アメリカでの原発建設に日本から金融支援?ごまかしの「地球環境保険」に異議あり
アメリカでの原発建設に日本から金融支援?
ごまかしの「地球環境保険」に異議あり
経済産業省は7月、日本貿易保険(NEXI)に「地球環境保険」制度を創設し、2009年1月を目途に運用を開始する、と発表しました。「我が国とともに地球温暖化対策に真剣に取り組んでいく開発途上国を支援していく」というのが趣旨ですが、なぜか制度の中身は「開発途上国に限定せず全世界を対象に」しています。
適用対象となるプロジェクトの例として、原子力発電関連のプラントおよび単体の設備・機器の輸出が挙げられていることと、明らかにつながった制度設計です。想定されているのは、アメリカでの原発建設です。
報道によれば、国際協力銀行(JBIC)の国際金融部門など4つの政府系金融機関が統合して10月に発足予定の日本政策金融公庫でも、途上国向け融資に限られるとしながら、原発建設は例外として先進国向けの融資を認める方針だとか。6月7日に甘利経済産業大臣(当時)とボドマン米エネルギー省長官が発表した日米原子力共同声明でも「政令を制定することにより、先進国向け投資金融は可能となる」と明記されています。
NEXIの付保と連動したものでしょう。
貿易に伴う日本企業のリスクのうち、通常の保険では救済できない相手国の送金制限、戦争、輸入者の倒産などをカバーする貿易保険は、かつては通商産業省(現・経済産業省)が直接運営していたものを2001年4月、中央省庁再編とともに独立行政法人日本貿易保険に移管されました(国が再保険引き受け)。さらに今後、全額政府出資の株式会社(特殊会社)に移行することが定められています。また2005年4月からは民間保険会社の参入もはじまっています。
そうした状況の中、産業構造審議会の貿易保険小委員会は7月22日、中間取りまとめ「今後の貿易保険制度の在り方について」をまとめました。同とりまとめは言います。「地球環境問題が世界的な課題となっている中で、優れた環境・省エネ技術等の海外展開を促すことが、我が国の国際的責務となっている。さらに航空機や原子力関連事業など、海外展開に当たって極めて高いリスクを有する事業の実施については、我が国においても国がリスクカバーを行うことが求められている。このような環境変化の中で、貿易保険においては、国家戦略と一体となった運営が益々重要となっている」。
それなら株式会社化したり民間参入を促したりせずに国が直接運営したほうがよさそうですが、それはともかく、上記取りまとめが求めていた2つの重要課題をひとまとめにしたのが「地球環境保険」だと言えます(別にもう1つ求められていた重要課題は、すでに資源・エネルギー総合保険として運用されている「資源獲得を引続き支援すること」)。
しかし、「環境・省エネ技術等の海外展開」と原子力関連事業とは、ひとまとめにしうるものなのでしょうか? 原子力関連事業が「地球環境」の名にふさわしいかどうか、温暖化防止に有効なのか、放射能災害はどう考えるのかといった問題もありますが、貿易保険を付保すべきリスクの性格も対象国もちがうものをひとまとめにしてよいのかが、大きな問題です。
6月23日の産経ニュースは、「米国内の金融機関でさえ原発建設への融資経験が乏しくなり、『新規建設計画への融資が集まりにくい状態』(資源エネルギー庁)にある」と報じました。そんなアメリカでの原発建設を助けるために、まさに「極めて高いリスクを有する」からと単独の「米原発支援保険」を設ければ世論の反発は必至です。そこで(航空機はさておいて)「地球環境保険」にこっそり紛れ込ませたということでしょう。
一方、JBIC‐日本政策金融公庫がどのような形で先進国向けの原発建設への融資を認めるのかは不明ですが、同様の姑息な手段がとられるかもしれません。
日本原子力産業会議(現・日本原子力産業協会)の原子力国際展開懇談会は2005年4月、「原子力産業の国際展開に関する提言」をまとめました。そこでは、次のように述べられています。
「JBICによる先進国向け融資原則禁止は、本来民間金融機関の業務の圧迫を避ける趣旨で定められたものと思われるが、先進国向けであっても、民間金融機関は原子力発電所建設に必要な超長期の融資を行なうことが困難な場合もあることから、原子力発電プラント輸出に関しては、原則禁止の見直しを図る余地があると考える」。
アメリカで原発を建てるのに、国内の金融機関からの融資が、同国の債務保証制度があってもなお集まりにくいため、日本政策金融公庫が一部融資をし、さらにNEXIが保険を引き受けることで日本の民間金融機関からの一部融資も可能にする――というのが、考えられていることです。「極めて高いリスク」の程度すら超えており、はじめからむりな考えであると言わざるをえません。
アメリカが核兵器国であることにも、日本からの輸出については十分な考慮が必要です。
にもかかわらず、現在検討されているJBIC/NEXIの「環境社会配慮のためのガイドライン」においても、原子力関連事業は、環境社会面において抱えるさまざまな課題への対応をあいまいにした形で、安易に融資や付保が認められようとしています。
日本電機工業会の中川晴夫原子力部長(当時)は『電機』2002年10月号で、原子力プラント等の輸出に際しては、核拡散、安全性確保、原子力事故時対策、使用済み燃料や放射性廃棄物の責任の所在の明確化などが条件とされると記しています。外国為替及び外国貿易法にもとづく「安全保障貿易管理」が経済産業省によって行なわれ、また同省による「安全確認」が行なわれます。
とはいえ詳細は明らかにされていないばかりか、そうした手続きがあること自体、ガイドラインにもどこにも示されていません。
私たちは、「地球環境保険」の対象から原子力関連プラントおよび単体の設備・機器を除外することを強く求めます。また、以下の点をあわせて要求します。
一、「地球環境保険」の対象は、「開発途上国」に限ること。
一、日本政策金融公庫の融資対象に例外を設けないこと。
一、JBIC/NEXIの環境社会配慮ガイドラインでは、原子力関連事業が抱える課題に正しく対応した、有効なガイドライン、チェックリストを設けること。
一、原子力関連プラント等の輸出管理を透明化すること。
(西尾漠)