ファクトチェック 原発再稼働で年間のエネルギー輸入額は半減は本当か

1月20日、日本経済新聞電子版に『5年周期説』円高を示唆 140円台へ、原発再稼働が左右」との記事が掲載された。円相場が5年周期で上下するという市場の経験則と原子力発電所の再稼働による貿易収支の改善により、円高に向かう可能性を示唆したものだ。記事内に事実に反する記述があったのでファクトチェックしておきたい。

問題は以下の箇所だ。

そんななか、新たな円高効果をもたらす手掛かりとして原子力発電所の再稼働が浮上している。

資源エネルギー庁は電源構成について、22年度で5.6%だった原発を40年度には2割程度にまで高めると計画している。

この流れを衆院解散・総選挙が後押ししそうだ。立憲民主党と公明党の新党「中道改革連合」は19日発表の基本政策で、「将来的に原発に依存しない社会を目指す」一方で、地元の合意を得られた場合には原発の再稼働を認めた。原発容認の党が増えれば政府目標の達成に近づきやすくなる。

JPモルガン・チェース銀行市場調査本部の斉藤郁恵氏は「原発再稼働が政府目標通り進めば、エネルギー輸入の減少と貿易収支の改善により企業主導の円売り圧力が緩和される可能性がある」と指摘する。

中部電力の浜岡原発(静岡県御前崎市)で不正な地震評価が発覚するなど再稼働の道のりは平たんではないが、斉藤氏は、エネルギーの転換が政府目標通りに進み、火力発電の構成比が23年の約半分まで低下すれば、年間のエネルギー輸入額は半減するとみる。その減少額は約720億ドル(約11兆3000億円)と試算する。

JPモルガンではあくまで円の軟調さは続くことをメインシナリオとしているが、原発再稼働は中長期的に円相場をサポートする要因になると指摘する。

エネルギーの輸入拡大による貿易赤字は東日本大震災以降、円に重くのしかかってきた。年間11兆円規模の円売り圧力が消えれば、相場に影響する可能性がある。

『5年周期説』円高を示唆 140円台へ、原発再稼働が左右

ここでは、①原発再稼働推進で、エネルギー輸入が減り円売りが圧力緩和される、②火力発電削減が政府目標通り進めばエネルギー輸入額は半減、という2つの見解が示されている。続けて読むと、あたかも原発再稼働でエネルギー輸入額が半減できるかのように理解できる。では本当にそうなるのだろうか。各種統計から読み解いてみたい。

まず貿易統計から年度別の鉱物性燃料輸入額を確認しておこう。2023年度は合計で26兆円、2024年度は合計で25.1兆円だった。2024年度の内訳をみると、原油及び粗油が10.7兆円、石油製品が3兆円、液化天然ガスが6.2兆円、液化石油ガスが1兆円、石炭が4.3兆円だ。

発電所では一体どれぐらいの燃料を使っているのか。経済産業省が取りまとめている電力調査統計の「火力発電燃料実績」には燃料受入量と消費量が示されている。日本国内ではほとんど鉱物燃料は産出していない[i]ので、副産物として出るガスなどを除くと、ここに掲載されている数値が概ね輸入燃料を意味していると理解できる。なお受け入れた燃料をすぐに使うとは限らないので、受入量が輸入量に近いだろう。また、貿易統計は輸入金額と輸入量が示されているので、単価を求めることができる。[ii]つまり、この燃料受入量に単価をかければ、火力発電所向け燃料輸入額の概算値を求めることができる。

その計算結果が以下だ。これに基づけば、火力発電所での燃料受入額は2023年度が7兆円、2024年度が6.6兆円だった。2024年度の内訳を見ると、原油及び粗油が0.2兆円、液化天然ガスが4兆円、石炭が2.5兆円だ。ここから、「火力発電の構成比が23年の約半分まで低下」したとしても、火力発電所の燃料費削減効果は3兆円~4兆円程度であることが推定できる。

原発の燃料であるウランも輸入エネルギー資源だ。いくらかかっているのかは、ある程度までは貿易統計で推定できる。2024年度の核燃料(品目コード8401.30-000 )の輸入量は56.2トン、輸入金額は115.9億円、すなわち1トン当たり2億円だった。100万kWの原発を1年運転するのに必要なウラン燃料は21トンなので、42億円かかることになる。[iii]仮に、2040年の電源構成に占める原発比率を2割(2200~2400億kWh)と考えると、3500万kW前後の設備容量が必要になる。そのため原発用のウラン輸入額は1500億円程度になる。また、2023年度の発電電力量は1兆kWh、うち火力発電の占める割合は72.6%だった。燃料受入額が7兆円だったので、kWhあたりの単価はおよそ9.7円となる。ここから、原発による燃料削減費効果は、仮に政府目標通りの原発比率になったとしても2兆~2.2兆円程度であることがわかる。しかもこれは2040年度の目標だ。現在の貿易収支にはほとんど影響を与えない。[iv]

なお、第7次エネルギー基本計画で政府は火力発電が2023年度の7260億kWhから2040年度は3300億kWh~4800億kWhに減少すると見込んだ。一方、再生可能エネルギーは2180億kWhから4400億kWh~6000億kWh、原子力は560億kWhから2200億kWh~2400億kWhに増加すると見込んでいる。火力発電の削減、ひいては輸入燃料削減にどちらがより貢献するかと言えば、再生可能エネルギーであることは明らかだ。

現在の円安要因の一つとして挙げられる円キャリー取引(低金利の円を借りて、その資金を外貨に転換して運用する取引)の規模推定は難しいが、たとえば国際決済銀行(BIS)が発表している国際与信統計における海外向け円建て融資(非銀行部門)の数字だけで40兆円を超える。これは氷山の一角で、実態はさらに巨額だと考えられる。記事は「エネルギーの輸入拡大による貿易赤字は東日本大震災以降、円に重くのしかかってきた。年間11兆円規模の円売り圧力が消えれば、相場に影響する可能性がある」と締めくくるが、これだけ巨大な円売り圧力がある中で、最大で2兆円程度の原発再稼働による遠い未来の貿易収支改善効果を円高要因として挙げることはほとんど妄想といってもいい。

日本を代表する経済紙である日本経済新聞には、事実に基づいた分析をお願いしたい。 

(松久保 肇)


[i] 釧路コールマインで石炭が採掘されているが、年間生産量は20万トンと、石炭輸入量1.6億トンに比べて誤差の範囲。また国内の天然ガス生産量は国内供給量の2%程度、石油生産量は国内供給量の0.2%程度。

[ii] 2015年度まではデータが異なる

[iii] ただし、これは輸入燃料の金額のみであり、国内でのウラン濃縮、燃料加工や再処理、放射性廃棄物処分といった費用を含むと、燃料費は大幅に増える。

[iv] 付言すると、円高に向かえば当然、鉱物性燃料輸入額は減る。つまり原発再稼働による貿易収支改善効果は小さくなる。また、化石資源輸入量はこの間、大幅に減少しているが、資源価格高騰や円安の影響で輸入額は増えている。

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