されている1~4号機用貯蔵タンクの基数は2025年1月23日時点で1,083基。2024年度中にはJ9エリアタンク(12基)の解体着手が予定されている。また、事故当初用いられていた横置きタンク(367基、敷地内仮置き中)は11月6日から、内部が汚染していない未使用タンク(28基)の除染・解体試験を実施中だ。

(松久保肇)

福島第一原子力発電所 2024年8月~2025年1月までの事故一覧(原子力施設情報公開ライブラリー「ニューシア」から抜粋)

日付

場所

事故内容要約

報告義務事象

2024年

8月9日

2号機

使用済燃料プール

スキマサージタンク

2号機使用済燃料プールスキマサージタンクの水位低下を確認(使用済燃料プールの水位については低下せず)。原因調査のため、使用済燃料プール冷却系一次系ポンプを停止。ポンプ停止中の2号機使用済燃料プール冷却設備のプール水温度評価については、運転上の制限である65℃に到達しないことを確認している。なお、温度の初期上昇は0.06℃/h程度、プール水温度は最大で46℃程度と評価。漏えい箇所の特定調査、代替冷却を含めた系統復旧について検討中。

 

9月1日

サブドレン

9月1日、サブドレン他水処理施設一時貯水タンクC排水作業において、「港湾排水流量A偏差大」警報が発生し、排水を手動で停止(停止までの排水量:3m3)。現場状況を確認し、当該排水ラインからの漏えいがないことを確認している。9月23日にはサブドレン他水処理施設一時貯水タンクH排水作業において、「港湾排水流量計の指示上昇」を確認できず、排水を手動で停止(停止までの排水量:2m3)。現場状況を確認し、当該排水ラインからの漏えいがないことを確認した。原因調査の結果、当該排水ラインに使用している流量計(9月1日と同計器)にエラー表示が発生したため計器故障と判断し、流量計を交換。流量計交換後、正常に流量を計測できることを確認。

 

9月20日

免震重要棟休憩所

免震重要棟休憩所にて体調不良者(協力企業作業員)が発生。搬送先の病院で熱中症と診断された

 

9月25日

5号機

タービン建屋

5号機タービン建屋で作業中の協力企業作業員が右手小指を挟み負傷。右小指切断と診断(ただし縫合や皮膚移植が必要な状態であり、切断には至っていない)。

 

12月10日

5号機

タービン建屋

5号機タービン建屋地下1階で協力企業作業員が作業前の移動中に頭部をぶつけて負傷。搬送先の医療機関で「脳震盪・頭部打撲傷・非骨傷性頚髄損傷の疑い」と診断。なお、12月12日に職場復帰している。

 

2025年

1月10日

敷地内

保安検査官が現場巡視の際、協力企業作業員が発電機用エンジンを停止せずに、燃料(軽油)を補給していた事を確認。火災予防条例第30条(1)について、「危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、みだりに火気を使用しないこと」となっていることから、燃料を補給する場合はエンジンを停止する必要があった。再徹底とともに、手順書に反映。

 

 

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