落雷で共倒れ事故―六ケ所で再処理工場・基本設計の欠陥―

 『原子力資料情報室通信』第500号(2016/2/1)より

 本『通信』(第495号)で事故の概要を報告した「雷による安全上重要な機器の共倒れ事故」に関する日本原燃の『再処理施設分離建屋における安全上重要な機器の故障について(最終報告)』が10月15日公表された。(12月7日に原因調査の実施内容や対策など記載の充実化を図った改正版提出)

安重の故障

 2015年8月2日夕刻、六ヶ所再処理工場で安全上重要な機器(以下安重(あんじゅう))の15の機器類が故障した。『報告』によれば「18時52分頃 、高レべル廃液供給槽セル漏えい液受皿の漏えい液受皿液位計のB系の異常を示す警報が発報するとともに、同A系の指示値が表示されない状態となった」ものである。実際には他に11 の安重の機器類、さらに安重以外の機器も14故障しており、前処理建屋、分離建屋、海洋放出管、北換気筒、淡水取水設備、制御建屋、主廃棄筒管理建屋、試薬建屋など、多数の建屋に及んでいる。

安重の共倒れ事故

 安重はそれぞれの機能の重大性から多重化され、その多重化した機器類が共通要因によって同時に機能喪失することがないよう設計することが、規制基準によって要求されている。しかし今回の事故では、複数の安重が落雷という共通要因によって機能喪失し、いわゆる「共倒れ」を起こしたのである。このような事故が発生したことは、再処理工場の基本設計にかかわる重大な欠陥と言わざるを得ない。

原因は落雷

 この事故原因について日本原燃は、当日の落雷を事故原因と推定している。JLDNという落雷を観測するシステムの記録では、事故が発生した2015年8月2日18時49分17秒~55分07秒の約6分間で、六ヶ所再処理工場の敷地内と周辺(6km四方)の範囲に26個の雷が落ちている。最も大きな落雷の雷撃電流の波高値(雷撃最大電流値)は、196kA(キロアンペア)である。主排気筒及び被害の多かった分離建屋に設置されている避雷針の目視検査では、落雷によるものと思われる溶融痕も確認されている。

雷サージ電流

 特に、主排気筒(高さ150m)への落雷が原因と推定されている。各建屋は地下トレンチで結ばれていて、その中に多数の伝送ケーブルを始め、プルトニウム溶液、高レベル廃液等の配管などが設置されている。日本原燃は、故障した機器類が設置されている各建屋と主排気筒がトレンチ等で繋がっているためとしている。再処理工場は、JEAG4608「原子力発電所の耐雷指針」に準拠した設計であるが、その想定最大雷撃電流は、波高値で150kAである。しかし今回事故時の落雷の雷撃電流値は196kAが観測され、雷撃電流が雷サージとなって構内接地系に流れ、一部が表面近くに埋設されているトレンチ等に分流した可能性が高い。主排気筒への落雷による雷撃電流は、1)トレンチ内の構造物に流れる、2)接地網を経由して誘導電流となる、などしてトレンチ内の伝送ケーブル等に影響を与えたと推定されている(図参照)。

事故対策

 今回の事故に対する日本原燃の復旧対策はほとんどが部品(ディストリビュータ)の交換という対処療法しかなかった。今後考えられている対策は、接地設計の改良、雷インパルス絶縁耐力を2kV以上とする等で、各建屋に個別に保安器を設置する。また、前処理建屋、分離建屋、ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋には、アイソレータ(入力信号と出力信号の間を直流的に絶縁する機器)を接地する、などである。しかし雷インパルス絶縁耐力を2kV以上に上げてみても、それで起こりうる落雷に対して十分だという科学的根拠はない。保安器やアイソレータが完全に落雷に対処できるという保証もない。

安全対策は再処理停止?

 日本原燃もこのような対策は不十分だと認め、「運用における対応」というさらなる対策を示している。しかしそれは、信じられない内容の対策だ。「(設備対応前)安全上重要な機器の運転状態を把握することができないと判断した場合には、使用済燃料の再処理を停止する措置を講じる」、「(設備対応後)落雷による保安器の異常が発生している可能性が考えられる場合には、再処理の運転を停止する等の措置を講じる」。これらの対応について必要事項を事業変更許可申請書に記載する、というものだ。

 施設の運転中、使用済燃料のせん断中、プルトニウム溶液や高レベル放射性廃液の送液中の場合など、「使用済燃料の再処理を停止する」とは、一体どういう事態を示しているのか。具体的、詳細な検討もないまま、中央制御室でデータが読めないので「運転を止めればよい」とでもいうのであろうか。これではとうてい対策とは言えないだろう。落雷という共通要因によって二重化された安重が機能喪失したのであるから、落雷に対して共倒れしないように機器、設備の変更、施設の根本的な設計変更等を検討するべきである。同一のトレンチに同系のライン、ケーブルを設置していれば今回のような共倒れ事故を防ぐことはできない。もし仮にそれができないのであれば、落雷対策は不可能ということだ。
 六ヶ所再処理工場では、臨界や温度、漏えいなど施設の運転状態を24時間監視する必要がある。そのために膨大な数の計器類が設置され、それによって安全を確保している。ところがデータが読めない場合、「使用済燃料の再処理を停止する」という。しかしデータが読めないのに安全に停止したことを、どのように確認できるのだろうか。これは落雷から施設の安全性を確保する設計はできないこと、落雷という一自然現象への十分な対策が取れないことを、事業者日本原燃自身が認めていることにほかならない。工場の基本的設計の重大な欠陥である。  

(澤井正子)

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